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9.隣の席の主人公

 正直、今でも信じられない。

 彼のほうから関係をやり直したいと提案してくるなんて。

 本の中では自分から婚約破棄を言い出した相手が。

 私から破棄されて、プライドが傷つけられた?

 いや、そんな風には見えなかった。

 彼の表情は真剣だった。

 本気で、私との関係を修復しようと考えている目だった。

 私から婚約破棄したことで、彼の考え方や行動をゆがめてしまった?


「だとしたら……」


 大きな失敗だ。

 少なくとも、彼は私を意識し続ける。

 さっきの言葉で諦めてくれたら嬉しい……ただ、難しい気がする。

 予想だけど、彼は諦めていなさそうだ。

 私はため息をこぼす。

 お願いだから私のことは忘れて。

 目の前の主人公のことを見てあげればいいのに。


 チャイムが鳴る。

 授業開始一分前を告げる鐘の音だ。


 しまった。

 彼と時間を潰したせいで、どの授業を受けるか決めていない。

 残り一分を切る。

 もう選んでいる暇はない。

 適当に目に入った教室へ入る。

 ざっと見まわして、セイカの姿がないことは確認した。

 このギリギリのタイミングなら、彼が後から来る心配もない。


「今度は運がよかったわね」


 そう呟やき、私は端っこの開いている席に座る。


「あの、スレイヤさん……ですよね?」

「――!」


 この声……。

 振り返るまでもなく、誰なのかすぐわかった。

 運がよかった……なんて、思わなければよかった。

 あの発言は撤回しよう。

 今日の私は、とびきり運が悪いらしい。


「こんにちは」

「……」


 光の聖女フレア。

 この物語の主人公で、私が本来敵対する相手が……隣でにこやかに挨拶をしている。

 私は思わず……。


「はぁ……」


 ため息をこぼした。

 自分の運のなさに呆れて。


「え、あ、あの、どうかしましたか?」

「気にしないで。授業が始まるわよ」

「は、はい」


 ギリギリの入室だったことは不幸中の幸いだ。

 すぐに先生が入ってきて授業が始まる。

 セイカと違い、彼女はこの授業を初めて受けるはずだ。

 性格的にも真面目な彼女なら、授業に集中して話しかけてくることなんてない。

 

 終わったらすぐ退出しましょう。


 そう心に誓い、私も先生の話に耳を傾ける。


「つまり新たな魔法の開発には、従来の魔法式の解剖が不可欠です。例えばこの魔法式は――」


 数分聞いて理解した。

 この授業は魔法科目の中でも応用的な部分を説明している。

 魔法についてそれなりに理解した上で聞かないとわからない内容だ。

 周りをよく見ると、ほとんどが上級生。

 新入生で受けているのは、私と隣にいるフレアくらいだった。

 フレアはこの授業をわざわざ選択したの?

 確か本の中だと、彼女は自分の力すら理解していないほど無学だった。

 そんな彼女がこの授業を聞いて理解できるの?

 まさか私と同じで、彼女も転生者だったり――


「ぅ、うーん?」

「……」


 あ、この顔はわかっていないわね。

 少しホッとしたわ。


 思い出したけど、彼女は抜けている部分があるキャラクターだ。

 道に迷ったり、勘違いから失敗することも多かった。

 たぶん、この授業も間違えて入ったのね。

 そのおかげで、他の勇者たちも参加していない。

 ある意味ではよかったわ。


「さて、この魔法式を解読してもらおう。そこの君」

「え、わ、私ですか?」

「そうだ。君、この魔法式について説明しなさい」


 黒板には白い字で魔法陣が描かれている。

 この授業では魔法式の解読、その応用について説明していた。

 おそらくわかった上でみんな聞いている。

 ただ、彼女は例外だ。

 間違えて入ってきた彼女にわかるはずもない。


「えっと……」

「どうした? わからないのか? 簡単な内容だが……」


 教員はニヤリと笑みを浮かべる。

 あの表情、彼女が新入生だからあえて指名したのね。

 意地悪な先生だわ。

 彼女は注目されている。

 わからない上にテンパって、涙目になっていた。


「……」


 仕方ないわね。

 

 ちょっと、彼女の腕をつつく。


「え?」

「……下」


 そっと彼女の前に、私が書いた文字を見せる。

 私の顔を見て確認するフレアに、私は小さく頷く。


「そ、その魔法式は炎系統のバーンフィスト。炎の放出、圧縮、形態変化が含まれる高等魔法です」

「――! 正解だ。新入生の冷やかしかと思ったが違ったようだね、謝罪しよう」

「い、いえ……」

「座り給え。授業を続けよう」


 周囲からおおーという声があがる。

 教員は淡々と授業を再開した。

 生徒たちの視線もフレアから黒板へと戻る。


「あ、ありがとうございました」


 フレアは嬉しそうな顔で感謝の言葉を口にした。

 私は視線を逸らす。


「気にしなくていいわ」


 これはただの気まぐれ。

 一度限りで、もうこれ以上関わることはないのだから。

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[一言] なんでいちいち関わろうとするの? 思ってることとやってること矛盾してるの多くない?わざと?
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