後書き
「紫色のクラベル~傾国の悪役令嬢、その貴種流離譚~」を最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。
「え、ここで終わり?このキャラとかのその後は??」と感じられる方もいらっしゃることと思います。
マリアの物語そのものは、大河小説風のタグがついているように彼女が死を迎えるその時までストーリーを練ってあるのですが、これ以降の物語は趣旨が変わってきてしまうので、「貴種流離譚」としてはここまでとなります。
いずれその後の物語も書き始めるとは思うのですが、しばらくは書き溜めと、「貴種流離譚」編の書き直しで始まるのは先になります。
この物語は、いくつかテーマを掲げ、意識して書いてみました。
『歴史は繰り返される』
これが最大のテーマです。
フェルナンドのせいで全てを失って故郷を逃げ出し、マリアの貴種流離譚は始まるのですが、その終わりに今度はマリアがフェルナンドの立場となり、全てを失ったチャールズが故郷から逃げ出します。
つまりマリアの貴種流離譚が終わったと同時に、今度はチャールズの貴種流離譚が始まるのです。それも、マリアの立場が入れ替わった状態で。
他にも感想でご指摘頂いた通り、グレゴリー王の父親はエステルを閉じ込め、王太子だったグレゴリーが息子の立場から助けた過去がありながら、今度はグレゴリーがマリアを閉じ込めてしまいます。父親と同じことをしているのですね。
しかも、今度は王が息子であるヒューバート王子によって止められてしまうという。まさに、歴史は繰り返されました。
この作品には、似たシチュエーションが繰り返される、同じことをしているキャラ、立場が入れ替わったキャラ、といった歴史や運命が繰り返される場面が意図的に多くなっております。
『人間の多面性』
主人公のマリアが顕著ですが、完全な善人も完璧な悪人もいないのがこの作品の特徴です。
ある視点で見れば良い人、でも別の視点で見れば?というキャラばっかりで。
悪役キャラにも色々と背景や、そうなるに至った要素なんかも盛り込んでみました。
(さすがにエピソードにちょこっと出てきてすぐ退場してしまうようなキャラは別ですが)
『父と子』
親子関係、特に父と息子の関係には非常に重きを置いています。
父と子の関係が良好だったり屈折していたりと。父親との関係にキャラの人格形成が大きく影響を与えています。
男性社会を生き抜く少女の物語なので、男にとって父親というのはひとつの大きなキーワードになるかなと、母子関係より比重が偏ってます。
母子関係もそれなりに影響があるんですけどね。特にマリアに惹かれた男性たち。全員がマザコンでマリアに母親像を見たから惹かれたといった裏設定もありまして。バブみを感じてオギャりたかったといっても過言ではないです。
もうちょっと良い言い方をすれば、早くに亡くしていたり関心を向けてもらえなかったりと、母親が埋めてくれなかった愛情を、姉属性が高じ過ぎて母性本能の塊になっちゃってるマリアに求めたわけです。
父親との関係が希薄でも、父親に相当する男性庇護者・男性指導者との疑似父子関係もありまして
・チャールズ王子と伯父リチャード
・メレディスと兄アルフレッド
・シルビオとクリスティアン・デ・セレーナ
・ノアとホールデン伯爵
など。
父親か、父親代わりになってくれた相手からしっかり愛されていたキャラは、だいたい幸せになってます。
色んなキャラがいて色々設定を作ってますが、全員紹介すると長くなるので、とりあえず主人公について。
何となく気付いていた方もいることと思います。
主人公のマリアは、サイコパスな要素を持っている少女です。
普通の人より恐怖心や罪悪感がずっと鈍く、人の命を奪うことに対して恐ろしくハードルが低い。普通は最後の手段として人の命を奪うものですが、彼女の場合、それが割と最初の手段に来てしまう。
自尊心がものすごく高くて、プラスの面が大きいから非難されないだけで嘘をつくのもお手のもの。
彼女のプライドの在り方が普通の人とはちょっと違っているから周囲からは好意的に見られがちですが、絶対譲らない頑固さというか、偏執ぶりはやっぱり異常かも。
人にちゃんと愛情も持てるし恐怖心も罪悪感もないわけじゃないので完全なサイコパスではないですが、生まれた場所での価値観や、周囲と環境に恵まれたというのあります。
マリアが生き抜く世界では、サイコパスなぐらいのほうが生き延びやすいです。
フェミっぽい裏設定を明かすと、女の地位は低くて男の食い物にされがち、という世界観なので、マリアの性格がこれじゃなかったら、この物語はものすごく陰鬱で悲惨な雰囲気のお話になってました。ちょっと異常なぐらいのマリアだから、ケロッと明るくやっていけたところもあります。
妹のオフェリアが現代でいうところの知的な面でグレーゾーンな子なので、実はこの姉妹、見かけは文句なく美しいけど中身は二人揃って問題抱えてるという共通点があったり。
「主人公は物語の悪役のテンプレを全部揃えている」ということにはこだわりました。
サイコパスな一面があり、常に人を操って、自分の手を汚すことなく人にやらせる、というのを徹底しています。
そして「最後には、悪は愛によって倒される」という、こちらも物語のテンプレな結末を必ず迎えるようにしました。
何の落ち度もないキャラを貶めていくのはあまりにも胸糞なので、ある程度、対立する相手もヤな奴という設定をつけていますが、最終的に物語に登場した中で主人公は一、二位を争う悪辣さかもしれませんね。




