聖騎士の確信
その日、エリアスはいつものようにルークやレイナと訓練を行っていた。剣を打ち合い、エリアスはルーク達へアドバイスを行う。
そうして体を動かしていた時、エリアスはふいに騎士に呼ばれた。ノークの部屋へ行くようにと指示され、ルーク達と別れノークの部屋へ。
中へ入ると、そこにはノークだけでなく別に人がいた。その人物はエリアスも見覚えがあり、
「騎士メイル?」
「はい」
頷く彼女――幾度となく顔を合わせ交流した騎士がいた。
「今回は少々お話が」
「話……?」
「君の経験などについて、訊きたいそうだ」
ノークが言う。経験――それが意味するところは――
「しかし、この場所で話をするというわけではなく、話をしたいのは聖騎士テルヴァです」
「彼か……ということは、最前線の砦へ?」
「はい、そういうことになります」
頷くメイル。どういう話が聞きたいのかエリアスとしては不明であったが、
「ああ、情報提供そのものは快く引き受けるが……」
「ありがとうございます。そうした中で、あなたの進退についても話題に上がるかと思います」
エリアスは眉をひそめる。情報を伝えるだけでなく進退とは。
「私はあくまで概要を聞いただけですが、情報を提供してくれる見返りとして、最前線への異動を含め、活動をしやすくするように便宜を図ると」
「聖騎士テルヴァが?」
「はい」
頷くメイル。それを聞いてエリアスは、
(……どういう話の内容なのかは不明だが、俺に色々と期待し、話を持ちかけている……その見返りとして、可能な限り俺の求めるものを渡そうとしている、というわけか)
「……ノーク殿はどうお考えですか?」
ここでエリアスはノークへ話を向けた。
「仮に私が最前線へ異動となれば……」
「まず、砦については影響が多少なりとも生まれるだろう。エリアス殿には色々と技術を提供してもらったがまだまだ練度は足らず、道半ば……しかし、周辺に存在する魔物を撃退するといったことについては問題なくできるだろう」
(……ルークやレイナであれば大丈夫か)
エリアスは改めて訓練を共にした二人の騎士について思い返す。
「……なら、現状で私の存在は不要であると」
「そこまでは言っていないが、少なくとも通常の任務で支障が出ることはないだろうな」
「わかりました」
エリアスは応じると騎士メイルへ目を移す。
「今回の提案は当然、聖騎士テルヴァからのものか?」
「はい、彼が聖騎士エリアスが気になっていると」
「俺にどこまで期待しているのかわからないが……有益なやりとりになるかはわからないぞ」
「あなたとの情報交換は、間違いなく有益なものとなる……そう確信する何かがあるのだと思います」
「確信か……」
それが何を意味するのか――確実に言えるのは、聖騎士テルヴァはエリアスが持つ経験や戦歴などを考慮し、有益だと考えている――
「……騎士メイル、確認なんだが」
エリアスは話し始める。
「地竜討伐の件、北部の最前線ではどういう評価なんだ?」
「まず、何より犠牲者が出なかったことは非常に大きいという認識です。あれほどの力を所持していた存在が相手である以上、多数の犠牲者が出てもおかしくはなかった。あなたの活躍によってそれをゼロにできたという事実は何よりも大きいですし、だからこそ戦場における的確な判断ができるエリアス殿の動きを大いに評価している」
「少なくとも北部最前線の面々……聖騎士テルヴァと共に戦う面々は、俺のことを評価しているわけだ」
「はい、そこは間違いありません」
「そして、俺を最前線へ異動させることは……聖騎士テルヴァが求めることなのか?」
「直接的に言ってはいませんが、おそらくそうではないかと」
ここでエリアスは地竜討伐後にテルヴァと会話をしたことを思い出す。
(……俺の事情については理解していたはずだが、それを踏まえてもきちんと話をしたい、と……単なる情報交換という意味合いではなさそうだな、これ)
「どうしますか?」
騎士メイルが問う。エリアスはそこで沈黙し、ノークへ一瞥する。
彼としてはどちらでもいいという雰囲気だった――ここでエリアスはさらに思考しつつ、
「わかった、一度話をしよう……向かう場所は先日訪れた砦でいいのか?」
「はい、私は同意が得られたと報告します。具体的な日時は――」
「ただし」
と、騎士メイルの言葉を遮るようにエリアスは続けた。
「聖騎士テルヴァに一つ伝えておいてくれ。異動のことを含め、俺がどうするかは現時点でわからないと」
「すんなり承諾はできない、と」
「こちらとしても色々と考えがあるからな」
「わかりました。そのようにお伝えしておきます」
――そして短い話し合いは終わり騎士メイルは砦を去る。それに対しエリアスは、最前線の砦へ向かうための準備を始めることとなった。




