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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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隊のリーダー

 ――キィン、と金属音が響くと同時、騎士の手から剣が弾かれ地面を滑る。剣を飛ばされた騎士は即座に降参を宣言し、対戦相手であるエリアスの勝利が、審判を行う騎士から宣言された。

 同時におおお、とどよめきのような声が上がる。エリアスの耳には「あの人も倒すのか」とか「これで何連勝だ?」とか、そういう声が聞こえる。


(……あんまり目立ちすぎるのも良くないのか?)


 と、ここではっとなったエリアスは胸中で呟く――が、もう派手に暴れた後なので遅いか、などと思う。


(最前線ということで腕の立つ騎士ばっかりだからな……少しばかり我を忘れて戦ってしまった)


 ――エリアスは訓練に参加し、決闘形式で騎士と戦うこととなり、結果として連戦になったがその全てで勝利、となった。


(えっと、これで何連勝だ?)


「――さすがだな」


 胸中で勝利数をカウントする間にも、また別の人間が前に出る。エリアスと比べ上背もある騎士で、短く刈り上げられた金髪が太陽光によってキラキラと輝いている。


「見ていると訓練であることを忘れて戦いに没頭しているみたいだが」

「……いやあ、こういう風に戦うのは久しぶりで、思った以上に我を忘れてしまったのは事実だよ」


 苦笑するエリアス。それに対し相手は剣を構えた。


「俺はバート=クオンエル。主に最前線における開拓を担当している」

「つまり最前線で活躍している騎士、と」

「そういうことになるかな。常に魔物が出現するかもしれない状況であるため、隊のメンバーも技量の高い者ばかり……ちなみに、テルヴァさんから明日以降、あなたを随伴するように仰せつかっている」

「つまり、君が隊のリーダーか」

「そういうことだ……が」


 と、バートはエリアスを見据えた。


「リーダーはそれこそ腕の立つ者がふさわしいと思っている……それこそ、勝負に負けたらリーダーを譲るくらいのことは考えているくらいだ」


 ざわ、とエリアス達を囲む騎士達からどよめきがあがる。もし勝負の行方次第では開拓のリーダーに変化が――


「悪いが、俺はリーダーなんてする気はないからな」


 と、エリアスはあっさりと否定する。


「実力と隊をまとめ上げる能力は別物だ。俺は北部のことを何一つわかっていないし、この砦に所属する騎士達のこともわかっていない。そんな状況下で先頭に立ったらどうなるかは予想せずともわかるだろ?」

「力を誇示し、後方でふんぞり返るという考えはないのか?」

「そんなことをしても隊の結束に亀裂が入るだけだ。俺は別に北部で先頭に立って成果を全て自分のものに、なんて考えは一切ない。まずは何より、隊の面々が全員無事に調査を続けられるようにすることだ。それができない以上、俺にリーダーをやる資格なんてものはない」


 そう告げつつ、エリアスは肩をすくめる。


「聖騎士という立場ではあるが、この砦では新人だ。そちらとしてはやりにくいかもしれないが、存分にこき使ってくれて構わないぞ」

「……ずいぶんと謙虚な人だな。聖騎士というのは、テルヴァさん以外だと結構いい性格している人が多かったんだが」

「それは聖騎士になってそうなったのか? 元からそうだったのか?」

「どっちだろうなあ。でも聖騎士は貴族ばかりだし、元からなのかもしれないな」


 あっさりと言うバートに対し周囲からは失笑が漏れる。ただ、反発はなくうっすらと聖騎士の性格、というものが共有されていることがわかる。


「あなたの考えはわかった。ま、俺としてはやりやすい御仁だと思ったし、これだけの実力者だ。心強いと考えているのは事実だ」

「……聞きたいんだが、調査を行う際に魔物との遭遇率はどの程度だ?」

「調査する場所によるな。魔物の領域の奥へ行こうとするなら、それだけ遭遇する確率は上がる」


 そう述べるとバートは一度北へ視線を送った。


「砦から北へ少し進むと、山肌が見える開けた場所に到達する。そこで魔物の領域がどんなものか眺めるといい」

「砦から勝手に出ていいのか?」

「ある程度なら。地竜は例外だったが、本来は砦周辺は安全圏という形だからな」

「なるほど、それじゃあ一度確認しておくか」


 エリアスがそう応じた後、バートは改めてという風に剣を構え直した。


「さて雑談は終了だ。そちらの腕前、試させてもらう……ただ、結構連戦したからな。疲労とかは大丈夫か?」

「問題ない。まだまだ前回のパフォーマンスは出せるぞ」

「タフだな……なら」


 エリアスの言葉にバートは口の端を歪めて小さく笑った後、


「遠慮なく、始めさせてもらうぞ!」


 気合いの入った声と共に、バートが駆ける。それに応じるべく、エリアスは剣に魔力を注ぎ――戦いが、始まった。


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