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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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新天地

 エリアスとフレンは砦の外へ出て、周辺を歩き回る。最前線は魔物の領域と隣接している以上、いつ何時魔物が出現してもおかしくない――が、気配のない状況だと、後方支援の砦周辺や、東部ともそれほど変わらない空気を発していた。


「平和だな」


 魔物の気配がないことを確認しつつエリアスは呟く。


「最前線ではあるが、常に魔物の警戒を怠ることしていることから、結果として敵も警戒しているみたいだな」

「警戒……ですか」


 フレンは辺りに目をやる。


「エリアスさんの仰る通り、仕込みがされていますね」

「魔物を探知するための簡易的な魔法だな。地面にくっついていて、土から魔力を引っ張ってくるタイプだから、魔法の維持は簡単だ」

「こういう魔法が、魔物の領域との境目に多数張り巡らせていると」

「そうだな……開拓、というものがどういうことを意味するのかについては事前に調べたんだが、作業的にはかなり地味だ。こうした魔物を警戒する方策も、そうした地味な仕事の一つだろう」


 エリアスは語りつつ、進路をバートに教えられた方向へ。


「さて、俺達が進む場所の確認といこう」

「楽しそうですね」

「新天地を間近で見れるとなったら、少しくらいはテンションが上がらないか?」

「私は別に、そういうことに関心が向かないので」


 そうした会話をする間にも、エリアス達は開けた場所に到達。その先には、見下ろす形でどこまでも続く森が広がっていた。


「魔物の領域……というのは場所によって様々だ。森もあれば、荒れ地もある」


 エリアスは見渡す限り木々しかない光景を見ながら、語る。


「けれど北部最前線は、ひたすら森が続いているみたいだな」

「私達がいる場所から先は少し下り、そこからさらに登っていく……山肌に森が広がっている形ですか」

「そうみたいだな。思った以上に標高がないせいで、木々が生い茂っているというわけだ……これを開拓するのは相当苦労するな」

「……新天地、ということは認めますが、この開拓によって資源などを得られるのでしょうか?」

「魔法などで国も調査はしているだろうし……さらに言えば、ここから見えない場所――その先に、思わぬものがあるのかもしれない」


 エリアスは真正面に存在する、木々が生い茂る山を見据える。その向こう側を見ることはできないため、魔物の領域を開拓していくこと自体、果てしないのだと改めて認識させられる。


「まあ広がる森を切り開くだけでも、かなりの資源じゃないか?」

「人の手があまり入っていないので、木材として使えるのかは微妙ですが……いえ、例外はありますね」


 そう述べるとフレンは北西方向を指差した。エリアス達が立っている場所からやや下った所に、他の樹木と比べ明らかに巨大な木が見える。


「ここからでもわかるほど、濃い魔力を発していますね……」

「魔物の領域に存在する木々は、魔力をかなり蓄えている……あの樹木は、相当だな。もしかすると、あの周辺には多数の魔物だっているかもしれない」


 エリアスは気配を探る――が、森全体が濃い気配を発しているためか、索敵が思うように機能しない。


「なるほど、森全体が魔力を貯め込んでいるから、魔物を探すのも一苦労か。確かに開拓という形で、少しずつ支配領域を広げるようなやり方じゃなければ危ないな」

「これが魔物の領域……」

「東部でも隣接する場所はあるし、見たことはあるけど……その場所とは明らかに違うな。魔物が多数いるのを考えれば恐ろしい領域だが……同時に、何かに引き寄せられるような感覚がある」


 エリアスの言葉に、フレンは同意するのか小さく頷いた。


「はい、何かに駆り立てられるかのように……歩を進めたくなりますね」

「それは新天地ということで魅力的に映っているのか、それとも森そのものが魔力を発し誘い込んでいるのか……どちらにせよ、俺達もまた少なからず魔物の領域に魅了されてしまったのかもしれないな」


 そう言うとエリアスは魔物の領域に対し背を向けた。


「見るべきものは見た。戻るとしよう」

「はい」


 フレンの返事と共に、エリアス達は元来た道を引き返す。


「しかし、改めて見ると果てしないですね……見える範囲の開拓をするだけでも、何年かかるのか……」

「ま、俺達が参加しても終わりが見えない仕事ではあるな。人間の寿命は決して長くないが、何世代にもわたって少しずつ支配領域を広げてきた……俺達もまた、その礎となるためにここへ辿り着いた……俺達は終わらせるのではなく、次の世代へ繋げるための役割を担うべきだろうな」

「次の世代……ですか」

「不服か?」

「いえ、私達がゴールに到達できるとは思えませんし……ただ、やるからにはやっぱり何かしらの成果は上げたいところですよね」

「そうだな……砦に戻ったら、一度テルヴァに目標くらいは尋ねておくか」


 エリアスはそう応じながら、魔物の気配などない森の中を歩き続けた。


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