2.2.1.水の魔法使いは、どうやってあの水を生み出しているのか?
前回も指摘したとおり、この回では「水の魔法使いが用いる水は、いったいどうやって供給されるのか?」という問題について考察してゆきたいと思います。
この問が浮上してきた際に、私の頭の中にさっと浮かび上がってきた答えは、次の三つでした。
①魔法使いの体液
②空気中の水分
③自然界に存在する水源
おそらくこの程度の答えならば、読み手の皆様にとっても難なく思い浮かべることができると思います。
その上で、これら三つの答案のうち、どの答案が一番妥当なのかということについて考えていきましょう。
もちろん、そもそも取り扱っている「魔法」が荒唐無稽な存在であるために、「妥当な設定を選択する」という措置もまたやはり荒唐無稽なことです。ですが設定そのものが常軌を逸してしまうと、作品における一貫性が滅してしまうだけでなく、読み手が作品を受容しきれないといった(書き手にとって)形而下的な問題が幾つも発生してしまいます。
たとえば①魔法使いの体液などは、荒唐無稽な答案の最たる例でしょう。別にこの答案を設定として組み入れてしまっても、それは書き手の裁量に委ねられたことですから構いません。あるいはエログロナンセンスな作品を形成する上で「魔法使いの体液」という設定を変態的要素として作品に組み入れることも可能です。
ですが前回も指摘したとおり、大半の和製ファンタジーにおいて、水属性の魔法使いは比較的多量の水を利用しています。なるほど人間はその人体におよそ六割、七割程度の水を宿してはいますが、だからといってその水を無闇に水魔術に利用することはできません。魔術師本人の命に関わることだからです。
もしどうしても体液を利用した水魔術を設定として組み込みたいのならば、登場してくる水の魔法使いというのはすべからく太っており、水でブヨブヨになっていることが望まれます。別に水の魔法など使わなくとも、張り手の一発で弱いモンスターぐらいは仕留められるでしょう。
そんなわけで、水の供給元を「体液」として規定するのには、致命的な欠点があると言ってしまって構わないでしょう。そんな中で注目に値するのが②空気中の水分と、③自然界に存在する水源の二つです。
「どうして②を、わざわざ③と区別する必要があるのか?」
とお考えの方もいるでしょう。ひとまずその問題は置いておいて、まずは②空気中の水分を水の供給源として採用してみましょう。
②を設定に流用するのは、①に比べるとかなり簡単な作業です。作中に登場する水の魔術師達は、呪文や法陣を利用して空気中の水分を引き寄せます。必要な水源を魔術師の外から求めるため、魔法の濫発で魔術師が干からびることはありません。
このように②の設定はなんとも現実的ですが、しかしながら大きな穴が存在します。そもそもの問題として、凝結して水滴にできるほどの水分というものは、空気中に常に存在するのでしょうか? たとえば日本で水の魔法を炸裂させる場合、夏場は湿気が多いため水分を集めるのは容易でしょう。しかし冬場になってしまうとどうでしょうか? 水分を掻き集める作業に相当な困難をきたすのではないでしょうか。
まだ日本は東アジア・モンスーンの地域に位置していますから、水分を集めるのは比較的容易です。しかし、たとえば砂漠のような場所ではどうでしょうか? 水分などほぼ絶無に近い乾ききった地域ですから、そのような場所では水の魔術師はすごすごと引き下がるしかありません。
もちろん、「砂漠では水の魔法使いは役立たずになる」という設定を付け加えてしまえば、この設定②も効力を発揮するでしょう。しかしながら、このエッセイの最終目的は「属性魔術の体系化」にあります。そうである以上、やはり場所に左右されず、一般的に使える「水の魔術」について考察することは外せません。




