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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第三章

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地底への対策

「……人の形をした魔物については、ひとまずこの辺りにしよう」


 テルヴァはそう言うと、エリアスへ視線を向けた。


「課題が山積みであり、現状の戦力で対応しなければならないという事実は頭が痛いが……それならそれで仕方がない」

「ずいぶんと判断が早いな」


 エリアスの言及に対し、テルヴァは肩をすくめた。


「北部最前線であっても、色々とあるからな……国を頼れない、というケースは過去にもあった」

「あんたも大変なんだな……そういうことなら、どう動く?」

「現状の戦力で人の姿を……便宜上『ロージス』とでも呼称するか?」


 テルヴァの問いにエリアスは苦笑する。


「その場合は、元のロージスと混同するからなあ……ただ、名前は必要か」

「ならば少しもじって『ロージェス』としよう。そいつが地上に出た場合……能力は一切の不明であるため、準備をするにしてもかなり難しいが」

「一つ質問がある。現状、地上から地底へ繋がる洞窟などはどのくらい発見している?」


 エリアスの問いにテルヴァは少し考え、


「最前線についてはある程度。だが、魔物の領域の調査はさすがに進んでいない」

「そうだな……ひとまず、発見できている場所だけでも対策をしておくべきだ」

「罠を仕込むのか?」

「最終的にはそうしたいところだが、まずは地底から何か出てこないかを確認する術式を組み立てるのを優先すべきだろう」


 エリアスの言葉にテルヴァは「確かに」と同意する。


「まずは地底の動きを把握する……そして、地上へ出てくる存在をマークする、か」

「そうだな。地竜を討伐した以上、ロージェスとしては手駒を失った形だ。もし動くとしてもある程度時間が経過してからだと俺は思う。地上にアプローチを仕掛けるまでに、足場固めをしておくべきだ」

「それが最初にやるべきこと、か」


 テルヴァはそう呟くと、幾度か頷いた。


「わかった、ならば地底へ繋がる洞窟について現在把握している場所、及び未発見の場所についても調査するよう努力してみよう」

「割ける人員はいるのか?」

「幸いながら人手はあるからな。ただ、ロージェス対策ということで動くのは良くないか。表向きは地竜討伐後の魔物の動静調査、といった風にしよう」

「ああ、それがよさそうだ」

「ロージェスが表に出てくる可能性は低いが、準備は迅速に行わなければならないだろうな……そしてこの行動はロージェスに気付かれぬように……できるのか?」

「どうだろうな、わからない。仮に人間と繋がっているのだとしたら、国へ報告を行うと情報が伝わる、と考えていいだろう」

「……もしかして、今まで私達が行動してきた内容も知られているのか?」

「可能性としては、ある。だが、俺達はロージェスと人間が繋がっている可能性に気付いた。これから改善していけばいい……が」


 と、エリアスは言葉を止める。何が言いたいのかはテルヴァも理解し、


「北部の最前線に、ロージェスと手を組む人間へ報告を行う人間がいるかもしれない……と」

「この中にいるかもしれないな」


 エリアスが言うとテルヴァは苦笑。それに伴い、横にいる騎士メイルは表情を固くした。


「どこに内通者がいるかわからない、という状況だが……聖騎士テルヴァ、何か考えはあるか?」

「そうだな……色々とやり方はあると思うが……内通者が誰であっても問題ないように動く……というより、地竜討伐を機に体制を一新し、新たに組織編成を行うという形で、状況を大きく変えよう」


 テルヴァの言葉に、エリアス達は注目する。


「元々、色々と考えてはいた。地竜が地底から出現したのを見て、今まで以上により地底へ注意を向けるべきだと私は判断した」

「ただ開拓するだけではダメだと」

「そうだ。部隊を二手に分けるつもりだ。片方は開拓を進める部隊。もう一つは地底へ注意を払う部隊」

「その中で俺はどうなるんだ?」

「現時点ではまだ配属は決めていない。というより、そちらが良い方を選んでもらいたい」

「……どちらでもいいのか?」

「あなたは独断で色々やってもらった方が、私としては利が生まれると考えている」

「……俺がそんな勝手に行動して問題とか起きないのか?」

「問題は起こさせないようにする……あなたも言ったが、現状では誰が内通者かわからない状況だ。しかし、あなたが独断で動くとなれば……」

「敵に動きが悟られにくい、と」

「そういうことだ」


(――かなり大変な仕事ではあるが)


 そう呟きながら、エリアスは思う。


(彼としては、話の流れからして苦渋の決断……といったところか?)


「……今話し合った内容は、他の騎士達と共有するのか?」


 エリアスはさらに問うとテルヴァは、


「ひとまずこの中で話を収めようと思う」

「なら今回決めた情報がどこからか漏れたら、俺達四人の誰かが内通者である、と絞られるな」

「その通りだ……情報を伝える人間を限定し、調査をしていこう」


 テルヴァの目からは強い気配――脅威に立ち向かうべく、また犠牲を出さないよう、決意に満ちたものだった。


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