7.予期せぬ遭遇
翌日。
私はいつものように起床し、学園へと向かった。
ルノワール学園にクラスはない。
一般科目、武術科目、魔法科目、特殊科目など。
それぞれの科目があり、必須科目以外は自分に必要な科目を選択し、授業を受ける。
学年はあるけど、異なる学年の生徒が同じ授業を受けることもあるらしい。
らしいというのは、本で見た知識だからだ。
私の前世は平凡で、学園というものに通ったことも、授業を受けた経験もない。
だから少しワクワクしていた。
本の中でしか見られなかった学園生活を、私はこれから体験できる。
一般科目は共通だから全員が参加するけど、他は自由だ。
「さ、どうしようかな」
今朝は上手く、フレアやアルマたちと会わないように学園にたどり着けた。
一先ず順調だ。
次に選ぶ授業を間違えなければ。
「確か一般だったわね」
フレアが最初に受け、そこにアルマたち主要人物が偶然にも集まる。
彼らが改めて交流する最初のイベントみたいなものだ。
本来なら私、スレイヤもそこに参加する。
だけど当然、私はスレイヤと同じ行動はしない。
「一般以外ならなんでもいいかな」
彼らと同じ空間にいれば、否応なしにイベントに巻き込まれる。
ただでさえ入学時の検査で目立ってしまったんだ。
最低でも彼らが親交を深め、友人程度にはなるまで大人しくしておこうと思う。
と、考えた結果選んだのは魔法科目の授業だった。
その基礎を学ぶ授業に参加する。
部屋に入るとすでに何人かの生徒が着席していた。
新年度、新学期が始まって最初の授業だ。
先輩たちは基礎なんてとっくに受講済みだろうし、新入生の大半は一般科目を受ける。
つまり、誰とも関わらず安全に過ごせる場所だ。
見たところ、顔も名前も知らないような人たちばかり。
ほとんど上級生で、去年のうちに受講し損ねた人たちだろう。
先生が来るまで五分くらいある。
のんびり待つとしよう。
そう思った時、大事件が起こる。
「――隣いいかな?」
誰かに声をかけられた。
席なんてたくさん空いているのに、わざわざ隣に座らなくてもいいのに。
とか思ったけど、別に断る理由もない。
私はテキトーに顔も見ず返事をする。
「どうぞご自由に」
「ありがとう。じゃあ失礼するよ」
隣の席に男性が座った。
横目には左腕から肩までがチラッと見える。
制服の模様が私とは違う。
たぶん上級生だろう。
「君が、スレイヤ・レイバーンだね」
「――え」
どうして私の名前を、上級生が知っているの?
新入生なら驚きはしない。
検査で目立ったせいで、私の名前を知る者は多くなったはずだ。
でも上級生とは一度も絡みは……。
咄嗟に振り向き、彼の顔を見る。
瞬間、嫌な予感がした。
この容姿、濃い紫色の髪に、左目の泣き黒子。
まさか――
「初めまして。私は二年のセイカ・ルノワールだ」
学園トップの孫にして、五人の勇者の一人。
五人のうち唯一の上級生で、みんなの頼れるお兄さん的な存在。
最悪だ。
よりによって、勇者の一人に出くわすなんて。
そうだ失念していた。
フレアと授業で交流する中に、セイカ・ルノワールの名前はない。
彼がフレアたちと関わるのはもう少し先だ。
つまり、それ以前まで彼はフレアたちとは別の場所で行動している。
五人の勇者の中で、もっとも行動が予測できない相手。
警戒すべきだった。
いや、というより予想外すぎる。
彼は上級生で学園でも主席の成績のはずだ。
そんな優等生の彼が、どうしてこんな基礎的な授業にいるの?
「ふらっと復習に寄ったのだけど、まさかこんなに早く噂の新入生に会えるとは思わなかった。私は運がいいね」
そう言ってニコリと微笑む。
私のほうは運が悪かったみたいだ。
出会ったこともそうだけど、彼がすでに私のことを知っていることも……。
このまま授業を受けてはいけない。
そう判断して立ち上がる。
が、少し遅かった。
タイミングを合わせたように、授業を担当する先生が入室した。
「先生が来たよ? 座らなきゃね」
「……」
ここで退室するのも不自然だし、目立ちすぎる。
セイカに私の存在を強く印象付けてしまう。
私は大人しく着席した。
授業が始まる。
淡々と、すでに熟知した内容で聞く必要もない。
だから私は、小声で彼に尋ねる。
「……どうして、私を知っているんです?」
「言っただろう? 噂の新入生だって。身体検査で驚く結果を見せたそうじゃないか」
「新入生の検査結果を知っているのですか?」
「あれだけ大きな騒ぎになったんだ。気になって聞く生徒は多いよ。もちろん、細かな内容は教えてもらえないけどね」
彼の意見はもっともだ。
特に彼は学園トップの孫だから、学園内でもそれなりの権力を持つ。
教員や生徒に話を聞く程度造作もない。
迂闊だった……いや、無理だ。
こんな展開を誰が予想できただろう。
とにかく今はこの場をやり過ごさなきゃ。
「ねぇ君、どうして学園に入学したの?」
「――え?」






