報告の影響
「フレン、何か気になることでもあるのか?」
「気になる、というより」
フレンはエリアスの目を見ながら、答える。
「おそらく北部最前線へ行くとなれば、凶悪な魔物が出てくることでしょう。その中できちんと連携をしなければ危険です。エリアスさんはそれでも他の騎士が危うくなれば、例え単独でも助けに行くと思いますが――」
「心配してくれているのか、悪いな」
「……地竜の時みたいに、戦いの最中にある程度情報を得られるのであれば、私もそう心配はしていません。しかし『ロージス』のような存在だって出てくる可能性を考えると……」
「アイツは、それこそ極限まで気配を悟られないようにしていたからな……さすがにあれは例外的な存在であるとしても、気配をひた隠しして攻撃をしようとするような敵だってその内出てくるだろう。フレンの言う通り、そういう場合は危険だな」
エリアスは認めつつ、小さく肩をすくめながら続ける。
「だがまあ、どういう形であれ人を守ることが騎士の務めだ。最悪の可能性はちゃんと考慮しているよ」
「覚悟があるからいい、という話をしているわけではないのですが……」
これ見よがしにため息を吐くフレン。
「しかし東部の人を引き抜くという案も、情勢的に少し危ないというのは私も理解しました。他の手を含め考えましょう……とはいえ、可能な限り早急に」
「俺がまた無茶をしでかさないうちに、か」
「はい、その通りです」
エリアスは苦笑する。それと同時に、似たような状況に遭遇したら絶対に動くだろう、という確信もあった。
「……わかった、俺の方も自重はするさ」
「はい、お願いします……改めて確認ですが、聖騎士テルヴァの要請を受けたら、最前線へ赴くということで良いのですか?」
「結果が出てから判断するさ」
「わかりました……あの、ジェミーさんはどうしますか?」
「んー……彼女はどう考えているんだろうな? そもそも同行してほしいとしても、彼女自身それほど実績があるわけじゃないし、許可されるのかも微妙だけど」
エリアスは勇者ミシェナのことを思い出す。彼女とは幼馴染みという関係で、北部へ来たという理由もおそらく彼女が関係しているのだろうと予想はできる。
(実績を積んで、ミシェナの所へ……というのが彼女の目標だとしたら、俺と一緒に北部へ行くことが彼女の目標達成に繋がるわけだが……)
「彼女についても地竜討伐に関しての報告が成されてから、どうなるかだな。その結果次第でいくらでも立ち回り方が変わってしまう」
「……もどかしいですね」
「仕方がないさ。よって、今は粛々と仕事を続ける。フレン、頼むぞ」
「北部の情勢などは引き続き調べますか?」
「あー、そういえばポーションとか頼んでいたはずだが……」
「まだ届いていませんよ。ただ今回の討伐で大きな戦果を挙げましたし、政治情勢という意味合いでもあまり必要がなくなったかもしれませんが」
「その場合は、最前線へ赴いた際の土産で渡せばいいかな」
「ああ、それがよさそうですね……ひとまず最前線移動の準備と、それができなかった場合に備えて北部の情勢について、引き続き情報を集めます」
「ああ、頼む」
フレンが立ち去る。その後ろ姿を見つつ、エリアスは頭をかいた。
「……考えることが多いな、まったく」
ここでエリアスはジェミーと話をするべきか考えた。ただ、討伐の結果がわからない以上、今話してもあまり意味がないことに気付く。
「ひとまずやめておくか……とりあえず、ルークやレイナと訓練に勤しむとするか」
呟き、エリアスは廊下を歩き始めた。
その後、エリアスが砦の面々と訓練を行っている間に、聖騎士テルヴァによって地竜討伐の報告が行われた。
その詳細についてはフレンが調べ始めたが、すぐに内容がわからなかったため、ひとまずどういう報告をしたのか情報が下りてくるまで待つことになった。ただ、どうやら王都側はかなり衝撃を受けた――らしい。その事実はフレンからではなく、ノークからもたらされた。
「私の方でも詳細はわかっていないが、おそらく北部で大きな動きが出るかもしれない」
そうノークは語った。その中にエリアスが含まれているのかどうか――
「君は間違いなく何かしら沙汰があるだろう。聖騎士テルヴァは君に興味を示しているようだし」
そう言われ、エリアスはいよいよ最前線か、と心構えをしつつ、辞令が来るまで待つことに。
しかしそこから数日経過しても連絡はなかった――ただそれは、王都側で色々と紛糾しているため、らしかった。
(俺が地竜を食い止めた事実、かなり影響が大きかったか?)
そんな風にエリアスは思いつつ――それから日常に変化が起きたのは、地竜討伐から二週間ほど経過した時のことだった。




