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彼は舞い戻る6

 一目見れば分かる。なんて自惚れてたわけではないが。


「……」


 真っ先に目をひくのは黒い眼帯。

 親父さんが捕まる時のドタバタで右目を怪我していたから、失明して眼帯というのもありえなくはない。

 しかし当時を知っている人間の偽装の可能性も……。


 三年。

 その長さを甘く見ていた。


 成長期の男なら背が二十以上伸びても不思議ではない年月だ。

 さらに三年の間に積み重ねたであろう重圧。

 柔和だった顔つきも険しいものへと変えるだろう。


 要するに、中途半端に面影があるせいでどちらとも言えない。


「まずは、無体を働き皆様を集めたことを詫びましょう」


 マクシミリアンの言葉は謝罪から始まった。

 力にモノを言わせておいて今更何をという言い様だが、律儀なあいつなら確かに謝罪から始めてもおかしくない。

 そのせいで不利になろうとも、謝らずにはいられない。

 そういうやつだ。


「だが私は訴えなければならなかった。この国で行われている不正を。謀りを。悪を」


 そう言葉を続けながら、伸ばした手をゆっくりと持ち上げていくマクシミリアン。

 手足の長さも相まって絵になっている。


 まずいな。

 奴が本当にマックスかどうかは置いといても、これは「魅せ方」を知ってる人間の演説だ。

 このまま続けさせれば、本当に復古派に転ぶ人間が出てくるかもしれない。

 かといってマキが奇襲をかけるまで俺が動くわけにも……。


「私はマクシミリアン。かつて大逆罪の汚名を着せられ処刑されたデニス・エーデルヴァイスの息子です。そして私自身も密書の受け渡しに関わっていたという濡れ衣を着せられました。当時まだ十二になったばかりで何も知らない子供だった私に」


 確かに当時マックスは十二歳だったが……何も知らない子供ってこたあないだろう。

 大逆騒ぎのせいでなかったことになったが、学院への入学最年少記録を塗り替えた男だぞ。

 間違いなく自分の置かれた立場を理解していたはずだ。


 まあそこを馬鹿正直に言う必要は確かにないが。


「残念ながらこの場で身の潔白を訴えても皆様は信じられないでしょう。だがこの中から多くの人が今後国の行く末に関わる立場へに至るに違いない。だから心に留めておいて欲しいのです。今から私が述べる真実を」


