運命と出会う (1)
悪夢のような逃亡から三日ほど経った夕刻、空腹と騒がしさにマリアは目を覚ました。
三日歩いて、王都から百キロも離れていない町にようやく辿り着き、マリアたちは小さな宿に泊まっていた。
大人のいない幼い女子供が三人で――いかにもわけありといった一行の自分たちが宿に泊まるなど目立つ真似はしたくなかった。しかしお嬢様育ちの自分や妹が、これ以上野宿で乗り切れるとは思えなかった。
妹は粗食にも野宿にも文句を言うことなく黙って耐えているが、体は熱っぽく、不満を言ったり泣いたりする気力すらなさそうで。マリアもまた、野宿ではろくに眠ることもできず、体力が回復しているような気がしなかった。妹はきっと、マリア以上に参っているはずだ。
侍女が持たせてくれた路銀のおかげで、女三人で行動するぐらいの資金には不自由しなかったが、女子供だけの自分たちが金を使えばどうしても目立つ。身の安全のため、可能な限り使いたくはない……が、だからと言って惜しんでも仕方がない。
マリアたちが泊まった宿は、小さいが個室での宿泊を前提としているものだった。雑魚寝で泊まる大部屋を持つ宿も考えたが、頼れる相手がいない状況で見知らぬ人間と同室は避けたかった。
個室といえど壁は薄く、隣の部屋や廊下の物音は筒抜け。それでも屋根のあるところで、粗末でもベッドの上で眠ったおかげで、久しぶりに「休んだ」充実感はあった。
ふと隣を見てみれば、オフェリアはまだ熟睡している。
母の形見のぬいぐるみを抱きしめ、狭いベッドでマリアにぴったり身を寄せて眠っていた。
野宿に文句を言わなかったが、オフェリアはたびたび夜泣きをし、マリアの姿が少しでも見えなくなると落ち着きを失うようになっていた。そんなオフェリアをマリアは常に優しくなだめた――それを煩わしく感じることはなかった。
闇に怯え、失うことを恐怖する少女は、マリアの心の中にもいる。妹をなだめる言葉は、自分自身に言い聞かせるための言葉でもあった。
「クリス様、ナタリアです。いま戻りました」
控えめなノックの後聞こえてきたナタリアの声に、マリアはベッドから降りて扉の前の箪笥を力いっぱい押した。
箪笥も粗末な物で、木の色は変色してカビまで生えている。おかげでマリアの細腕でも動かせたのだが……女の腕で動かせてしまうこれが、バリケードの役目を果たせているのかどうかは疑わしい。
「遅くなってしまって申し訳ありません」
町についてすぐ、ナタリアには買い物と一緒に町の様子を探りに行かせた。
ナタリアを一人にするのは心配だったが、マリアやオフェリアを連れているよりナタリアだけのほうが目立たず動きやすい。休んでいてくださいと言ってくれたナタリアに甘え、マリアは妹と一緒に宿に残って帰りを待っていた。
「謝る必要はないわ。買い出しと情報集めを頼んだ上に警戒しろとまで言ったのは私なんだから。時間がかかるのは分かりきっていたことよ」
大きな手提げ袋から果物やパンを取り出すナタリアにそう言うと、マリアは妹を起こした。
「国を出る旅の一行ですが、思っていた以上に多そうです。あんなことがあって混乱していますから……雲行きが怪しくなる前に出立したいと話す者も少なくありません」
あんなこと、の部分でナタリアはオフェリアを見た。
妹は三日ぶりの新鮮な果物を頬張るのに夢中で、姉と侍女の会話を聞いていないようだった。冷たく硬い保存食の後では、焼き立ての温かいパンは極上のご馳走だ。
「傭兵やら芸人一座やら色々といますが、ガーランド商会が帰国にあたって人手を募集していました」
「聞いたことある名前ね。たしか、会長がエンジェリク人の……?」
「はい。諸国の貴族を顧客に持つ大きな商会です。会長のホールデン伯爵も含め、これ以上身元が信頼できるものはないかと思われます」
