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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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仕込みの魔法

 翌日、エリアスとフレンはバートに帯同する形で砦を出た。隊はエリアス達を含めて十人ほど。バートが先導する形で一行は砦から進路を北へ向ける。


「今日は霊木『シュレイ』を制圧するための調査だ」


 そう語ると、本日回る場所について説明。砦周辺に存在する地面への仕込みを、霊木がある方角へ向け行うらしい。


「同時に周辺の調査も行う……今回は聖騎士エリアスと従者である騎士フレンの二名が新たに調査に加わる」


 そうバートが言うとエリアスは隊の面々に小さく一礼をした。


「それと、隊を二手に分けた影響で今回の調査が初めてという騎士もいる。よって、歩きながらこれまでの状況を改めて説明させてもらう。では、行くぞ」


 バートはそう告げると先頭で歩き出した。隊の面々はエリアスとフレンを含め彼に追随する形で森へ足を踏み入れる。


「現在の目標は霊木『シュレイ』周辺を制圧すること。現時点で『シュレイ』周辺には多数の魔物が存在しており、制圧のためにはそうした魔物を撃破する必要性がある……が、敵は可能な限り減らしたい」


 先頭を歩きながらバートは解説を進める。


「霊木周辺にいる魔物全てと戦う必要はない……凶悪な力を持っている魔物でも、人が近づくことで退散するような個体もいる。よって俺達は大地に結界魔法を仕込んで人の支配領域を広げる……それによって、魔物が警戒し霊木周辺から離脱することを狙っている」


(あの仕込みは結界魔法か)


 エリアスは心の内で呟く。本来結界魔法は障壁を構成し内外を隔て攻撃を防ぐものだが、おそらく魔物が嫌いような特性を地面に付与し、物理的な干渉をしないまま見えない結界として機能させるようにしている。


(より正確に言えば結界魔法の応用といったところか……敵の攻撃を防ぐ、といった能力を持っているわけではないが、魔物よけの効果を発揮し、なおかつ持続力などを高めて人の支配領域を広げている)


「ここまでで何か質問はあるか?」


 バートが問う。するとここで一人の男性騎士が小さく手を上げた。


「霊木周辺から魔物がいなくならない場合は?」

「現段階では検討中だ。そもそもまだまだ霊木から距離があるからな。とはいえ、仕込んでいる結界魔法はこれまで開拓を行ってきて多数の魔物を追い払った実績のあるものだ。凶悪な魔物であっても追い払ったこともあるし、ある程度まで数を減らすことができるはずだ」


 バートの言葉に男性騎士は納得したか「わかりました」と応じた。

 と、ここでエリアスがバートへ声を掛ける。


「俺からも一つ質問があるんだが」

「ああ、いいぞ……と、決闘で交流したが、ちょっと馴れ馴れしいか」

「いや、そのままでいいさ……質問だが、現段階で霊木まで到達するのにどのくらいの時間が必要だと考えている?」

「まずは霊木まで向かうための道を整備しなきゃならない。森をある程度切り開く必要性もあるため、相応の時間が必要だな。なおかつ、ただ道を整備しただけではさすがに危険だ。道を整備する間も、可能な限り支配領域を広げておきたいところだ」


 そう述べた後、バートは少し沈黙したが――やがて、


「そうだな、少なくとも一年くらいは霊木への道を作るのに必要だろう……もっとも、これは全てが順調にいった場合の話だ。実際は予定外の出来事も多いし、魔獣討伐に軸足が向いたらそれだけ遅れるな」

「なるほど……となると地竜討伐の際は、開拓自体があまり進まなかったか?」

「ああ、そうだ」


(痛し痒しだな)


 魔獣を討伐することで大きな戦果を得られると考えれば、功を立てるなら魔物を倒していくのがいい。しかし、開拓を進めたいのであれば魔物討伐は逆効果。


(地竜討伐なんかは、最前線で開拓をしたいテルヴァからすればあまり歓迎はしていなかったのかもしれないな)


「一年、という歳月は長いと感じるか?」


 ふいにバートから質問が飛んできた。それに対しエリアスは小さく首を振り、


「いや、現状を踏まえれば妥当な時間だと思う……まあ、人の手が入っていない領域へ踏み込むんだ。むしろ予想外でない方が珍しいだろうし、実際にはもっと時間を費やす必要性があるだろうな」

「そうだ……地味な仕事ではあるが、結界魔法の構築は最前線の中でも重要な仕事の一つだ。ここについてはあなたにも覚えてもらいたい」

「ああ、わかった……ちなみに、調査というのは魔物の領域に踏み込むのか?」

「そうやって動くこともある……が、それは安全圏を確保した上だ。これから先に進めばわかるが、人の手がまったく入っていない魔物の領域は、瘴気が濃く立ち入りがたい雰囲気を持っている。それを取り払い、結界魔法を構築して人間の領域だと魔物へ誇示する……基本的な活動は、そうした流れになる」


 そう述べるとバートは笑った。


「ま、やっていることは派手さに欠けるが……日々の地味な仕事が開拓を進ませる大きな要因となっている。今日のところはそれをしっかり理解してもらえれば、今日の成果としては十分だろう――」


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