聖騎士の目標
「目標は――魔物の領域を見たのであれば視界に入っただろう。巨大な樹木……あの場所を攻略することを、当面の目標にしている」
砦に戻った後、エリアスは単独でテルヴァの部屋を訪れ、目標について問うとそうした答えが返ってきた。
その部屋は彼の仕事場であり、以前の上司であったノークの部屋に近しいくらいにはシンプルな内装の部屋だった。
「巨大な……あの場所を目標にするのは理由があるのか?」
「あの場所は樹木を中心に特に魔力が濃い……加え、巨大な樹木――私達が『シュレイ』と呼んでいるその木には、古より莫大な魔力が蓄えられている」
そう語るテルヴァは、淡々とした調子で説明を続ける。
「魔物の領域ではあるが、その魔力が悪しきものではなく、自然と共生することによって得られた特別なものであるという調査結果が出ている」
「霊木、というわけか」
「そうだ。シュレイ周辺を制圧すれば、今後魔物の領域を開拓していく上で重要な拠点となれる。周囲の森を切り開ければ、山岳地帯に小さな村くらいは作れるだけの平地ができるだろう」
「そして霊木を活用し、魔物を寄せ付けないようにする……」
「そうだ。今後、さらに開拓を進める上で……私達が肉眼で見ることができていない領域へ進むための、大きな道筋になるだろう」
「……未来のことを考えて、霊木へ向かうというのは確かに良さそうだな。ちなみにだが、魔物の領域について、さらに奥というのはどうなっているのか把握しているのか?」
「森と山が広がっている。ただ使い魔を用いてはかなり高度がある地点からの調査であるため、細かい地形などの確認はできていない」
「近づくと魔物に襲われるか」
「ああ、それに加え奥へ進むほどに瘴気が濃い。ある場所を境に、上空に立ちのぼるほどの瘴気が存在している領域になる。そこから先は、使い魔ですら到達することはできない」
(……険しい道というわけだ)
エリアスは内心でそう呟きつつ、さらにテルヴァへ問う。
「森と山……使い魔を通して他に見つかったものとかはあるのか?」
「稀少な鉱石がむき出しになっている場所もあれば、巨大な穴が存在しているといった場所もある。人の手が入っていない、自然が生み出した領域は、人が足を踏み入れることすら困難という状況になるだろうな」
「まだまだ、先は長いか」
「無論だ。私の役目はルーンデル王国が今後、開拓を進める上で重要な拠点を作り出すことだと考えている」
「霊木……その影響を受ければ、魔物が近寄ってくることはないと?」
「大地から吸い上げた魔力……霊木のそれを利用すれば魔物を寄せ付けない処置ができると考えている。これは王都で実際に研究を行い、他の場所で活用されている魔法でもある」
「なるほど」
「加えて、霊木が吸い上げている魔力を活用、さらに技術力を高めれば魔物を寄せ付けない領域を広げることも可能だろう、と魔法を開発した人間は語っていた」
「つまり魔物の領域を接していながら、人間にとって安全圏を作り出すことができると」
「そういうことだ」
「ただそれ、地底については……」
「そこも心配がない。霊木周辺の地盤で地底奥深くに通じている洞窟などは皆無だ」
「そこまで調べているのか?」
「霊木シュレイに狙いを定めてから散々調査を行ったからな。あの場所は最前線における重要拠点になれることは間違いない」
――テルヴァは少しばかり熱を持って語る。エリアスは彼自身が開拓をドンドン進めるのではなく、既に未来を見据え開拓を確実なものとするために活動しているのだと認識した。
(堅実、というわけだ……それに『シュレイ』という霊木自体に相当な力があるわけだし、国側としては是非とも調査したいところだろう)
「……現在、霊木周辺に魔物はどのくらいいる?」
エリアスはテルヴァへ問う。
「様々な技術を応用し、霊木を使って恩恵を受けることができる……が、現段階では魔物の領域だ。当然ながら、魔物が膨大な魔力を利用しているんだろう?」
「そうだな。現在のところ『シュレイ』周辺には名前は付けられていないが、危険度四以上は堅いであろう魔物が何体も存在している」
「霊木の魔力を受けて魔物も強くなっているのか……」
「ああ……もし今後『ロージェス』と相対することになったら、その戦場は地底ではなく霊木周辺になるかもしれない」
「そうなったら、危険度の高い魔物と交戦する中で戦うことになる……そういうことも懸念したため、俺をここに呼んだのか?」
「そういう面もある……が、堅実にいくなら当然『ロージェス』を打倒してから霊木へ向かうべきだろう」
「確かに、そうだな……ただ、地上に出てくるかもわからないからな」
「そこも理解している。よって隊を二手に分け、調査を進める……あなたは明日以降、開拓に参加するだろう? まずは、どういった仕事があるのかを含め、しっかりと学んでほしい――」




