国からの評価
やがてエリアス達は最前線の砦へ辿り着いた。出迎えは騎士メイルが行い、彼女の案内に従い会議室を訪れた。
そこにいたのは聖騎士テルヴァただ一人。他には誰もいないのかと問い掛けようとした時、
「色々と事情があって、まずは私とメイルだけで話をしようと思った」
「……どうやら、なかなか面倒な事態が起きているみたいだな」
エリアスの言葉にテルヴァは首肯する。
「詳しい説明を行う……その前に、報告に関する結果をまずは伝えよう」
テルヴァの言葉にエリアスは頷き、話をすることに。会議室中央にはテーブルが置かれ、対面する形で椅子が配置されエリアスとフレンはテルヴァ、メイルの二人と向かい合う形となる。
「報告に関しては、あの戦いのことをそのまま伝えた。聖騎士エリアスがいることに国の上層部は驚いたらしいが、最終的にその活躍を認めるという形になった」
「俺にとっては良い話なのか? 政治的な意味合いからすると、俺を蹴落としたい人間がいたなら厄介事が発生する危険性もあるが」
「表面上は少なくとも、あなたを非難するような人間はいない……そもそも、犠牲なく地竜を討伐できたのはあなたが時間を稼いだためだ。そうした役目を担った人間を政治的な要素で排除しようとする、というのはさすがに無理筋なのだろう」
(とりあえず、大丈夫そうか)
エリアスは内心で安堵しつつ、テルヴァの説明を聞き続けることに。
「報告の結果、聖騎士エリアスの処遇については……こちらが色々と打診した結果かもしれないが、最前線への異動が認められた」
「認められた……それは断ることも可能、ということか?」
「ああ、最終的には本人の判断も考慮に入れろと指示を受けた」
――テルヴァの配慮もあるのだろうと、エリアスは思う。
「そうした上で、問いたい……最前線へ赴く気はあるのかどうか」
「……それを答える前に、確認していいか? 今回俺をここに呼んだのは、その質問をするためか?」
「いや、違う。別の目的がある」
「そうか……ひとまず、全ての説明を聞いた後にどうするか答えても?」
「わかった。では本題に入ろう」
テルヴァはそう応じると、改めて話を始めた。
「地竜討伐が終了し、残る名前が付けられた脅威は一体だけとなった……が、そいつは魔物の領域の奥地にいることがわかっており、なおかつそれは現在でもそうだ」
「つまり、討伐は難しいと」
「さすがに国も魔物の領域に入り込んで討伐しろ、とまでは言わないからな。それに、貴族達の配下もさすがに魔物の領域に足を踏み入れるといったことはしない。よって、地竜討伐によって北部最前線における戦力は減るだろう」
「戦力的には痛手だが、あまりに人員が多すぎるため弊害が出ている面もあった。あなたとしては好ましい……か?」
「きちんと統制できるようになるのはプラス要素だ」
テルヴァの発言にエリアスは小さく頷き、
「わかった、なら今後は……」
「開拓を続ける。仕事の内容としては思った以上に地味かもしれないが、着実に成果は得られるし、あなたの目的にも近づけるだろう」
そう述べたテルヴァは、小さく肩をすくめた。
「聖騎士エリアスを最前線へ、というのは認めるにしても、発言力についてはまだ先の様子だった」
「さすがに、一定の権力を得ようとするにしては、聖騎士となった期間が短すぎるか」
「ああ……しかし、決して遠い話ではない。今回、討伐の成果を上げたことから感触は悪くなかったようだ」
「わかった、なら仕事を続ければ目的が達成できる……それがわかっただけでも大きな収穫だよ」
「そうだな……さて、ここから核心部分に触れるが、あなたに訊きたいことがある」
「俺に?」
「地竜と戦っているあなたの姿を見て、確信したんだが……ああいった巨大な相手について、戦い慣れているな?」
(……まあさすがにそれはわかるか)
「ああ、そうだな」
「それはつまり、東部ではああした魔物が出るということか?」
「……さすがに地竜クラスの力を持つ魔物がゴロゴロいるわけじゃない。しかし、ゼロというわけでもない」
「そうした魔物が出現する場合、どうやって対処している?」
「さすがに単独で戦うようなことはしない。犠牲をゼロにすることを前提に、出現した魔物を可能な限り調べ上げ、確実に倒せる状況を作る……かな」
「確実に、か。それには連携も必要になってくるな」
「練度、という観点については競争原理が働いている北部よりも高いと俺は思う。これは北部と東部、どちらが正解というよりは、あり方の違いだな。そもそも東部は人員が少ないため、連携をきちんとしなければ危険というのもあるが」
「……そうか」
やや沈黙を置いてテルヴァは応じる。何かあるのかとエリアスが疑問を抱いた時、さらに彼は話を続けた。
「……ここからの話は、地竜が出現した経緯から説明しなければならないだろう」
そう前置きをした後、エリアスは改めて語り出した。




