※コミカライズ化が決定しました
このたび、ネット小説大賞コミックシナリオ賞を頂きまして、
本作はコミカライズが決定いたしました。
このような賞を頂けましたのも、読者の皆様からのあたたかいお言葉を支えに、
この作品を書き上げることができたからだと、感謝の思いでいっぱいです。
具体的なお話はこれからですが、
マリアやオフェリア、伯爵たちにどのようなビジュアルが与えられるのか、
作者としてもとても楽しみにしております。
「君を着飾らせるのはとても楽しい。それを脱がせるのはもっと楽しい」
「私には理解できない楽しみです」
美しいドレスと装飾品で着飾ったマリアは、呆れたようにため息を吐くばかり。そんな彼女の反応も愉しいのか、ホールデン伯爵は気を悪くした様子もなく笑っていた。
「僕も腕の振るい甲斐があって、とても楽しいけどね」
取り成すように言いながら、メレディスはマリアの肖像画を描き続ける。
今日は、ホールデン伯爵の依頼でマリアの絵を一枚描き上げているところであった。
といっても、月に数回は伯爵の着せ替え人形となって、メレディスに描いてもらっているのだが。
伯爵はもう、部屋中の壁に飾っても飾り切れないほどの絵を所有しているのではないだろうか。
モデルのたびに着るドレスも、マリアではだんだん見分けがつかなくなってきた。今年の流行りらしいが……去年と何が違うのか。
「マリアはなんだかんだ、自分に自信があるんだろうね。だから着飾ることに興味がない――着飾らなくったって、その気になれば、とてつもなく魅力的になれるから」
「そこまで自惚れられないわよ」
絵描きのメレディスは、見た目だけでなく人の内面を見抜く目にも長けている。彼の分析はたぶん正しいのだろう。
でも……謙虚ぶるつもりはないのだが、メレディスの人物像に素直に頷く気はなれなくて。
「十分に実績もあるというのに、どうしてこうもマリアは自己評価が低いのだろうな。私にも不思議だ」
「伯爵にも原因があるのでは」
沈黙して長椅子にゆったりと腰かける伯爵のそばに控えていたノアが、口を開いた。
伯爵がノアに視線をやると、いつもポーカーフェイスの彼は、表情を変えることなく話し続ける。
「伯爵のような別格が常にそばにいては、多少の自信など吹き飛んでしまうものです。それについては私も身に覚えのある感覚なので、マリア様のお気持ちが理解できてしまいます」
「おまえは相変わらずマリア贔屓だ」
伯爵は面白くなさそうに言ったが、あら、とマリアが反論した。
「いまのは私に肩入れしたというより、私よりもヴィクトール様のことを分かってますアピールではありませんか。まだノア様には勝てないのは事実なので、私の方が嫉妬しちゃいますわ」
わざとらしく拗ねて見せれば、ノアはわずかに苦笑し、伯爵は愉快そうに笑った。
「お姉様!私も伯爵の絵が描けたわ!見てみて!」
部屋に明るい声が響いてきて、ノックもせずに飛び込んできたのはオフェリアだった。
お気に入りのスケッチブックを手に、絵のモデルを務めるマリアのもとに駆け寄ってきて、嬉しそうに見せびらかす。
オフェリアらしい表現方法で描かれた、伯爵の姿。オフェリアが描いただけあって、なんだかとってもメルヘンで、乙女チックな絵だ。
このきらびやかさは伯爵というより、王子様のような……。
「そうだ。私もヴィクトール様を着飾らせて、肖像画を描いてもらおうかしら。そうすれば私も、私の被服代に無駄遣いするヴィクトール様の気持ちが少しぐらいは理解できるかも」
「そんなものは理解しなくてよろしい」
名案を思い付いたとばかりの笑顔でそんなことを言い出したマリアに、ぴしゃりと伯爵が言い捨てた。
だがマリアも伯爵の言葉は華麗に聞かなかったふりで、ニコニコとノアに話しかける。
「ノア様。せっかくだから、ノア様からもアドバイスが欲しいわ。ヴィクトール様を、これでもかというほど着飾らせてやるんだから」
「実に素晴らしい思い付きです」
「棒読み丸出して、おまえも適当なことを答えるな」
ちょっと面白がっている自身の従者を伯爵は咎めたが、オフェリアも無邪気に喜び、私も選びたい、と言い出すものだから、頭を抱えるしかない。
「オフェリアも楽しみよね。ヴィクトール様。腕によりをかけて、ヴィクトール様をヒラヒラのフリフリのキンキラキンに着飾らせてみせますわ」
そう言って自分を見るマリアの目が笑っていないような気がして、ちょっと私怨も入っているな、と伯爵は察した。
マリアに恨まれようとも、復讐にゴテゴテの衣装を着る羽目になろうとも、マリアを美しく着飾らせること――彼女のために惜しみなく金をつぎ込むことを、伯爵が止める気配はまったくなかった。
余談ですが、出版社講評で「不甲斐ないしどうしようもないけどかっこいい男たち」と男性陣が割とボロクソ評価なのは笑いました。
言われてみれば、
この作品の象徴ともいえる二大ヒーローのヒューバート、チャールズからして、
兄弟そろってマリアの尻に完全に敷かれているポンコツでしたね(笑)




