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三年前の彼は4

「ちょっと本通りからは外れるから、また来たくなっても迷子にならないように気をつけろよ……っておまえが迷子になってるの想像つかないなあ」

「そうですか?」


 学院から出てしばらく。

 正門で預けていた杖を受け取ったエーレンさんは、うっかりすれば置いて行かれそうになるほどシャキシャキと歩き始めた。

 杖という補助を得ただけでこれとは、やはり元の身体能力が高いためだろうか。

 私を置いていきそうになったのに気付きバツが悪そうにしていたけれど。


「記憶力には自信があるだろ?」

「ありますけど。流石に初めての土地では迷いますよ」

「それやっぱり一度来たなら迷わないって事じゃねえか。ってあそこだあそこ」


 そう言いながらエーレンさんが示した先は、集合住宅の一階を丸々使った喫茶店のようだった。

 なるほど。確かに大通りからは外れているけれど、客はそれなりに居て繁盛しているようだ。


「大通りの店っていうのは当たり外れが大きいんだよ。質に関係なく一定の客は来るからな。こういう外れた場所で長くやってるような店は大体当たりだ」

「そういうものなんですか?」

「経験的にな。まあさっさと座ろうぜ。歩き疲れただろ」


 そうエーレンさんに促され店へと向かう。

 さてエーレンさんの知り合いとはどんな人だろうか。



 店の中は地下でもないのに少し薄暗く、しかしランプの灯りが落ち着く、私が普段連れていってもらえるような大衆向けの店とは少し違う雰囲気だった。

 実際私のような子供が来るのは珍しいらしく、時折他の客から好奇心を含んだ視線を向けられている。


「いきなり子供を連れて来たと思ったら学院の受験者とは。なるほど聡明そうな子供だ」


 そう言いながら体面に座った私をしげしげと眺めてくるのは、腰にまで届く髪を肩口で無造作に束ね、重くないのかと心配になるほど分厚いレンズの眼鏡をかけた女性だった。

 着ている服もサイズがあってないのか横幅も裾も余っており、まあ印象だけで言えばだらしなさそうな人だ。


 一体エーレンさんとどういう繋がりなのだろうか。

 まったく縁がなさそうな人種なのだけれど。


「おっ、リーゼ先輩を見て変なやつだと思ったなマックス」

「いいえ。はじめましてマクシミリアンと申します。長いのでマックスとでもお呼びください。貴女の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ほう。どこぞのやんちゃ坊主と違って礼儀ができているな」

「思いっきりこっち見ながら言うなよ」


 そう言ってくつくつ笑う女性。

 受け答えはハッキリしているし、見た目ほど変な人ではないのかもしれない。


「私はリーゼロッテ。まあリーゼとでも呼びなさい」

「聞いて驚け。リーゼ先輩はなんと女だてらに軍学校を優秀な成績で卒業したのに、軍人になるのを蹴って学院に入りなおした変わり者だ」

「おまえだって似たようなものだろう」


 なるほど。軍学校時代の知り合いだったらしい。

 しかし女性で軍学校に入るのも珍しいけれど、何故学院に入りなおしたのだろう。

 エーレンさんのようにどこか怪我でもしたのだろうか。


「私はエーレンのような悲劇の英雄ではなく生臭い理由だよ。元々うちは軍人家系でな。他に兄弟もおらず私が軍学校に放り込まれたわけだが、その後に歳の離れた弟ができてお役御免というわけだ」

「それは……」


 なんとも勝手な。

 成績は優秀だったらしいし、別にリーゼさんがそのまま軍人になっても良かったのでは。


「別に好きでなろうと思ったわけではないしな。あっちが好き勝手言ってるのだから、こっちも好き勝手やってやろうと思っただけだ」

「確かに好き勝手やってるよな。家も出たんだろう」

「引き止められすらしなかったのは流石にショックだったよ。まあおかげで今では他人のように思えているわけだが」

「……」


 何だか二人とも気軽に話しているけれど、結構重い話ではないのだろうかそれは。

 もしかして大人になるとこういうことは当たり前にあるのだろうか。


「おっと、子供には刺激が強かったか。とりあえず何か注文するといい……って、ここはコーヒーサロンだぞ。コーヒーは大丈夫か?」

「チョコもあったはずだろ」

「えーと、お任せします」


 コーヒーは飲んだことがないので大丈夫かどうかすら分からない。

 父によると苦みがあって大人の味らしいので、私にはまだ早いだろうか。


 チョコは……ドリンクもあるというのは聞いたことはあるけれど飲んだことはない。

 やはり甘いのだろうか。


「そうそう話がそれてた。リーゼ先輩に会いに来たのは試験の答え合わせのためなんだよ。実はマックス連れて来たのは手伝ってほしいからでな」

「子供を頼って恥ずかしくないのかおまえは」

「全然。こいつ絶対俺より頭いいぞ」


 そう言いながら私の頭を軽く撫でるようにポンポンと叩いてくるエーレンさん。

 何だか心がこそばゆいというか、素直にそう言ってくれるエーレンさんも本当に大物だと思う。


 そうして二人と一緒に試験の答え合わせをしたのだけれど、夢中になりすぎて帰るのが遅くなってしまい、母を随分と心配させてしまった。

 いつも勉強は家でしているので、集中すると時間を忘れてしまうせいでこんなことになるとは予想していなかった。

 今後はもっと周りに気を配った方がいいのかもしれない。

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