 なるほど。

 今回の一件で決定打を与えるつもりではなく、将来国の中枢に関わることになるであろう人材に国への疑心を植え付けておくつもりか。


「聞いたことがある人も居るでしょう。私たちを嵌めたのは当時裁判所において勢力を伸ばしていた平民たちであり、貴族の力を削ぐために行われた陰謀だと」


 聞いたことがねえ。

 いやさっきマキから聞いたが、そんな噂が流れているのは俺は知らなかった。

 オットー兄なら商売柄情報も集めているから知っていたかもしれないが、当時のことを引きずってる俺の耳に入れるわけがないか。


「その情報は全くの間違いです」

「なっ……」


 壇上のマクシミリアンの言葉に、学生たちはもちろん仲間であるはずの男たちまで驚きの声をあげて戸惑い始めた。

 そりゃそうだろう。

 さっき外で話したトサカもそれを信じていたし、恐らくはやつらにとって真実だったはずだ。


 平民に嵌められた悲劇の貴族。

 そのバックボーンがあったから少なからずマクシミリアンは復古派に受け入れられていたはず。

 なのにそれを否定するとは。


「そもそも司法官の立場にあるだけで、証拠を捏造し弁護全てをねじ伏せることなどできるはずがない。全ての糸を引いていたのは王と並ぶ権力を持った男。護国卿ヴェ……」

「そこまでです!」


 マクシミリアンの告発は、突如舞台の上から降り立った新たな役者によって中断された。


「がァッ!?」

「動くな!」


 光を斬り裂く影のような黒衣の少女。

 マキは落下の速度をそのまま乗せるようにマクシミリアンを引き倒すと、即座にその喉元にナイフをあて周囲を牽制する。


 マジでやりやがったあのシスター。

 しかもマクシミリアンを引き倒すことで落下の衝撃も殺してる。

 どうやったらそこまで効率よく体を動かせるんだ。


「教会の犬が邪魔をするな!」

「ッ!?」


 しかしマクシミリアンの覚悟の方がマキの予想より上だったらしく、喉元のナイフを無視して相手を蹴りあげ距離をとる。

 いや、マキが自分を殺すつもりがないのを察したのか。

 あるいは教会の犬と呼んだという事は、今回の件に最初から教会は何らかの関与をしていたのか。


「クソッ! マキ! 早くそいつ取り押さえろ!」

「あの女の仲間か!」

「たかが二人だ斬れ!」


 マキの方に仲間の連中が少しでも行かないよう大声を出してみたが、十人以上となると素人相手でもきついな。

 それに奴らの頭が冷えて、学生を人質に取られたら……。


「二人だけではないぞ!」

「今こそ友を救う時!」

「な、なんだ!?」

「うわあああ!?」


 しかしこちらに向かって来ようとしていた男の何人かが、突如座席から立ち上がった大きな影に投げ飛ばされ、殴り飛ばされる。


「何が目的か分からず様子を見ていたが!」

「我らが友の敵ならば我らの敵!」


 そう言って拳を掲げるのはアルヌとアルノ兄弟。

 居たのかおまえら。

 しかも様子見をしていたのに俺が危ないと見るや出てくるとは。


 本当に友達甲斐のあるやつらだよ。

 暑苦しいが。


「サンキュー二人とも!」

「何。この程度!」

「それに弱者を武器で脅すなど気に入らなかったのだ!」

「うわあ!?」

「何だこいつら!?」


 そう言って剣で斬りかかられるのもお構いなしに、男たちをちぎっては投げちぎっては投げていくアルヌ兄弟。

 いや強いだろうなと思ってはいたがここまでとは。

 座席のせいで身動きとりづらいってのに、相手の剣がかすりもしてないぞ。


「教会の犬が今更何の用だ!?」

「教会の意向ではなく私個人が貴方に用があります!」


 一方の部隊の上では、マクシミリアンとマキが剣とナイフで斬り合っている。

 しかしマキはもちろんマクシミリアンの速さも尋常じゃない。

 舞台の上で舞い戻るように立ち回り、飛び回る。

 男たちが何人か駆け付けたようだが、足手まといになりかねないことぐらいは分かるのか手出しできずにいる。


 ……これ俺が他の連中の気をひかなくてもよかったか?


「一体貴様個人が何を!?」

「私は――」


 その言葉はわざとマクシミリアンにだけ聞こえるように抑えたのか、俺の耳には届かなかった。


「な……」


 だがマクシミリアンに届いたその言葉は効果てきめんだったらしく、その顔が驚愕に染まり動きが止まる。


「フッ!」

「ッ……この!?」


 その隙を見逃すマキではなく、一気にマクシミリアンの懐に潜り込むと密着するように襟元を掴む。

 一方のマクシミリアンも密着された状態では思うように剣を振れなかったらしく、自由な片腕で引き剥がそうとしていたのだが……。


「え?」


 二人の姿が、突然舞台の上から消えた。


「き、消えた!?」

「奈落だ! 奈落に落ちたぞ!」

「マジかよ!?」


 舞台の近くで二人を見ていた男たちの言葉に、何が起きたのか分かり俺はすぐに舞台の下へ向かうため走り出す。


「え?」


 しかし走り始めたはずの足は突然力を失い、俺は前のめりになりながら剣を手放し地面に両手をついた。


「くっそ! このポンコツが何でこのタイミングで!?」


 左足が動かなくなったのだと気付き悪態が出る。

 いや、そういえばマキは「私の魔力が残っている間なら以前のように動く」と言っていた。

 魔力が切れたのか。それともまさか奈落に落ちたマキが――。


「どっせい!」

「え? あ? アルヌ?」

「応! 舞台の下に向かえばいいのだな!」

「ゆくぞ兄者!」


 俺を担ぎ上げるアルヌと、先導するように走り出すアルノ。

 本ッ当にこいつら居てくれて助かった。


「悪い。ありがとな」

「なんの。それに先ほどまでのエーレンの戦いも見事だった。足の調子が良かったのか?」

「ああ。あの子が治してくれたんだ。今日は一時的なもんだったが、継続的に治療を続ければ完全に治るってよ」

「ならば尚更助けねばならぬな!」


 アルヌに担がれ舞台袖へと向かう。

 男たちは突然のことに戸惑うばかりで、マクシミリアンを助けに行こうともしない。

 ……あるいは見捨てるかどうか悩んでいるのか。


「マキ! 大丈夫か!?」


 舞台袖から階段を降りたそこは、光が届かずさらに暗かった。


「そこだ兄者!」

「むう」


 しかし奈落が開いていたせいだろう。

 スポットライトのように、光に照らされた空間があった。


「……」


 そこにマキは居た。

 仰向けに倒れた青年の前で、祈るように両手を組んで。


「……マキ? 大丈夫か? マクシミリアンは?」

「……亡くなりました。落ちる時に、私を庇って」

「……」


 咄嗟に言葉が出なかった。

 死んだ? マックスが?

 いやそもそも本当にこいつはマックスだったのか?


「そう……か。よかったマキが無事で」

「申し訳ありません。私のせいで」

「言うなよ。事故だろこれは」


 奈落が開いていたのは間違いなくマキのせいじゃない。

 それに下手すりゃマキも死んでいた。

 そこはマキを庇ったマクシミリアンを褒めるべきか。

 何を企んでいたのかは知らないが、咄嗟に敵を庇うなどそうできる事じゃない。


「……いきなり帰ってきたと思ったら、また居なくなりやがって」


 気をきかせてくれたアルヌに下ろされて、マクシミリアンの亡骸の前で膝をつく。

 結局俺が知るマックスだったのかどうか確認する暇もなく、マクシミリアンは死んでしまった。


 それでも、その顔は何かをやり遂げたように満足げだったが、演説を中断され目的を達成できなかった奴が何故そんな顔で死んでいたのか。

 その答えを俺が知るのはもっと後の事だった。

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