「商会が募集している人手というのは?」
マリアの問いに、ナタリアが決まりが悪そうに一瞬口をつぐんだ。
「……荷物運びです」
「私たちじゃ相手にもしてもらえないでしょうね」
何の戦力にもならないことは自分でもよくわかっていた。面接に行ったところで門前払いを食らうだけだ。しかし――。
「それでも、傭兵や旅の芸人一座よりは雇ってもらえる可能性があるわ」
ふと妹に視線をやれば、マリアが手に持ったままのパンを見つめている。マリアはオフェリアにパンを差し出した。
「いいわ。とても頑張ったものね。私の分も多めに食べていいわよ」
「でしたら私のを――」
自分の食事を差し出そうとするナタリアを制止し、マリアは立ち上がる。
「少しお腹がすいているぐらいのほうが頭が冴えるわ。私たちに与えてばかりで、あなたがほとんど食べていないことは分かってるのよ。ちゃんと食べて。私たちより、ナタリアのほうが動けなくなったら困るんだから」
それまで会話に口を挟むことなく食事をしていたオフェリアは、姉が扉へ近づくのを見て顔色を変えた。
「お姉様どこへ行くの?私も一緒に行く!」
慌てて飛びついてくる妹に、マリアは優しく笑いかける。
「だめよ。あなたはナタリアと一緒にいなさい。ナタリアも休まなくちゃいけないのに、一人ぼっちにするつもり?それに、私のことは何て呼ぶんだった?」
姉の説得に戸惑いながらもマリアの服から手を離し、お兄様、とオフェリアは小さく呟いた。
「ガーランド商会は町の南側にあります。青色に塗装された建物で、従業員の身なりもキシリアの衣装ではありませんから目立つはずです」
「ありがとう。商会へ行ってくるわ。戻ってきた時にはここをすぐに発てるようにしておいて」
マントを羽織り、マリアは宿を出た。
ナタリアの言っていた通り、町は人の往来が激しく、荷物をまとめている人々が多い。どこかの一団に自分たちもまぎれさせてもらおうと考えていたのだが、ガーランド商会のように身許のはっきりした、エンジェリクへ向かう一行がすぐに見つかったのは幸運だった。
三人だけでエンジェリクへ向かうことは、不可能だろうとマリアはすぐに判断していた。
キシリアは広大な土地を持つ半島の国で、エンジェリクは北にある島国。辿り着くためには船に乗る必要がある。
王都から港のある町までお嬢様育ちの自分たちの足で歩けるとは思えなかったし、港に辿り着いたところで船は見つからないだろう。国外へ出る船だ。セレーナ家の威光でも振りかざせば何とかなるかもしれないが。
旅人の一団を乗り換えながら綱渡りのように進んでいくしかないと覚悟をしていた。そんなマリアにとって、ガーランド商会の存在はまさに渡りに船。絶対に逃すわけにはいかない。
町の南側で、マリアはあっさりとガーランド商会が滞在している建物を見つけた。
町を出ようとする一団の中でも一際にぎやかだったし、エンジェリク風の服は暑いキシリアでは目立つ。「閉店」と書かれた貼り紙に一瞬躊躇したが、扉は開いていた。構わず押し開け、中にいる人に声をかけた。
「すみません」
店内には人が五人。
一番手前にいた人の好さそうな男性がマリアに振り返り、愛想の良い笑顔で答えた。
「おや。今日はもう店じまいしちゃったんですよ。何か買いたい物でも?」
「雇ってほしくて来ました」
マリアがそう言うと、奥にいた四人は呆れたり笑ったりした。
「荷物運びの募集なら、建物の裏に採用担当がいるぞ」
頭頂部の髪が少し寂しい中年男性が、自分の後ろを指差しながら言った。マリアは首を振る。
「そっち方面では役に立ちません」
マリアがそう言いきると、中年男性と他二人がさらに笑った。眼鏡をかけた真面目そうな男性だけは不愉快そうに眉をひそめていた。
