異例なケース
砦に帰還後、エリアスはテルヴァへ報告をしに行くことに。ちなみにフレンはその場におらず、エリアス単独であった。
部屋をノックして入ると、仕事をしているテルヴァの姿があった。騎士メイルもおらず、部屋の中には二人だけだ。
「今日の仕事は終わったが……」
「報告は聞いている。その調子であれば、あっという間に仕事も馴染めるだろう」
テルヴァは答えると手を止めてエリアスを見据えた。
「何か感じたことなどはあるか?」
「最前線では色々と模索して、開拓を続けることができる体制を築いているのだとわかった」
「……これまで開拓は、一部の能力に秀でた人物が主導で行い、一気に進展してきたという経緯がある。大規模な部隊を派遣していながら、一部の人間が開拓を行うという構図は、私に目から見てもずいぶんと歪であったのは間違いない」
「それを是正するために、色々とやり方を変えたのか?」
「そうだ……未来、開拓を続けていくのだとすれば、特定の人間に頼らずきちんと技術を継承していくシステムが必要だと判断した」
「……俺としてもそこについては同意するが」
エリアスは小さく肩をすくめつつ、テルヴァへ言う。
「ずいぶんと反発もあったんじゃないか?」
「ああ、確かにな……しかし、結果として開拓の速度は特定の人間に頼っていた時と比べても増しているくらいだ。その結果、私は現在も最前線における指揮官を担っている」
――その表情からは、やり方は間違っていない。自分の手法が正しいという強い自負が込められていた。
「汎用的な手段を開発したことで、騎士達の消耗も少なくなった。今後はこうしたやり方がスタンダートになっていくことだろう」
「そうか……テルヴァのやり方が浸透していくことになって、開拓が行える人物が増えればさらに速度も増すだろうな」
そうエリアスは述べた後――テルヴァへ改めて問う。
「俺は明日からも引き続け開拓作業を手伝う……で、いいか?」
「それで構わない。魔法を体得したのであれば、作業ペースも上がるだろう」
「わかった……と、一つ質問がある。テルヴァのやり方は開拓を進める上でも、犠牲者を減らすという面でも有効だとは思うが、そうした手法は例えば戦闘能力が周囲とは大きく隔てている、といった特徴を持つ人間について、どう扱うんだ?」
「反発がなければ他の騎士と同様に扱う。反発されたら色々と考慮した上で……最前線から離脱してもらう可能性も考慮にいればければならないな」
「最前線内における秩序の維持に支障が出るかもしれないから、か」
「そうだ……単純に実力者を集めるのではない。そもそも、本来は凶悪な魔物に対し騎士というのはどれだけ実力があっても相手からすれば大して変わらない存在だ」
テルヴァは執務机の上で手を組み、話し始める。
「魔物は本質的に人間と比べ魔力を多く抱えている。危険度が二を超える魔物であれば、本来は単独で戦うような存在ではない」
「その一方で、魔物の領域へ向かうこの最前線では、そのくらいの魔物は普通に出現する」
「そうだ。よって、単独でどれだけ強かろうと、凶悪な魔物を前にすれば必然的に対処はできない。故に、不和を起こすような存在ならお帰り願うし、何よりもルールと連携を重視する」
「地竜討伐も、そんな風に対処しようとしていた……が」
エリアスは無言となる。そこでテルヴァは、
「だが、聖騎士エリアスは地竜に単独で相対できた……異例なケースだ。なおかつ、戦果を得るために最前線で大暴れするような人間でもない」
「扱いやすく実力も異例だから俺をここに呼んだ……というのはなんとなく理解できた。ただ、俺としてはなんとなく別に何かしら目的があるんじゃないかと思っているんだが」
そう述べるエリアスに対し、テルヴァは眉をひそめた。
「その根拠は?」
「あくまで勘だ。俺を評価しているのは事実だし、最前線における犠牲者を減らすのであれば、俺のような人材だって欲しいところだろう。だから、他の騎士や勇者などから見れば、俺が最前線に来ること自体は特に違和感を抱かない。だが」
エリアスはテルヴァを見据える。
「そちらの話を聞いていると、どれだけ実力があろうとも重要なのは秩序と連携……俺という存在はその考えに対し、むしろ負の影響を与えてしまう危険性がある」
「そうだな」
テルヴァはあっさりと認めた。よってエリアスは話を進める。
「ならば、問おうか……戦力的に欲しいと考えて動いたのはわかるが、なぜ基本的な方針を無視して俺をここへ招いた?」
「……結論から言えば、ほしかった人材であったためだ」
「人材?」
「騎士は単独で魔物と相対することはせず、連携で対処するのが基本。だが、それでも……たった一人で戦線を維持できる人間がいれば、開拓を大きく進めることができる」
「俺の存在はある意味、劇薬ではある……その中で開拓をさらに進める、か……あなたがそこまで開拓に固執する理由は、一体何だ?」
問い掛けにテルヴァは一時沈黙したが……やがて、口を開いた。




