表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さよならからはじまる恋。  作者: 川上桃園
さよならのつづきは。
29/29

番外編:特別な朝に

番外編二本目 一本目と同時投稿です

時系列としては一本目より前

 真っ暗な部屋に差し込んだ一筋の光がちょうどユリアの顔を射た。もぞもぞとベッドの中で身じろぎして、ほんの少しだけ目を開く。ん、と思わず声が漏れた。


 視線の先には男が静かに寝息を立てて眠っていた。あどけない顔。こうしていると、昔とさほど変わっていないように思えた。


 そういえば、ユリアがコンラートの寝顔を見るのは随分と久々である。すぐに起きるのはやめて、まじまじと観察する。


 コンラートはゆっくりと息を吸い、吐いていた。裸の胸が呼吸に合わせて動く。戦場や訓練でついたのだろう、細かな傷が残っていて、動くたびに生き物が這っているようである。


 特に何を考えたわけでもなく、その胸に自分の手を置いてみる。わずかな凹凸の感触がある。温かい人肌だった。


 なぜだか泣きたくなる。


 その感情を振り切るように彼女が身体を起そうとすれば、ベッドに引き戻す腕があった。


「……ユリア」


 寝ぼけたような声で引き留めたコンラート。いつのまにやら起きていた彼は両腕にユリアの身体をすっぽり収めてから、「今日ぐらいいいじゃないか」と甘えたように言ってくる。


「どんな夫婦だって、初夜はとびきり長いと相場が決まってる」


 ユリアとコンラートは晴れて結婚した。元修道女と土地を持たない騎士ということで、結婚の誓約はさほど華々しいものではなく、どちらかと言えば世間から憚るようなこっそりとしたものだった。だがそれでも色々苦労を乗り越えた末に、正式な結婚をし、夫婦になれたのだ。


 この日を夢にまで見たコンラートの喜びはひとしおである。


 昨夜やっとのことで積年の思いを遂げたコンラートは自分の腕の中にいる新妻が可愛くて仕方がなく、今までなら言えなかった本音も簡単に零せるようになっていた。


 反論したそうな顔を向けるユリアに、コンラートは小さく笑みを浮かべて、


「俺と結婚してくれて……ありがとうな」


 そう言ったものだから、ユリアは今更ながら昨夜の顛末を思い出し、さっと顔を赤らめて、伏せた。


 ずるい、と心の中で呟きながら、ユリアは自分が確かに目の前の夫を愛していることを自覚したのである。


これで完結です

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