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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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期待感

 エリアスはまず、最前線内の砦を巡回することにした。フレンと共に砦内を歩み、すれ違う騎士から声を掛けられる。

 どうやらエリアスのことを知っている人間は多い――地竜討伐に参戦し単独で時間稼ぎをしたことから、名前以外に顔を憶えた人が多いらしかった。


「一緒に開拓を行うことができて光栄です」


 騎士達からは主にそういった好意的なものばかり。エリアスとしては評価は上々だと考えつつ、


「これなら動きやすいな」

「そうですね……内通者がいるかもしれない、と疑うのが心苦しいくらいです」

「そこは仕方がないさ。これなら地底調査、開拓どちらの仕事をやっても良さそうだ」


 そうコメントした時、エリアス達は勇者ミシェナと顔を合わせた。


「あれ、早速行動してるの?」

「ああ。早い方がいいだろ?」

「まあね……あなたの評価はかなり高いでしょ?」

「みたいだな。地竜討伐の戦果が思った以上に効果を発揮しているらしい」

「それは当然でしょ。さすがに単独で地竜と向かい合って戦うなんて思いもよらなかったよ」


 そう語るミシェナだが自信が喪失したというわけではなく、むしろエリアスに追いつこうとする気概を見せていた。


「けど、私も毎日鍛錬はやっているからね。近づけるかわからないけど、やれるところまでやってみようとは思ってるよ」

「その意気だ……そういえば、話をした騎士からは特段ネガティブな話は出なかったな……地竜を目の当たりにしても、そこまで恐怖をしていたわけではないみたいだ」

「北部最前線の面々は精神的にも強いからね……もしかすると最前線に必要なものは、戦闘技能というよりは精神面かもしれないね」

「精神面……確かに一理あるな」


 エリアスは東部のことを思い出す。彼女の言う通り、戦場において最後まで立っていたのは精神が強い者だ。


「どれだけ強くても、すぐ心が折れるようでは味方にも悪い影響を与えるからな……ひとまず戦意はあると」

「むしろ地竜の能力を目の当たりにして、どう戦えば勝てたのか色々と検証しているくらいだけど」

「それなら今後、より凶悪な魔物が出ても問題はなさそうだな」

「……また、ヤバイ敵が出るの?」


 ミシェナが問う。それは純粋な問い掛けのようにも感じられたが、もしかするとエリアスならテルヴァから何かを聞いているのでは、という推測をした上で訊いているので間違いなさそうだった。

 それに対しエリアスは、


「今後、地底の調査を進めていくとテルヴァは言っていた。であれば当然、強い魔物と戦うことになるだろう」

「地底か……地底の奥深くまで入り込むってこと?」

「さすがにそれは危険だろうから、索敵魔法による調査だとは思うが、地竜が索敵に反応したように、人間の動きに気付いて仕掛けてくる個体が出ないとも限らない……だろ?」

「そういうことか。これからさらに忙しくなりそうだね……ちなみに、エリアスはどうするの?」

「色々と指示をもらったけど、ひとまず北部の仕事内容を確認してからだな」


 エリアスの言及にミシェナは「なるほど」と呟く。


「開拓と地底調査……どういうことをやるのかを見定めると」

「別に俺が仕事ぶりを評価しようってわけじゃないからな……どういう風に立ち回るにしても、肝心の仕事がわかっていないとどうしようもないからな」

「明日から行動するの?」

「ああ」

「そっか。一緒に仕事をするかもしれないし、その時はよろしくね」

「……現在は開拓を進めているんだろ? それはどういうことをやるんだ?」

「うーん……見た方が早いと思うよ。私だって全部の仕事をやっているわけじゃないし、専門的なことはよく知らないし」


 それもそうか、とエリアスは思う。いくら彼女が勇者であっても、魔物の領域がどうなっているのか分析するといったことはしないだろう。

 エリアスはミシェナと別れ、砦内を歩いて行く。そこで一歩後ろを歩くフレンがミシェナとの会話に口を挟まなかったことに気付く。


「フレン、ミシェナに対し何か気になることとかあるか?」

「いえ、特には……ただ一つだけ言及するとすれば、彼女を含め騎士や魔術師達の表情は暗くない、といったところでしょうか」

「ああ、確かに……この場所は北部でもっとも厳しい戦いを行う場所だ。でも、そこにいる人達は強敵を前に怯んでいないし、むしろ楽しんでいる気概さえ見受けられる」

「魔物の領域……新天地へ進んでいるという事実から、高揚感があるということでしょうか?」

「そうだな……この場所には他の場所とは違う空気がある。新天地に何があるのかという期待感が、どんな敵を前にしても戦うという思いに繋がっているのかもしれないな」


 ここには希望がある――そう解釈しながら、エリアスは砦内を進み続けた。


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