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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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属人的な開拓

 バート達は粛々と作業を進め、やがて昼を迎えた。仕事内容そのものは地味だが、少しずつ人間の支配領域を広げつつもエリアスとしてはやることがなかった。


「何か手伝えることは?」

「うーん……結界魔法や瘴気を取り払う魔法とかを学んでもらうか」


 ――というわけで、エリアスは指導を受けて魔法を扱えるように。内容そのものは簡単であり、一時間もすれば習得することができた。


「思った以上に簡単だな……いや、簡単にしないといけないのか、これは」

「そうだな、誰にでも扱えるようにしないと、開拓が属人的になる」


 バートはエリアスの感想に応じつつ、さらに続けた。


「これはテルヴァさんの方針でもあるんだが……属人化してしまうようではダメだと。長い時間を掛けて開拓は進んでいく以上、世代が交代しても同じようにやれる汎用的な手段が必要になってくると」

「ああ、それは理解できるな……その成果として結界魔法を用い、誰でも仕事ができるような手順を作り上げたか」

「属人的にすればもっと効率が良い方法はいくらでもあるんだろうけどな……実際、テルヴァさんが最前線の砦に着任する前は、かなり魔力を保有した魔術師が開拓に参加し、その人物の能力で開拓速度を引き上げていたらしい」


 そうバートが語る。途端、周囲の騎士なんかが彼へ視線を送る。続きを聞きたいらしい。彼はその反応にすぐさま気付くと、


「……話を進めると、確かに一時的な成果は上がり、開拓のペースも向上した。だが人に頼った結末は、砦の主が交代するという結末に至った」

「それがテルヴァか?」


 エリアスが問うとバートは首肯する。


「さて、ここで問題だ。開拓ペースも増していた中でなぜテルヴァさんに最前線の長が交代したのか?」

「……ヒント一つないと、あらゆる可能性が考えられるな」

「ならヒントというか選択肢を絞ろうか。色々勘ぐる話だが、少なくとも政治的な要素は皆無だった。例えば成果が上がった結果、魔術師が憎まれて誰かがその人物を更迭した、とかではないぞ」


(つまり、純粋にやらかした結果か)


 エリアスは心の中で呟くと、おおよその理由に見当をつける。その間にバートは、フレンへ視線を送った。


「答えは出たか?」

「……おそらく、急な開拓速度上昇により、他の騎士達がついてこれなくなった。結果、成果によって出世に目がくらんだ魔術師が独断で開拓を進め、騒動が起こったといったところでしょうか」

「おおよそ正解だ。やらかしたのは魔術師本人ではなく騎士だが。簡単に言うと、魔術師と組んでいた複数人の騎士がさらに開拓速度を引き上げようと提案した。魔術師は当初危険だと考えていたが、最終的に押し切られて行動することになった」

「その結果、魔物の襲撃などを受けた……と?」

「そういうことだ」


 バートは語ると周囲を見回す。まだ手つかずの森があるのだが、そこへ至るまでに仕込みは多数行った。


「道を作るべく、瘴気を取り払い結界魔法を行使した……が、無理な開拓を進めた結果、魔物に襲撃されて魔術師が大怪我を負った」

「それにより、砦の主が更迭した?」

「まず無理な開拓を行った騎士達が処分され、それを容認していた砦の長もまた処分された、というわけだ。確かに魔術師によって開拓速度は増したが、騒動を引き起こしたことによってその速度も帳消しとなった。むしろ、着実に開拓を進めた方が効率が良かったくらいだった」

「急いても意味がないというわけですね」

「ああ、その通りだ。一時の速度よりも、安定して開拓を進める方が効率も良くなるという話だな……テルヴァさんは誰か個人に頼るよりも組織的な動きで開拓を進めている。大きな魔物と戦う場合は連携も必要になってくるから、そういう意味合いでも組織力を優先しているわけだ」


(……その中で、ロージェスという存在から個の力も欲して俺に声を掛けたか)


 エリアスはさらに胸の内で呟く。それと同時、テルヴァとしては個の力に頼る方針を望まない――というのがなんとなく理解できた。


(彼の方針として望まない形だが、それでも必要だったというわけだな……まあ、相手が相手であるため必要な判断だったということか)


 全てをルールで決めてしまうのも柔軟性が欠けてしまう――聖騎士テルヴァは、魔物が跋扈する領域で指揮を執り続けるだけの理性と判断力を持っている。


「テルヴァさんのやり方は、ゆっくりではあるが怪我人も犠牲者も出ないように立ち回っている……ま、少なくとも現在のやり方に反対する人間はいないな」


 さらにバートは解説。フレンはそれに納得するように頷いた。


 ――その日、エリアスは夕刻になるまでバートと共に開拓を行った。魔物と遭遇することは最後までなく、空が茜色になってようやく砦へと戻ったのだった。


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