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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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人の形をした何か

 エリアスが語った内容に対し、テルヴァの表情は厳しくなった。


「……人の言葉を操る、魔物か。いや、それは最早魔物というカテゴリーでは収まらないか」

「ああ、それは間違いない……危険度という尺度で測ったとしたら、危険度五だと断言できる」

「……危険度五は、人間の領域にも恐ろしい影響を与える存在という定義だが」

「もし俺達が敗北していたら、どうなっていたか……」


 エリアスの言葉にテルヴァは目を細める。


「知性を持つ魔物か……その能力も一級品だったのか?」

「戦闘能力も高かった。魔法を扱えたからな。しかもそれは独自にものではなく、人間の魔法だ」

「とすると、人間から魔物に至った存在……ということか?」


 テルヴァの問いにエリアスは――小さく頷いた。


「どういう人物だったのかは、調べてもわからなかった。俺は顔つきをはっきり憶えているし、似顔絵なんかを作成して聞き込みもしてみたが、正体については不明なままだ。まあ、魔物になった時点で顔つきを変えられていたら、探しようがないというのもある」

「つまり、人間であった頃の情報を探すのは不可能に近いと」

「そうだな……よって、魔物になった経緯などは不明だ。可能であればその辺りを調べたいところではあったんだが」

「……詳細を知ることができないのは不気味だな」

「ただ」


 と、エリアスは一拍置いて、


「どういう経緯であれ、人間が魔物になるという技術が確立されていたなら、もっとそういう存在がいてもおかしくはないはずだ。しかし、少なくとも俺達が確認できたのはロージスという存在だけ……単独なら滅ぼせばそれで終わりだし、問題はないのではと結論を出していたんだが……」


 実際は、まだ同様の存在がいる――聖騎士テルヴァは幾度か頷いた後、


「状況は、こちらが思った以上に深刻かもしれない、と」

「現時点ではわからないことも多いし、不安を煽るようなことはするべきではないと思うが……」

「ひとまず国へ報告は行う。現在は正体不明の存在がいて、調査中であると王都に伝えてある。その詳細がどうやら人の形をした何か……ということで、国の対応がどうなるか見定めようと思う」

「わかった……危険度については何か言うのか?」

「いや、現段階では確実なことが言えないため、そこは伝えない。ただ、地竜と接触していたことから、他の魔物や魔獣を使役、あるいは支配することができる、といった能力を保有しているかもしれないと言うつもりだ」


 エリアスはその言葉に頷いた――ロージスも魔物の王を自称するだけあって、魔物を率いていた。それを踏まえれば、そうした能力を保有している可能性は十分あるため、報告内容として無難であった。

 加え、人の形をした魔物かつ、魔物を使役できるとなったら戦闘能力が低いとしても、国としては脅威と見なすだろう――国側の反応としてはどうなるか。


「情報提供、感謝する」


 そしてテルヴァは述べる。エリアスは「礼はいらない」と答えつつ、


「もし人型の魔物であるなら、俺達にも関係してくるかもしれないからな……」

「……この話をした上で改めて問う。北部最前線へと来てはもらえないか?」

「さすがに、話の内容がそれでは断るわけにはいかないな」


 エリアスはフレンへ視線を送る。彼女は小さく頷き、決定した。


「ただ、一つ……俺の立場としては微妙だし、聖騎士だからといって、相応の役回りをさせると問題が起こるかもしれない」

「そうなると他の騎士と同様の処遇になるが」

「俺は現場判断はできるが、作戦とか指揮とか、そういうのは苦手だから、一兵卒と同じような扱いでいいさ。むしろ、俺が前に出てそちらは後方でしっかり構えてもらった方が、良いんじゃないか?」


 エリアスの提案にテルヴァは「ふむ」と一つ呟いた腕を組む。


「想定としては並んで戦うことを考えていたんだが……」

「それでもいいというのなら、構わないが」

「……起用の仕方については後日相談だな。ともあれ協力感謝する」

「わかった……が、もう一つだけ。これまで人の形をした魔物は北部最前線にないと言っていた。しかし東部にはある。そうした人員に協力を頼むというのは?」

「あなたの話からすれば、それも望みたいところだが、東部の状況もあまり良くないらしいからな」

「魔物が出現している、だったか」

「もしかすると、魔物側が動いているのかもしれない……地底は様々な場所に繋がっていることを踏まえると、東部に地竜をそそのかした存在が出現する危険性もある。ひとまず東部の人員をこちらへ招集する、ということはせず様子を見るべきだ」


 それこそ、犠牲を少なくできる手段――テルヴァは暗にそう語った。

 エリアスも内心では仕方がないか、と思い彼の言葉に同意。そして、


「なら、俺達が知っている情報を伝えるか?」

「ああ、頼む」


 応じたテルヴァに対し、エリアスは過去の情景を思い起こしながら、詳細を語り始めた――


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