「計算と読み書きは得意です。キシリア、エンジェリク、フランシーヌ、ベナトリア、オーシャンの五カ国語はマスターしていますし、簡単なものなら他にもいくつか……」
「お前程度の人材は必要じゃない」
眼鏡の真面目青年が口を挟んだ。苛立っているようで、マリアを見る目が吊り上がっている。
「ちょっと読み書きができるから雇ってくれと言ってきた人間が、今日だけでも何人いたと思うんだ?どいつもこいつも、口ばかりで大したことはなかった。こっちも暇じゃない。リースさん、こんな子供さっさと追い出しましょう」
リースと呼びかけられた男性は、マリアに一番最初に対応してくれた彼だった。
この場にいる人間の中では、マリアを厳しく拒絶する眼鏡青年に次いで若く見えたが、どうやらそれなりに地位があるようだ。
ならば、と。マリアは目の前の男性を見据えて言葉を続ける。
「ちょっと読み書きできる程度でいいなら、イヴァンカ、チャコ、ファラダ、ルシェもできます」
「ルシェ?」
リースが反応した。
自分は読み勝ったという確信の笑みがこぼれそうになるのを堪え、マリアは頷く。
国の宰相で外交にも携わっていた父は、娘にも多様な言語を勉強させていた。
半島の国キシリアは三方を海に囲まれていることもあって交易が盛んだ。外国人と接する機会も多い。
ルシェは、海の向こうの大陸にある南方の小国――最近まで存在すら知られなかったようなところで、その重要性にいちはやく気付いた父がマリアに学ぶよう指示してきた。
正直言って、学んだ言語の中で一番自信のないものだが……。
「ここに座って待っていてもらえますか。すぐ戻ります」
何やら考え込んでいるリースは、出入り口すぐの窓際のテーブルを指差し、カウンター奥の扉の向こうへ消えて行った。
マリアは指示されたテーブルに着席してリースを待った。他の四人は自分たちの仕事に戻ったらしく、店内はペンを走らせる音や紙をめくる音しか聞こえなくなった。
リースは五分と経たずに戻ってきた。
手に一枚、紙を持っている。カウンターからメモ用の羊皮紙と羽根ペンを取ってマリアの目の前に座り、リースは持ってきたたものを手渡した。
「十分で、その書類の内容をエンジェリク語に要約してください。全部訳さなくてもいいですよ。どれぐらいできるのか確認したいだけですから」
穏和な口調と優しい笑顔でそう言ったが、なかなかの無茶ぶりだとマリアは思った。
ざっと書類に目を通す。
予想通りその書類はルシェ語で書かれていて、いまのマリアでは完全に読み解くことはできない。自分の実力はよく分かっている。単語を拾い集めて推測するしかない。
書類はボルボという町の報告書のようだった。ボルボはルシェにある町で、砂糖と茶葉を主な生産物にしている。商会の報告書なら、これらに関する記述がどこかにあるに違いない。
目当ての単語は綺麗に並んでいたからすぐにわかった。四つの品物について、金額が書かれている。品物は茶葉と砂糖と、真珠……。最後のひとつはわからなかった。これは単語を丸写しにし、また書類に目を落とした。
金額と思わしき数字がいくつも並んでいた。何のお金なのか、はっきりわかったのは「原価」の部分だけ。単語から推測できた仲介料とは別の料金が書かれている。直訳すると「人間の金額」なのだが、仲介料とは違う人間にかかる金……。
商売の仕組みについて知識のないマリアではわからない。仕方なく人件費と書き加えた。
とにかく重要なのは、ボルボの町の特産品が四つあり、それらの品物について原価を始め諸費がいくらかかるかということ。
ルシェ語は完ぺきではないと最初に言ってある。いまのマリアではこれが限界だ。メモ用紙に書き終えた要約を、リースに渡した。
「ふむ……」
マリアが書き終えたメモを眺めると、リースはにっこり笑った。
「ついておいで」
その言葉に、仕事をしていた他の四人がちらりとマリアたちを見た。
