番外編:特別な朝に
番外編二本目 一本目と同時投稿です
時系列としては一本目より前
真っ暗な部屋に差し込んだ一筋の光がちょうどユリアの顔を射た。もぞもぞとベッドの中で身じろぎして、ほんの少しだけ目を開く。ん、と思わず声が漏れた。
視線の先には男が静かに寝息を立てて眠っていた。あどけない顔。こうしていると、昔とさほど変わっていないように思えた。
そういえば、ユリアがコンラートの寝顔を見るのは随分と久々である。すぐに起きるのはやめて、まじまじと観察する。
コンラートはゆっくりと息を吸い、吐いていた。裸の胸が呼吸に合わせて動く。戦場や訓練でついたのだろう、細かな傷が残っていて、動くたびに生き物が這っているようである。
特に何を考えたわけでもなく、その胸に自分の手を置いてみる。わずかな凹凸の感触がある。温かい人肌だった。
なぜだか泣きたくなる。
その感情を振り切るように彼女が身体を起そうとすれば、ベッドに引き戻す腕があった。
「……ユリア」
寝ぼけたような声で引き留めたコンラート。いつのまにやら起きていた彼は両腕にユリアの身体をすっぽり収めてから、「今日ぐらいいいじゃないか」と甘えたように言ってくる。
「どんな夫婦だって、初夜はとびきり長いと相場が決まってる」
ユリアとコンラートは晴れて結婚した。元修道女と土地を持たない騎士ということで、結婚の誓約はさほど華々しいものではなく、どちらかと言えば世間から憚るようなこっそりとしたものだった。だがそれでも色々苦労を乗り越えた末に、正式な結婚をし、夫婦になれたのだ。
この日を夢にまで見たコンラートの喜びはひとしおである。
昨夜やっとのことで積年の思いを遂げたコンラートは自分の腕の中にいる新妻が可愛くて仕方がなく、今までなら言えなかった本音も簡単に零せるようになっていた。
反論したそうな顔を向けるユリアに、コンラートは小さく笑みを浮かべて、
「俺と結婚してくれて……ありがとうな」
そう言ったものだから、ユリアは今更ながら昨夜の顛末を思い出し、さっと顔を赤らめて、伏せた。
ずるい、と心の中で呟きながら、ユリアは自分が確かに目の前の夫を愛していることを自覚したのである。
これで完結です
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!




