三年前の彼は5
「ええ!? ずるい! コーヒーサロンに行ってきたの!」
学院の試験から数日して。
いつものように家へと遊びに来たユリアに試験当日にあったことを話すと、何故かコーヒーサロンに行ったことについて食いつかれた。
はて。
あそこは特にユリアの気をひきそうなものはなかったはずだが。
チョコドリンクは確かに甘くて美味しかったけれど、重要なのはそこではないらしいし。
「だってお父様が言っていたもの『コーヒーサロンは大人の社交場だ』って」
「ああ」
確かにあそこにいた客は大人……特にそれなりに教養がある人間ばかりらしく、最近の景気や政治について熱心な議論を交わしている席もあった。
だからこそ私のような子供が紛れ込んだことにあれほど周囲も興味を示していたのだろう。
「それほど楽しい場所ではなかったよ?」
「でもマックスは行ったんでしょう。ずるい」
なるほど。
ユリアはコーヒーサロン自体に興味があるわけではなく、おじ様曰く「大人の社交場」へと私が一人で抜け駆けしてしまったのが気に食わないらしい。
「じゃあユリアが大人になったら一緒に行ってみようか」
「本当? それまでマックス一人でまた行ったりしない?」
「あーそれは約束できないかな」
何せエーレンさんにまた行かないかと誘われている。
何せ六時間もかかる試験の答え合わせだ。あの日だけで全て終わったわけではない。
そして日が経つとエーレンさんはますます記憶に自信がなくなるということで、私に続いて助っ人を求めてきたわけだ。
それにはリーゼさんも賛成らしく「どうかこの馬鹿を助けてやってくれ」と呆れたように言っていた。
まあそのリーゼさんが現役の学院生なのですぐには時間が取れず、次に集まるのに間が開いてしまったわけだけれど。
「そのリーゼロッテさんも気になるわ。浮気? 浮気なの?」
「どこでそういう言葉を覚えて来たのかなうちのお姫様は」
一見拗ねたように見えるユリアだけれど、これは覚えたての言葉を使ってみたいだけと見た。
本当に彼女が拗ねた時は言葉数が少なくなり、不満をためるように頬も膨らんでいることが多い。
しかし今の彼女は少し目が輝いていて、むしろリーゼさんに興味を抱いているのではないだろうか。
確かに軍学校を出た女性と聞けば、人はしっかりと自立したやり手の女性を思い浮かべるだろう。
当のリーゼさんは中身はともかく見た目はあの通りだけれど。
「それにリーゼさんに失礼だよ。あの人みたいな大人の女性が私のような子供を相手にするわけがない」
「見る目がないのね」
そう言って今度は得意げな顔をするユリア。
自分は私の魅力を分かってると言ったところだろうか。
なるほど。中々複雑な印象をまだ会ってもいないリーゼさんに抱いているらしい。
恐らく本当に会わせたらユリアでは軽くあしらわれるだろうけれど。
あるいは可愛がられるかな?
「そうだ。このまま交流が続くようなら、ユリアのことも紹介してみたいかな」
「本当? 忘れないでねマックス」
「了解」
私の言葉に嬉しそうに微笑むユリア。
全くタイプの違う二人だけど、案外話してみれば仲良くなるかもしれない。
そうこの時は思っていたのだけれど。
結局私がリーゼさんにユリアを紹介する時はこなかった。




