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中年聖騎士は、気付かぬうちに武を極める  作者: 陽山純樹
第二章

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近づく目標

「かく乱のためにどのような魔法を使うかは、それこそ現場による判断しかない。よってフレンが閃光と音で気を引いたのは、彼女自身の判断だ」


 エリアスはそこまで言うとフレンへ目を向ける。


「で、効果は覿面だった」

「はい、地竜は目や耳から情報を取っているのは戦場にいて気付きましたから。もちろん、魔力探知によっても判断していると思いますが」

「なるほどね」


 ジェミーは声を上げる。魔物の研究をしていた彼女にはどういうことか理解できた様子だった。


「魔物は同じ見た目をしていても、何によって情報を得ているかは個体差がある。例えば狼の場合は五感で情報を得て活動しているけれど、似たような形を持つ魔物が同じように五感で周囲の状況を探っている保証はない……場合によっては目は見えていない、耳も聞こえていない、ただ魔力を探知して動いている、なんて可能性もある」

「はい、その中で地竜は少なくとも五感によって情報を得ていた……目くらましが通用したというわけです」


 フレンの言葉にジェミーは幾度か頷いた後、


「かく乱した後、エリアスさんが跳躍し結界内へ侵入。そのまま時間稼ぎを……というわけね」

「そうだ」

「地竜が人間側の行動に対し少し様子を見るような動きをしていたから、どうにかあの形に持ち込めた……といったところかしら?」

「そう思ってもらっていいよ」


 エリアスが答えたところで、聖騎士テルヴァが近づいてくるのが見えた。


「……処理が終われば砦に帰還するだろう?」

「そうだな、報告はそちらがやってくれるんだろう? なら、俺の出番はこれ以上ないな」

「今後、北部最前線で戦う気はないか?」

「それを判断するのは俺じゃなくて、政治的な権力を持つ人間だからな、どうなるかはわからない」


 肩をすくめながら話すエリアスに、テルヴァは目を細めた。


「……あなたは微妙な立場、ということか?」

「俺は初めて平民の人間、かつ現場の叩き上げという形で聖騎士に就任した。二十年以上戦い続けた功績からそうなったが、そんな初めての出来事に対し警戒を向ける人間が多数いるわけだ。実際、東部での武功を評価するなら、北部で配属される場所はきっと最前線とまではいかなくとも、魔物が発生する場所だろう」

「しかし実際は、後方支援の砦だったと」

「俺としては目標もあるし、戦果を手にしたい事情はあるんだが……無理に行動すればそれだけ政治的に追いやられる。俺に権力があるわけでもない、それこそ吹けば飛ぶような立場だからな」


 その言葉にテルヴァはどこか嘆くようにため息をついた。


「……北部の開拓最前線では、それこそ選りすぐりの実力者が必要だ。あなたの力は間違いなく、必要とされるだろう」

「評価してもらってありがたいが……」

「先ほど、目標があると言ったな?」

「ああ……といっても、北部で成り上がるとは少し違う。北部で話を聞く限り、東部の事情がほとんど伝わっていない。どうやら色々な要因によって、そうなっているらしい。俺としては共に戦ってきた仲間と呼べる彼らは正当な評価を受けてほしいと考えていて、なら俺が武功を手にしてちゃんと説明したいと思ったまでだ」

「武功によって、発言力を得ると」

「そういうことだな……よって、あんまり偉い人にはにらまれたくないな」


 エリアスの言及に対し、聖騎士テルヴァは苦い顔をした。


「そちらの事情はわかった……ならば、もう一つ質問がある」

「何だ?」

「東部の事情はあなたの言った通り、私にもわからないが……東部には、あなたのような実力を持っている人間は他にもいるのか?」

「うーん、どうだろうな……そもそも東部では魔物が出現する場所はそれほど多くはないし、連携で対処していた。俺が腕を磨いたのは色々と事情があったからで、今は個々の能力ではなく連携力でどうにかするのがスタンダードだからな」

「連携ならば、地竜……果ては地竜以上のものであっても打倒できる、か?」

「そこはわからないが……」


 エリアスが応じると、テルヴァは考え込む。地竜に対し単独で時間を稼いだという事実を考慮し、何か思案している様子。


(……もし東部に俺のような実力者がいれば、なぜ北部に来ないんだ、という話になるのか)


 テルヴァ自身、エリアスの実力を目の当たりにして何を思うのか――少し間を置いてから、彼は口を開いた。


「わかった、話をしてくれて礼を言う。今回の件は私なりに感じたことを含め報告しようと思うが、あなたのことはしかと記載させてもらうが、いいか?」

「俺が助力した、と?」

「そうだ。無論悪いようには書かない。政治的な影響は……不利益にはならないようにすることを約束する」


 彼の表情は真剣だった。エリアスとしては好意的に見られていることはわかったため、


「そうか。なら報告内容はそちらに任せる」


 それを聞いてテルヴァは一礼し、部下達の所へ戻っていく。それを見送る間にジェミーは、


「一月後くらいには、北部の最前線に立っているかもしれないわね」

「……どうだろうな」


 果たして、どう話が転ぶか。とはいえ、エリアスの目標に大きく近づいたことは間違いなさそうだった。


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