人の好さそうな外見をしているリースの反応はかえってわかりにくい。マリアはそう思った。他の人たちのおかげで、悪くない結果になりそうだと感じ取れたが……。
建物を出て細い路地を通り、マリアは別の建物に案内された。
最初に入った建物がガーランド商会と認識していたのだが、それはどうやらマリアの思い違いだったらしい。あの建物は商会への入り口であって、町の南側――辺り一帯全てがガーランド商会のもののようだ。
道理でエンジェリク衣装の人間がすぐ見つかるはずだ。広い地域で商会の人間がうろうろしているのだから探す必要もない。
入り口となっている建物から歩いて十五分ほどで、この辺りで一番大きい建物に着いた。
見張りとして立っている護衛もすれ違った人々とは明らかに格が違う。マリアの背筋が自然と伸びた。
「ホールデン伯爵、失礼します。デイビッド・リースです」
建物の中は重厚な装飾が施され、宮廷の一室を思い起こさせた。華美ではないが、持ち主の権威をよく示している。
大きな書斎机の向こうに座る男性が、ガーランド商会のトップであることはすぐにわかった。
これほど威圧感と存在感のある彼を目前にして、件のホールデン伯爵だと気付かないほうがどうかしている。
「どうかしたのか。見慣れない少年を連れているようだが」
白髪交じりの髪に、顔にはいくつか皺も刻まれている。ガーランド商会のトップはマリアの父親とそう年が変わらないと聞いていたが、父よりも老成しており、よろしくない言い方をすれば、本来の年齢よりも年老いて見えた――もっとも、マリアの父はかなりの童顔なのだが。
しかしその気力に満ちあふれた姿は白髪も皺も気にならないほど若々しくも感じられたし、十代になったばかりのマリアでは足元にも及ばないほどの貫禄もあった。
「雇ってほしいとやって来たんですよ。えーっと……そう言えば、名前を聞いていませんでしたね」
「クリスです」
ホールデン伯爵に気圧されていたマリアは、はっと我に返り慌てて平静を取り繕った。
「言語が堪能と自分を売り込んで来まして、ルシェ語ができると話すので試しに要約をさせてみたんです」
マリアが書いたメモを、リースは伯爵に渡した。メモを読んだ伯爵は、意味深に笑う。
「最後のひとつはアロエという植物だ」
その言葉の意味をすぐに理解した。
マリアがわからなかった最後の特産品だ。名前から察するにルシェ、もしくはボルボにしか生息しない植物に違いない。固有名詞にも近い単語は、知らなければどうしようもない。
「人件費は訳としては間違いではないが、商人の間では運輸代と呼んでいる」
「……勉強不足でした」
それももはや固有名詞に近い。商売の知識がなければわからないことだ。
だが知らなかったから分からなかった、仕方ない、は通用しない。自分はそういったところで働きたいと思っているのだから。
「働きながら勉強します。勉強すれば何とかなることなら自信があります。最初は足手まといかもしれませんが、すぐに追いついて見せます。お願いします。ここで働かせてください」
そう言ってマリアは頭を下げた。
ありがたいことに、すぐに援護があった。他ならぬリースが、私からもお願いします、と言葉を続けてくれた。
「私もルシェ語を勉強し始めて半年ですが、彼のレベルはすでに私と同等以上です。この年で……ええっと、おいくつですか?」
「十三歳です」
「あれっ、思ったより年上だったんですね。もっと幼いのかと勘違いしていました」
マリアはぎくりと冷や汗をかいた。
仕草や口調には気をつけていたが、年齢には思い至らなかった。同世代の男子と接する機会が少なかったこともあって気付かなかったが、もともと自分は童顔寄りと言われていたし、十三歳の少年にしては幼すぎるのかもしれない。
