今後のこと
「そちらは何か必要なものはあるか?」
話が一段落したタイミングで、テルヴァはエリアスへと問い掛ける。
「厳しい戦いが予想される。欲しい物があれば、可能な限り用意したいが」
「あー、それなら武器を新調させて欲しい」
エリアスの言葉に、テルヴァは頷く。
「ああ、それは構わない……既製品であれば砦に用意があるためすぐに出せるが、オーダーメイドの方がいいか?」
「そこまでしてもらわなくてもいいさ。俺は強化魔法を利用し戦うタイプだから、手に馴染む物があればいい」
「強化魔法か……剣そのものに際だった特徴がないということは、地竜との戦いも強化魔法の力だけで戦ったのか?」
「ああ」
返事にテルヴァは一度目を細める。
「そうか……それについては、何か理由があるのか?」
「あー、これは東部に出現した魔物が関係しているんだが」
そうエリアスは前置きをして、語る。
「魔物の中に、武器破壊を得意とする個体が登場したことで、魔法の効果を付与した武具なんかも通用しなかった」
「武器破壊……具体的には?」
「なんでもありだった。純粋な力だけでなく、腐食させたりあるいは金属そのものを分解させたり……なぜそんな能力を得ることになったのかはわからないが、まるで武器を持つ人間に対し能力を特化させたような能力だった」
「その対処法が強化魔法だったのか?」
「ああ、純粋に魔力でコーティングする……即席の強化なので長時間はもたないが、武器を替える必要がない」
そう言いつつ、エリアスは肩をすくめた。
「とはいえ、だ。さすがに使い続ければそれだけ武器も消耗していくからな。最前線に来た、ということで一度武具も新しくしておきたい」
「今の装備は東部から使っていた物か?」
「ああ」
「ならば、手配する。手に馴染む、というの条件はなかなかに厳しいため、いくらか提供しその中で良い物を選んでくれればいい」
話はまとまり、テルヴァはエリアス達へ最後告げた。
「国の協力を得られない状況ではあるが、政治的な締め付けなどはないため、苦しいわけではない……が、今後の戦いを鑑みれば準備を急いだ方がいいのは間違いない。私は今後、ロージェス対策に動くつもりであるため、そこについては理解してくれ――」
話し合いの後、エリアスは今後使用する部屋へ通された。それなりの広さがあり、聖騎士ということで個室を割り当てられた。
話によると従者であるフレンも同様の部屋らしい――これはテルヴァの配慮だろう。今後、ロージェスという存在と戦っていく中で、エリアスとフレンには他者を寄せ付けない空間を与えた。つまり、自由に動ける立場を確保し、その仕事を期待しているというわけだ。
「……何も語らない、というのがまた仕事の難しさを物語っているな」
エリアスが呟いた時、ノックの音が。返事をすると扉が開きフレンが姿を現した。
「まずは作戦会議を」
「ああ……フレンは今後のことをどう考える?」
「聖騎士テルヴァは深く語りませんでしたが、私達を自由に動かし、色々と問題の解決をしてほしい、というのを望んでいるようです」
「俺も同じ見解だ。あの場で詳細を語らなかったのは騎士メイルもいたから、という理由もあるだろうが、一番の理由は直接言ってプレッシャーにならないよう、という一応の配慮かな」
「……騎士メイルが内通者である可能性は?」
「不明だ。というか、自覚なく情報を渡している可能性もある……例えば、上司に報告書を提出しているとか。それが敵に情報が伝わってしまう要因だとしても、報告書を作成しないなんて選択はできないからな」
「つまり、誰もが内通者である可能性を捨てきれない」
「ただ、俺達は少し違うとテルヴァは考えた……実力的な面に加え、東部出身で国の上層部とほとんど関わりのない存在である俺達二人に、テルヴァは色々な意味合いで目を付けたというわけだ」
「悪く言えば都合が良かったと」
「そういうこと……それと、彼は俺達を試そうとしているんだろう」
「試す、ですか?」
「地竜討伐によって、俺達の実力……その一端を理解した。加え、東部の事情を聞いたことを考えると、彼自身思うところがあったかもしれないが……まずは、聖騎士となった俺の実力を推し量りたい。それ次第で、ロージェスとの戦いをどうしていくかなど、方針を決めるつもりなんだろう」
「……今まで以上にやることが多いですね」
「そうか? 俺はシンプルだと思うぞ」
「というと?」
聞き返したフレンにエリアスは笑みを向ける。
「最終目標はロージェスの討伐……そのために、北部最前線において成果を上げる。どうせなら、戦闘面も内政面も色々とやりたいところだな」
「……聖騎士テルヴァは今後の方針として体を二つに分けると言いました。どちらで成果を積むおつもりですか?」
「そこは、自由に動ける立場なんだから今後考えていけばいいさ……さて、今日は赴任初日だし休んでもいいが……早速、動くとするか――」




