最悪の可能性
「地竜討伐の報告について、だ。討伐関連で正体不明の存在がいるとして、相談をしたことがあっただろう」
「ロージスのような、人の形をした魔物のことだな」
「そうだ。その点についても、国へ報告は行った。重臣がいる王都の会議室で直接だ。もし知性を持った魔物がいたら、それは間違いなく脅威となる。場合によっては名付けられた魔獣と比較しても……しかしこの点については、異様な答えが返ってきた」
「異様?」
エリアスが聞き返すと、テルヴァは重い表情を伴い、
「地竜に付随するような存在など、捨て置けと」
「ん……? それが異様なのか?」
「地竜に近寄った奇妙な存在がいるのは間違いない。きちんと調査を行った結果を報告した。だが、国側の見解としては放置で問題ない、とのことだった」
「……人の形をした魔物なんていない、みたいな見解なのか?」
「そういうニュアンスもあっただろうが……そんなものはどうでもいいという雰囲気があった」
「どうでもいい、か」
エリアスは呟く。その言葉が何を意味するのか――テルヴァはさらに話を進める。
「反応が他の報告内容と比べ、どこか変だった。話題に出した時点で地上に出てこない以上は考慮しなくてもいい。別の人はあからさまに興味がなさそうな雰囲気を示した」
「……なるほど、複数人の反応が変だったため、異様と表現したのか」
「ああ、人間の姿をした魔物……そうした存在自体を否定するような意見もあったからな」
エリアスは彼の言葉を受け思考する。同時にロージスのことを思い浮かべつつ、
「テルヴァはどう考えている?」
「……全員が全員、そうした反応ではなかったことを踏まえると、一部の人間が人の形をした魔物について知っている……エリアス、あなたが語ったロージスという存在のように把握しており、何かを隠蔽もしくは秘密にしている」
「隠蔽しているのはどういう理由だと思う?」
「東部で大きな被害が出たのだろう? そうした事実を考慮すると、下手に情報を拡散させないようにしている。あるいは、何かしら秘匿しなければならない理由があるのか――」
「テルヴァの考えである可能性はある。だが、俺は少し違う見解だな」
「何?」
聞き返したテルヴァに対し、エリアスは語る。
「東部でロージスが出た際に、きちんと報告を行った。騎士達に被害が出ている。救援を頼むと。しかし東部の戦力で対処しろ、人の姿をしていようが魔物は魔物だろう、という返事だった」
「……国側が人の姿を持つ魔物を軽視しているのか?」
「最前線で戦っていた俺もそんな風に考えたよ。まあ、凶悪な魔物が出てきても援軍は出さないということがほとんどだったから、仕方がない、今回も俺達だけでなんとかする……という思考があったし、そこまで深く考えなかった」
「だが……真実は違うと?」
「東部で現れたロージスに対する反応。そして地竜討伐に伴い現れた存在への見解……人の形を持つ魔物への国の見解はそう変わっている気配はない」
「ああ……魔物の強さは大きさなどで決まるという考えなら、わからなくもないが――」
「知性を持つ存在がどれほど恐ろしいのかは、ある程度理解してもらえるはずだ。だが、捨て置けと言う……いや、これはむしろそういう風に意見し関心を持たせないようにしているという解釈もできないか?」
「関心を……? だが王都の人間がそんなことをして何になる?」
テルヴァの疑問。そこでエリアスは一度間を置き、
「――地底にいたロージスのような存在。そいつが、王都にいる重臣と手を組んでいるという可能性は?」
その問い掛けに部屋の中は一時沈黙する。テルヴァや騎士メイルはまさか、という顔をしつつ、
「……そんな可能性は、あり得るのか?」
やがてテルヴァが問い掛けた。
「知性を持つ魔物であるなら、私達人間と会話をすることはできるにしても……人間と手を組むのか?」
「あり得ない話じゃないと俺は思うぞ。もちろん、人間側にどういったメリットがあるのか俺にもわからない……が、この可能性は考慮すべきだと思う」
「……敵は魔物だけではなく、国の内側にもいるということか」
ため息を吐くテルヴァ。現段階ではあくまで可能性――しかし、彼なりにエリアスの意見が真実かもしれないと、考えている様子。
「わかった、そういうことであれば援軍などは期待できないだろうな」
少ししてテルヴァは述べた。最悪の可能性――それを考慮し、動くことを決意した様子。
「非常に厳しい戦いになる……最大の懸念は人間の姿をした存在が地底から地上に出てくるのか。あるいは人間へ直接攻撃を仕掛けてくるのか……」
「俺は攻撃してもおかしくないと思っているが……現段階では地竜をけしかけたことから、まだまだ表に出ることはなく様子見といった腹づもりかもしれない」
「地底を調査する際、当該の存在についてより詳細に調べるべきだな」
そうテルヴァは言うが、仕事が増えると再びため息をついたのだった。




