海軍提督と愉快な一行
オーウェン・ブレイクリー提督とその一行が滞在していると聞いた町に着き、マリアはノアと共に彼らを探していた――なぜかマサパンも一緒に。
「えっと……目撃談によると、この近くにブレイクリー提督たちが滞在しているはずなんだけれど……」
それなりに広い町。提督たちの姿は見つからない。
あれだけの存在感なのだからすぐ見つかるかと思ったのだが……見通しが甘かっただろうか。
マリアがきょろきょろとあたりを見回していると、マサパンが元気よく走り始めた。マサパンは、海のある方向へ走って行く。
「もしかして、もうエンジェリクに向けて出港しているのかしら」
「いくらなんでもそんなことは。王国騎士団は戦争が終わればそのまま帰国しても問題ありませんが、海軍の皆さんには、ヒューバート王子をエンジェリクまで送り届ける任務が残っていますし」
しかし、やはり海のある方向から賑やかな声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声も入り混じっているし、どうやらエンジェリク海軍や王国騎士団の皆がいることは間違いないようだ。
「……まさか、この季節に海で泳いでる?」
賑やかな海辺に到着し、そこで見たものにマリアは唖然とした。
ノアですら、ポーカーフェイスは崩れていないものの眉間にしわを寄せている。
エンジェリク海軍の水夫たちと、王国騎士団の騎士たちは、もう冬も目前という気候で、水泳勝負に耽っているらしい。それぞれの代表を皆応援しているが……応援していないで止めるべきでは。
「駄目よ、マサパン。そろそろ海も冷たいわ。いくらあなたでも……ああ、飛び込んじゃった……」
水泳勝負に、マサパンが文字通り飛び入りを果たす。意外と器用に犬かきで泳いでいるが、さすがに先に泳いでいた二人には追いつけずにいた。
「よっしゃー!さっすが提督!完勝ですよ!」
ゴールする選手に観客が喜び、水泳勝負をしている人が海軍提督オーウェン・ブレイクリー提督であることをマリアは知った。王国騎士団のほうは、副団長のカイルだ。
それぞれのトップが何をやっているのやら……。
「はっはっはっ!海でワシに勝負を挑むなんぞ、無謀っちゅーことや!」
「オーウェン様ったら……」
海から出てきたブレイクリー提督は、一応男性用下着であるブレーは履いたままだが、裸だ。というか、男ばかりで泳いでいたからほとんど全員がそんな格好で。
マリアの姿を見つけて、何人かは慌てている。
「おお、マリアか。ワシの勇姿、見とってくれたか?」
「拝見させて頂きました。豪快な泳ぎなのに素早くて、最初、人間が泳いでいることに気付きませんでした」
ブレイクリー提督や水夫たちはマリアに裸同然の姿を見られても動じる様子はないが、王国騎士団の騎士たちは真っ赤になって逃げ回っている。
――乙女か。
「それにしても、何であんたがここに?帰国が早まったんか?」
「いいえ。オーウェン様のお母様が眠っていらっしゃる僧院を訪ねようと……その前に、提督に会いに来たのですが……」
マリアは鍛えられた男性たちの身体を、じーっと見つめていた。
鍛えられた男の身体はやはり魅力的だ。あの筋肉があれば、これまで降りかかって来たトラブルも、マリアの腕で薙ぎ払えたかもしれない。
ものすごーく羨ましくて、逞しい男たちの身体を食い入るように眺めていたら、ブレイクリー提督にひょいと担ぎあげられてしまった。
「ワシの目の前で、他の男に色目使うんやない。これ以上の浮気は許さんで」
「あーん、眼福でしたのにー」
抗議するように提督の背をポコポコと叩いてみるが、固い背筋はビクともしない。
「男の身体が堪能したいなら、ワシでたっぷりさせたるわ」
「オーウェン様は別格過ぎて、むしろ別腹です」
「デザート扱いかい。こりゃ、きっちり分からせなアカンな」
マリアを担いで、のっしのしと提督は歩き出す。
たぶん今夜は提督に離してもらないだろうな、なんてことを考えながら、マリアは抵抗せずされるがままになっていた。
「どうぞごゆっくり。私は、マサパンと共に泊まれる宿を探してきます」
そう言って、ノアはマリアを見送る。
提督にマリアを任せきりにできるので、ちょっとホッとしているに違いない。薄情な男め。
「私、町に着いたばかりなので、お風呂に入りたいです」
担がれたまま提督が寝泊まりしている宿に着くと、マリアが言った。
「もちろんええで。一緒に入るか」
「あと、明日お母様のお墓を訪ねられるよう、加減していただきたいのですが」
「よう言うわ。いつも朝になったら、ケロっとした顔で起きてきとるクセに」




