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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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観測した魔力

「この砦の人員で、地竜に関する調査を行っていた……時間軸としては、聖騎士エリアスが大猿の魔物を倒した直後くらいだ」


 聖騎士テルヴァの言葉を受け、エリアスは小さく頷く。


「地底内を調べていたわけだな」

「そうだ。最前線には地底へ繋がる洞窟も存在するが、この場所であれば、例え地底から出てきたとしても対処はできると踏んで、索敵魔法によって地底を調べていた」

「そうして地竜を発見した……というわけだな」

「そうだが、問題はここからだ」


 そう述べるテルヴァに、エリアスは首を傾げた。


「問題……?」

「調査を行っていた魔術師は大きな魔力を見つけ、それが地竜であると判断した。結果から言うと正解だったのだが、最初相手は動かなかった」

「動かなかった……警戒していたのか?」

「その可能性が高い。大猿の魔物みたいに魔力に反応するかと思ったが、そうではなかった」

「しかし地竜は地上に出たよな?」

「ああ、地竜という存在を観測し、どう討伐するかを考えてたんだが……ある日、というより地竜が出現した日だな。突如、動き出した」

「……何か動き出す理由があったのか?」

「少なくとも索敵魔法は使用していたが、それまで動きはなかった。だが、魔法を使用していた魔術師は、地竜が動き出す直前に何かしら別の魔力を観測したと言っていた」

「別の……魔力?」


 眉をひそめ聞き返すエリアスに対し、テルヴァはさらに話を進める。


「その魔力は間違いなく魔物ではあるが……その個体が地竜と接触した瞬間に、地竜が動き出した。一体どういう理屈なのか……魔物に触発されて地上に出た……という推測もできるが」

「地竜が実際に地上へ出たのは何かしら原因があるみたいだが……その詳細は謎だと」

「そうだ」

「話は理解できたが、その話と俺をここに呼んだのは何か関係があるのか?」

「……東部にも、地底へと繋がる洞窟が存在するだろう。加え、あなたには二十年以上の戦歴がある」

「地底の魔物と戦い続けた俺に、謎の心当たりがあるのかというのを聞きたかったのか」

「ああ……といっても、この情報だけではさすがに判断がつかないだろう。地竜が地上に出るまでに観測した情報を、可能な限りまとめた資料がある」


 そう言うとテルヴァは騎士メイルへ目配せした。彼女は小さく頷くと、会議室の端においてある棚から、資料を取り机の上に置いた。


「魔術師が観測した情報だ。一番不可解なのは、接触した魔力……その存在の形だ」


 エリアスは資料に目を通す。それは地竜の動向を観測した記録であった。

 地底の洞窟を調べ始め、地竜と思しき存在を見つけ出し、常に監視をしていた。その内容は非常に分かりやすく、専門的な知識がなくとも内容を理解することができた。


 エリアスはここで該当部分の資料に目を向ける。地竜が地上に出現した当日、地竜に接触した魔力に関する情報。

 それは不可解であったためか、より詳細な情報が記載されていた。魔力濃度を始め、保有する魔力とその大きさから姿形までもが推計され、なおかつ観測できた範囲で魔力の値が記されていた。


 その文面を目でなぞっていた時――エリアスは動きを止めた。


「……フレン」


 そして名を呼びフレンへと資料を渡す。彼女は受け取ると該当部分に目を通す。そこで彼女は、


「これは……」

「何かあるのか?」


 テルヴァが問う。それにフレンは顔を上げ、


「地竜に接触した魔力について、これは間違いありませんね?」

「ああ、そこは魔術師も間違いないと語っていた」

「で、あれば……私達は似たような存在と遭遇した経験があります」


 フレンの言葉にテルヴァと騎士メイルは一度互いに目を合わせ、


「その魔物について、詳細は?」

「ただ、その魔物は既に討伐しています。同一個体である可能性はないでしょう」

「だが、似た魔物がいたんだな?」


 フレンは一度エリアスを見る。そこでエリアスも気づき彼女と目を合わせた後、


「……ああ、俺達は遭遇し、討伐を果たした」

「ならばわかっていると思うが、魔術師が得たデータから基づくと……地竜と接触した存在は、明らかに人の形をしている。これはつまり、人間の姿をした魔物ということでいいのか?」

「そうだな……俺達が戦ったのも、人の形をしていた。だがそれだけじゃない。そいつは人と同じく思考し、策略を練るだけの能力を持っていた」


 エリアスの言葉にテルヴァは目を見張る。


「知性……獣の本能ではなく、理性を保有する敵か。にわかには信じがたいが……」

「北部にそういった魔物が出現した記録はあるのか?」

「いや、ない。しかし東部にはあるようだな」

「ああ、そうだな……その魔物は、東部の戦力が一丸となって戦わなければいけなかった。それこそ、犠牲者も多数出た」


 テルヴァ達の表情が厳しくなる。そこでエリアスはさらに語る。


「そいつは東部で『ロージス』という名称を付けていた……人のように喋り、俺達と会話をすることもできた、異形。そして魔物を率いることができる存在でもあった……魔物の王を自称する、最悪な敵だった」


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