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彼は舞い戻る3

「な、なんで足摺りがこんなに速」

「おまえが遅い!」

「ぐほっ!?」


 廊下に出るなり出くわした武器をもった男三人を、敵だとみなして即座に無力化する。

 一人銃を持ってるやつが居たのには驚いたが、あっちも驚いている隙にシスターが間に居た男共をすり抜け接近したと思ったら、腕をひねって即座に鎮圧。


 残りの二人のうち一人は軍学校時代に見たことあるやつだったが、学院でも見慣れた顔だということは俺と同じ落伍者だ。

 三度ほど打ち合ったが間合いの取り方がおざなりだったので、一気に接近して肘を叩き込んで終わらせる。

 試合じゃないんだ。わざわざ斬り合いに付き合ってやる義理もない。


「銃士隊の使っているマスケットですね。何処で入手したのですか?」

「ハッ。何処だったかなあ。我々の同志はいたる所に存在するからな!」

「そうですか」

「くひゅう!?」


 お見事。

 一瞬で拘束した男を尋問していたマキだったが、情報を吐きそうにないと判断すると服の襟を利用して絞め落とした。

 よく見てみれば後ろ手に縛ってるのも相手の服の袖を使ってるし何処の武術だ。

 教会では徒手空拳の戦いを得意とする修行僧もいるらしいが、このシスターもその類の人間か。


「どうやら集められた学生は講堂へ向かっているようですね」

「ああ。確かに大人数を集めるならそこか」


 シスターが言うのにつられて窓の外を見てみれば、武装した何人かの男たちに見張られながら学生たちが移動していた。

 俺と洟垂れがもめてた間に他の用は済んでいたのか、周囲にはもう奴らの仲間は殆ど残っていないらしい。


 洟垂れたちをのしたのに誰も確認に来なかったことといい、杜撰なのかそれとも人数自体が少ないのか。

 多分両方だろうなあ。

 やることが一々お粗末すぎる。


「彼らは復古派の息がかかった者たちです」

「復古派?」


 講堂へ向かうために歩き始めたところで、マキは唐突にそんな話を始めた。

 もっとも、なんでそんなこと知ってんだという新たな疑問もわくが、今はつっこんで問答してる場合でもないだろう。


「……」


 前を歩くマキの姿へ目を向ける。

 その体は修道服越しでも分かるほど少女らしく華奢ではあるが、同時にちゃんと食べてんのかと心配になるほど細い。

 この体で大の男を殴り倒せる武闘派だと知ってる人間はいるのかね。

 この子が学院でどんな交友関係築いているのかすら俺は知らないが。


 まあそれはともかく、復古派だったか。


「没収された領地を返せって言ってる連中だったか。何でまたそんな連中が学院なんぞを」

「復古派の中にもさらに派閥があるそうですが、学生の賛同者の多くは領地の返還とは別に『学院には選ばれた者のみが通うべきだ』という考えがあるそうです」

「つまり平民を学院から追い出せと? 五十年も前ならいざ知らず、国の中枢担ってる人間にも平民が増えてる今の時代にそりゃ無理だろう」


 そもそも学院の教授や講師陣にだって平民はそれなりにいる。彼らを追い出したら学院の存続自体が危うい。

 まあそこの穴埋めもどっかから貴族連れて来てなんとかするつもりなのかもしれないが、質は確実に落ちるだろう。


「エーレンさんも貴族でしょう。平民が自分と同列に扱われていることに思う所はないのですか?」

「ないね。そもそも領地没収自体が俺が生まれるより前の話だ。一応それなりの矜持ってもんはあるが、多分こんなもんは時代遅れなんだろう」


 騎士の家系に生まれた以上、自分も軍人になって人々を守るのだと意気込んでいた時期もある。

 しかしその騎士だって過去の物。今では階級としての騎士はいなくなり、王家直属の近衛兵がたまにそう呼ばれるくらいだ。


 平民(彼ら)は俺たちが守ってやらなければならないほど弱くはない。


 それを俺は知っているし、何より俺自身が怪我の後遺症で弱者側に落とされたのだ。

 そんな俺が平民だからと彼らを見下すなんて、みっともないったらありゃしない。


「しかしそういうマキは何でまた学院に? 白魔術は教会の秘儀とされてるし、誰でも使えるもんじゃないんだろう。わざわざこんなところに来なくても引く手あまたじゃないのか」

「それは……」

「ああ。言いたくないならいいんだ。悪いな無神経で」


 立ち止まり、振り返ったマキの顔があまりに悲愴だったから、思わず何か言われる前に遮ってしまった。

 そんな顔をするならはぐらかせばいいものを、何で律儀に向き合おうとするのやら。


 そうだ。何ださっきからこの違和感は。

 どうにも普通の女と距離が違うように感じるというか。


 信頼?

 されるようなことしたか俺?

 もしかして会ったことがあるとか。

 いや忘れるわけがないだろこんな美人。


「見えました。流石にまだ見張りがいますね」

「おう。そこまで馬鹿じゃあなかったか」


 本棟とは別に建てられた実習棟の切れ目から先を覗けば、洒落た彫刻の刻まれた柱で囲まれた建物が目に入る。

 何十年も前に当時人気だった建築家に依頼してデザインされたものだとかで、教授の一人が我が事のように自慢していたのを覚えているが、俺にはその素晴らしさはさっぱり分からなかった。


 少なくとも俺は入学の際の式典以外ではろくに近寄った記憶がない。

 学院の警備が厳重になる前は劇場としても使われ一般解放されていたらしいが、今ではもう過去の話だ。


「見張りは……見える限りで五人か。武器は剣だけで銃はなしと」

「警戒もおざなりで『できる』人間も見当たらない。あれなら簡単に制圧できますね」

「中に入るだけなら賛同者のフリでもすりゃいいんじゃないか?」

「中で騒ぎになった後に駆け付けられても困ります」

「さいで」


 言ってることはごもっともだが、何でシスターから荒事でそんな正論が返ってくるのやら。

 教会にも独自の戦力はあるらしいが、流石にこの子がそこの所属ってことはないだろう。

 ……いや案外あり得るか?


「申し訳ありませんが足が治っていないふりをしてもらえますか。その方が油断を誘えるでしょう」

「ああ。そのまま手が届くところまで近寄ってから一気にやるわけか」


 確かに修道服着たシスターと足引き摺ってる男が来ても、戦力的な意味では警戒されないだろうよ。

 シスターのくせに騙し討ちに躊躇いはないのかとも思うが、洟垂れ相手に同じことやってたし実際ないんだろう。


「では行きましょう」

「はいよシスター」


 そしてこの躊躇いのなさから見て、多分俺の助力がなくても一人で突っ込んでたんだろうなあ。

 そう思うと、厄介ごとに巻き込まれたと落胆する以上に、見過ごさなくて良かったという安堵を抱いた。

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