リースは気にした様子もなくホールデン伯爵に話を続けた。
「とにかく、この年でいまの私と同等なのですから、伸び代には期待できますよ。ルシェ語が話せるのは伯爵と私だけです。ぜひこの子を雇ってください。というか雇わないと、いい加減、私も暴動を起こします」
人の好さそうなリースの、突然の不穏な発言にマリアは目を丸くした。
ホールデン伯爵も苦笑している。
「ええ、もう私もおかんむりなんですよ。限界です。これ以上私に仕事をやらせるなら行動を起こしますよ。仕事は好きですし優秀さを買ってくださるのは有難いんですがね、だからといって押しつけ過ぎです。翻訳担当で入ったはずなのに、事務に商談に、どれだけ仕事させるんですか。しかもなんですか。キシリアなのにキシリア語話せない人間が多過ぎです。翻訳に集中させてくれるならまだしも、他の仕事こなしながらとか私を過労死させる気ですか。そんなに私を殺したいのなら、まとめた書類全部ぶちまけて死んでやりますからね。この子を雇ってくれないなら、もうそうしてやります」
まくしたてるリースに、伯爵はついに声をあげて笑い出した。
……会話から察するに、彼は仕事量が多過ぎてノイローゼになりかけているのだろうか。
リースの不満を聞いていたマリアは、キシリアって外国人多いものね……と納得していた。
キシリアに交易に来ているぐらいなのだから、キシリア語は話せるだろう。だが母国語ではないし、キシリア語では表現が追いつかない商人も多いに違いない。
だから外国人と接する機会の多いキシリア人は言語に堪能だ。マリアの言語能力も、年齢の割にはというだけで格別優れているわけではない。父は十カ国以上マスターしていたし。
「分かった。君の能力の高さに胡坐をかいていた私が全面的に悪い。クリス」
伯爵がマリアを見据えた。灰色に近い青の瞳にまっすぐにとらえられ、マリアは背筋を正した。
「我々はエンジェリクへ帰国する予定だ。君の雇用はキシリアを出るまでの間になるが、それでも構わないかな?」
「雇用はそこまででも結構ですが、エンジェリクへ帰国する船には同乗させて頂けないでしょうか。僕も親戚を訪ねてエンジェリクへ行きたいんです」
「それぐらいのことは報酬のひとつとして認めよう。エンジェリクでの雇用の継続は、これからの君の働き次第だ。給料や時間についてはデイビッド・リース――彼と直接話し合いたまえ。君の仕事は彼の補佐がメインとなる。何か質問は?」
「一緒に連れて行きたい人たちがいます。彼女たちも同行させて構いませんか」
図々しい頼みを、マリアは怯まず伯爵にぶつけた。
雇用そのものを取り消される恐れもあったが、オフェリアとナタリアも一緒に行けないのではここで働く意味がないのだ。
「妹と、僕より少し年上の友人です。友人は貴族の家で侍女として働いていた経験もあるので家事に長けています。妹は――迷惑をかけないよう言い聞かせます。僕が彼女たちの分も働きますし、皆さんの邪魔にならないように二人にも気をつけさせます」
「いいんじゃないですか。女の子二人なら食い扶持を考えてもさしたる負担にはならないでしょう。どうしても応じられないというのならば、私の給料を引いてください。頂いたところで使っている余裕もなくて貯まる一方ですから、私としては何も困りません」
リースの助け船は、これ以上ないぐらい有難かった。ホールデン伯爵も気分を害した様子はなく、雇用の撤回もなさそうだ。
「ずいぶんとその子に肩入れするのだな」
「それぐらい切羽詰まってるんです。本当に限界なんですよ。ちょっとでも助けになってくれるのなら、藁にでもすがりたいんです」
並々ならぬリースの迫力に、いったいどれだけ働かされることになるのかマリアは少し不安になった。
しかしそんな不安も些細なこと。この幸運を手放すわけにはいかなかった。




