彼は舞い戻る4
講堂の周りに居た連中との戦いはあっさり終わった。
「ろくに統率がとれていませんね」
「お、おう」
というかこのシスターが容赦ねえ。
俺が二人相手にしてる間に残りの連中全部殴り倒すか絞め落としてたぞ。
俺が相手をなるべく殺さないよう手加減しているせいでもあるんだろうが、それでも早すぎるだろう。
「恐らく中にも銃を持っている人間はいないでしょう。外ではなく室内に置いておく意味は薄い」
「あーそりゃそうだな」
そりゃそうなんだが。
だから何でシスターのアンタからそんな判断がすらっと出てくんだよ。
「……ハッ!? くそ! おまえら何しやがる」
「うわっ。気付きやがった」
マキにのされた男の一人。
鶏のトサカみたいに髪の頭頂部が伸びた野郎が意識を取り戻してもがき始めた。
もっとも、その両手は例によってマキによって縛られているのでどうしようもないようだが。
「クソッ。マクシミリアン様が参加しているこの作戦で無様を……」
「は?」
男の出した名に思わず声が漏れた。
いや。まさか。ただ偶然名前が同じだけの……。
「マクシミリアン・エーデルヴァイスですね。三年前に大逆罪で処刑された者たちの一人、デニス・エーデルヴァイスの息子の」
「はあ!? ちょっと待て! あいつは父親と一緒に……」
「処刑されたということになっていますね。しかしまだ子供という事で刑の執行は公開されず、遺体も確認されていません」
「なんだ……それ……」
生きていた?
いや生きていたとしてもだ、何でこの場でその名前が出てくる。
「何で復古派なんぞに?」
「当時裁判を担当した司法官のほとんどが平民だったからでは?」
そういうマキだが、それだけで復古派に手を貸すか?
それに何で反逆者の息子を復古派の連中が様付で呼んで受け入れている。
そんな俺の疑問に気付いたのか、マキはさらに言葉を続ける。
「そもそもの大逆罪の内容が他国の諜報員と結託し国家転覆を図ったというものですが、その諜報員を取り逃がした上にデニスたちが意図してそれに加担したという明確な証拠もなかったそうです」
「は? 俺はその諜報員と密約してたのを何人かが自白したって聞いたぞ」
「出たのは自白だけです。しかし実際に王が襲撃を受け負傷しており、王家の威信と抑止のため見せしめは必要だった。そのための生贄がデニスたちであり、その中には有力貴族も多かったため一部では宮廷の貴族派閥の力を削ぐための陰謀だったのではとすら言われ……」
「その通りだ! マクシミリアン様たちは平民たちに嵌められたのだ!」
シスターの説明に勢いづいたように、トサカが声高にマックスたちの無罪を主張する。
いや、俺だって不審には思っていた。
だけど事態は俺なんかの手には及ばないレベルのことで。
でも。
だとしても。
俺は今更あいつにどんな顔をして会えばいいんだ。
「我々はマクシミリアン様とともに奴らの不正を暴き正義のために……」
「関係のない人々を巻き込んだ時点で正義も何もありません」
「うきゅ!?」
なおも演説を続けようとしていたトサカだったが、またしてもマキに首を絞められ愉快な悲鳴をあげながら昏倒する。
何かさっきからこのシスター気軽に人の首絞めてるけど、うっかり何人か殺してないだろうな。
「膝の治療を引き受けるなら協力する。そう貴方は言いましたね」
「おう。言ったな」
動揺する俺を見透かしたように、マキが確認してくる。
きっと知ってるんだろう。この異様に事情に詳しい少女は。
俺がマクシミリアンと知り合いだという事も。
ただ傍観者であり続けた俺が後悔してるのも。
「ならば最後までお付き合いを。貴方が知りたいこともすぐに分かるでしょう」
「……ああ。そうだな」
出来過ぎている。
どこまでが予定通りで、何を俺は求められているのか。
聞いてもこのシスターは答えないだろう。
そして言葉で聞かされても納得できる域を越えている。
本当にこの先にいるのなら、聞かなければならない。
あの日。あの時。
あいつに何があったのか。
そして何を望んで今ここに居るの




