2.2.3.水源の所在を知らない水の魔法使いは、手段としてワープを利用できるのか?
(i)の考えでは行き詰ってしまうので、今度は「(ii)水の魔法使いは、水源の所在を知らない」場合について検討してみましょう。
この場合を検討するに際してぶち当たるもっとも大きな壁は、「(ii)の条件下においては、ワープを利用することができない」ということがあげられます。
この問題について検討する前に、ワープについてちょっと考えてみましょう。ワープの何たるかについて説明をすることなしに、上述の仮定を示すのは困難だからです。
もっとも単純なワープの形態について考えてみましょう。今地点Pに魔術師Xがいるとして、その魔術師Xがワープ経路Rを通じ、地点Qへ到達すると設定します。図式的にこれを、
X @P=> R =>X’ @Q…①
とでもあらわすことにしましょう。上の説明を単に記号だけで表したに過ぎません。
これがワープの根本的な定義である――と結論付けてしまってもよいのですが、この図式で語られていないことが一つあります。それは「ワープ経路Rを通過するのは、肝心の経路を作り出した魔術師Xそのものである」という厳然たる事実です。
これだけをワープの定義として捉えてしまうと、水の魔法使いはワープを利用して水が運搬できません(もっとも前回において、この可能性は否定されたのですが)。ワープ経路を作り出しているのは魔術師Xですが、実際に転送されるのは魔術師ではなく、水だからです。
したがって、ワープの経路設定者と、実際にワープで転送されるものとを区別して図式化してみましょう。すなわち、魔術師Xは経路Rを生成し、地点Pの物質Mが地点Qへ転送されると設定すると、
M @P=> R =>M’ @Q (X:=R)…②
のような図式化が可能でしょう。①のモデルは、単純にM=Xだったときと考えられるので、どうやら②のほうが①よりも一般的なワープの図式になりそうです。
ワープの図式化は以上で終わりですが、この図式は私たちに重大な示唆を与えてくれます。これは当たり前といってしまえば当たり前のことなのですが、要するにワープという術は地点P、Qが定まっていないと利用できないのです。
これはワープという概念そのものに由来する条件ですが、そもそもワープが「転送(=経路の省略)」である以上、経路の問題については無視しても構わないのですが、始点と目的地とを無視することはできないわけです。
以上のことを参照すると、水源の所在について知識の無い魔術師は、ワープを利用して水を引っ張ってくることが不可能になります。なぜなら、水源の所在を知らないということは、ワープ作動の必須条件である一つ、地点Pを知らないということと同義だからです。
したがって「(ii)水の魔法使いは、水源の所在を知らない」場合を検討するためには、ワープ以外の理屈を利用した水の集め方がどうしても必要になってきます。
この回ではざっくりとワープについて概説しましたが、ワープについて検討すべき項目は多いと私は思います(むろんワープを魔術的に捉えるのではなく、科学的に捉えても問題は多いのですが、ここでは「科学的な」ワープの諸問題について考えることは避けます)。
上記の例で、私はワープ経路Rを通過する物質Mについて、特に規定しませんでした。「どこでもドア」式にワープ経路を物質Mが通過するのと、ワープの「口」が物質Mを呑みこむ形でワープが展開するのとでは、物質Mの果すべき役割は異なります(主にMが自律的であるか否かが問題になります)。
魔術的ワープを扱うのは、それはそれで面白いと思うのですが、本稿の題意からは微妙にずれるため、ここでは考察しませんでした。




