彼は舞い戻る5
講堂の中はえらくドタバタしていた。
「クソッ! 見つからないぞ!」
「スイッチは何処だ!?」
「誰か詳しいやつはいないのか!?」
ろくに明かりがなく相手の顔もよく見えない暗がりの中を、文句を言いながら走り回る野郎ども。
どうやら講堂を占拠したのはいいものの、照明をつけるところから躓いているらしい。
そんぐらい下調べしとけよ。どんだけ出たとこ勝負なんだこいつら。
まあ混乱してるおかげで、俺とマキがこっそりと入ってもバレなかったわけだが。
「せめて舞台だけでも……舞台袖にあるんじゃないか!?」
「これか!」
「オイ奈落が開いてるぞ!?」
「なんで講堂に奈落があるんだ!?」
いや本当に大丈夫かコレ。
ここの照明確かガス灯だぞ。操作ミスって火災起こさないだろうなこいつら。
あと奈落があるのは多分ここが劇場としても使われてたせいだ。
「チャンスですね。恐らく首謀者であるマクシミリアンは時間になれば舞台の上に現れるでしょう。私が二階から照明を伝って上から奇襲をしかけます」
「こっちも出たとこ勝負だった」
マックスに奇襲しかけてもその後どうすんだよ。
他の奴らが黙っちゃいないだろう。
今の内に探し出して密かに拘束した方がいいんじゃないか。
「その時間はなさそうです」
「あー。照明ついちまったか」
ぼんやりと、ガス灯独特の暖かい光に照らされて浮かび上がる舞台。
もうマックスが出てくるのも時間の問題だろう。
他の奴らに気付かれないように接近しないと、騒ぎを起こせば真っ先に逃がされるに違いない。
「大丈夫。私が彼を人質にとれば、例え学生たちを人質に取られても状況は膠着します。その間に騒ぎを聞きつけた警察なり軍が来るでしょう。それまでは彼とお話をできるチャンスというわけです」
「あーそういうこと」
てっきり全員殴り倒すつもりだと思っていたが、頭を押さえて無力化するのが目的だったらしい。
それに国が出張ってくる前にマックスと話せるというのは俺にとっても重要だ。
仮に本当にマックスが何らかの陰謀に巻き込まれこんなことを仕出かしたのなら、捕まった後に話す機会などないかもしれない。
「そこまで分かっているのに私に協力するのですか? また彼の訴えは黙殺され謀殺されるかもしれませんよ」
「首謀者が本当にマクシミリアンなら、そんなことは承知の上だろうよ。俺が助け舟出してやっても余計な世話にしかならないだろ」
「……そうですか」
俺の返事にどう思ったのか、マキはしばし沈黙した後に納得した様子で姿を消す。
一瞬何処に行ったのかと思ったが、二階の手すりへと飛びつきそのまま登って行ったらしい。
どんな身体能力だ。いや俺も足が治った今ならできないこともないが。
「……何考えてんだろうなあ」
色々なことに対して、そんな言葉が漏れた。
俺が知ってるマックスは神童と評していい子供だった。
三年前の当時でも今の俺なんぞより余程頭が良かったし、礼儀作法もできていて道理も知っていた。
だからこんな最後には捕まるのが目に見えている、お粗末な反乱もどきの首謀者だと言われても納得しかねる。
それでも本当にマックスだとしたら、俺では考えつかないような裏があるんだろう。
だから俺は下手に動けない。
本当にマックスなのかどうか。
マックスだとしたらどこまで考えての行動なのか。
俺の動けば結果的に邪魔になるのではないか。
いや、読めないことが多すぎてどうすればいいのか分からない。
だが少なくとも、あいつは捕まって俺が目の前に現れても命乞いはしないだろう。
そういう覚悟のある男だ。
「静まれ! マクシミリアン様がお話になる!」
そんなことを考えていると、男たちの一人が大声でそんなことを言う。
静まれも何も連れて来られて座席に座っている学生たちはずっと大人しくしていて、騒いでたのはおまえらだけなんだが。
しかし舞台の照明のおかげで少し全体が見えるようになった。
学生たちを取り囲むように通路に立っている男たちは二十人ほど。
制圧は……無理だなこりゃ。
何人かのしてる間に人質を取られる。
マキの言う通り、頭を押さえて投降を迫るか膠着状態に持っていくしかないか。
「マクシミリアン様。お願いします」
そんなことを考えている間に、用意が整ったのか舞台の上に一人の青年が現れる。
「……」
短く切りそろえられた金色の髪。
猛禽を思わせるような左目。
そして本来右目があるべき場所は、黒い眼帯に覆われていた。




