表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/47

42.この出会いに感謝を

 指さされた左胸に、私はそっと手を触れる。

 ドクンドクンと、いつもよりも速い頻度で心臓が鼓動をうっている。

 この胸に、私の心に……穴が空いている?


「……どうして?」

「こっちが聞きたいな」

「スレイヤさん! 何か悩みがあるんですか? あるなら私に話してください! 力になってみせます!」


 フレアが心配そうに私に視線を向ける。

 私は困惑する。

 そんなこと言われても……。


「思いつかないわね」


 いや、悩み自体は大きなものがある。

 スレイヤの未来に、破滅エンドという最悪の終わりが待っていることを。 

 私にとって最大の問題であり、解消されていない悩みと言えば……。


「俺か?」

「……そうね」


 魔王サタンの存在だ。

 かの王がいる限り、私は安心することができない。

 今は協力的だけど、いつ私に牙を向くかわからない恐怖はある。

 ただ……。


「やっぱりこの人が悪いんですね! スレイヤさんを困らせて……私が成敗してあげます!」

「君一人じゃ絶対に無理だぞ」

「やってみないとわかりません! 私だって強くなってるんです!」

「そうか? だったらここで試してみようか」


 いつになく熱くなるフレア。

 その熱に当てられて、ベルフィストも好戦的な姿勢を見せる。

 一触即発の一歩手前になり、私は慌てて止める。


「落ち着いてフレア! ベルもよ」

「スレイヤさん……」

「俺は冷静だ」

「嘘ね。熱くなってたでしょ?」

「……そうかもな」


 ベルフィストが肩の力をすっと抜く。

 申し訳なさそうにしょぼんとするフレアに、私は囁く。


「ありがとう。気遣ってくれた。その気持ちだけで十分よ」

「スレイヤさん……本当にいいんですか? 私はスレイヤさんの味方ですからね?」

「ええ」


 私はフレアに微笑み、ベルフィストに視線を向ける。

 しばらく、彼の顔をじっと見て確かめる。


「たぶん、違うと思うわ」

「俺が原因じゃないと?」

「ええ、根拠はないけど……違う、気がするの。けど……」

「不安がないわけじゃない、か?」


 私が思っていたことをベルフィストは言い当てた。

 その通りだ。

 不安はある。

 彼が裏切らないという確証はどこにもない。

 やっぱり、この不安が心の隙間の正体なのだろうか?

 悩む私に、ベルフィストは提案する。


「だったら、この場で魂の契約を結ぼうか」

「魂の契約?」

「悪魔が人間と交わす縛りだ。お互いの魂をつなげ、誓いを立てる。契約すれば互いに、結んだ約束を破れない」

「悪魔契約ね。本で見たことがあるわ」


 悪魔は人間に力を貸す代わりに、それに見合う対価を要求する。

 相互にリスクを負い、利益を生む契約。

 

「ここで結ぶ契約はこうだ。君は俺の妻になると誓い、俺は君を生涯をかけて守ることを誓う。そうすれば、君の安全は保障されるだろ?」

「そういうことね」

「危険です! そんな契約結んで、この人が一方的に破棄したら!」

「それはできない。言っただろう? 一度結べば破れない。悪魔は人間よりも契約には煩いんだ。言葉ではなく、魂に誓う契約に偽りもない」


 ベルフィストは淡々と説明し、最後に私の眼を真剣に見つめる。

 そして尋ねる。


「どうする?」

「……」


 判断は私に委ねられた。

 もしこの不安が、心の隙間を生んでいるというなら……彼が提案した方法で解消できるだろう。

 逆に、他の方法で安心できるとすれば、彼を滅ぼす以外に道はない。

 転生した当初はそれも念頭に置いていた。

 ただ、強くなって、戦えるようになって改めてわかる。

 魔王サタンの圧倒的な実力を。

 私は強くなった。

 魔王も倒せるくらい強くなった自信はある。

 だけど、絶対に勝てると断言できない不安はあった。

 ベルフィストとの敵対は一つの賭けだ。

 そんな賭けをするくらいなら……。


「わかったわ。契約しましょう」


 ベルフィストは笑みを浮かべる。


「いいんですか? スレイヤさん、契約しちゃったらもう、後戻りできないんですよ?」

「承知の上よ」

「こんな変人のお嫁さんになっちゃうんですよ!」

「誰が変人だ」

「あなた以外に誰がいるんですか!」 


 むーと言いながらフレアがベルフィストと顔を見合わせる。

 その様子を見て、私は微笑む。


「ふふっ」

「スレイヤさん?」

「大丈夫よ、フレア。私はそれでいいと思ってる」


 私は、前世でもそういう相手には恵まれなかった。

 恋愛に関しては素人同然だ。

 本の中で書かれている描写で学んでいる程度の知識しかない。

 そんな私だから、恋と愛とかはよくわからない。


「ただ、好きか嫌いかって聞かれたら、別に嫌いじゃない。この時間もそれなりに気に入っている。だから案外、悪くない気はしているわ」

「ははっ、光栄だな」

「スレイヤさん……」

「悔しそうだな、フレア」

「変人は黙っていてください! 私はスレイヤさんのお友達です! スレイヤさんが幸せなら、それが一番いいんですよ!」


 複雑な表情をしながらも、そう言ってくれる彼女は明るく優しい。

 

「ありがとう。あなたと友人になれてよかったわ」


 そう、心から思う。

 私は感謝すべきだ。

 彼女と出会い、彼女が私の友達になりたいと言ってくれたことに。

 そして……。

 

「契約しましょう」

「よし」


 彼との出会いにも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://book1.adouzi.eu.org/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