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41.心の隙間

 私の名前はスレイヤ・レイバーン。

 そうやって自分の名前を心の中で繰り返し、私がスレイヤであることを再認識する。

 ただの村娘だった私は、物語の悪役ヒロインに転生した。

 物語通りに進めば待っているのは破滅エンド。

 そんなの嫌だから、必死で抗ってここまで進んできた。


 あと少しだ。

 勇者たちが抱えていた問題は解決した。

 魔王の力の一部も、そのほとんどが回収できている。

 ようやく終わったと思ったら、そんなことはなくて……。


「他って、あと何人なの?」

「さぁ?」

「さぁって……」

「適当なこと言わないでください! スレイヤさんを困らせると私が許しませんよ!」


 プンプンと私の隣でフレアが怒っている。

 それにも動じず、ベルフィストは得意げな笑みを浮かべて言う。


「君の許しなんて必要ないだろ?」

「ありますよ! 私はスレイヤさんの一番のお友達なんですから!」

「へぇ、一番なんだ。それは初耳だな」

「あなたはお友達じゃありませんよ」

「それは知ってる。俺も君と友人になったつもりはない」


 フレアとベルフィストはバチバチと睨み合う。

 一見険悪に見えていつもの流れだ。


「相変わらず仲がいいわね」


 と呟き、私は考えごとに集中する。

 魔王サタン。

 私が知る物語のラスボスであり、ベルフィストの中にあるもう一つの人格。

 二つは別々ではなく、一つに融合しているような状態だ。

 こうして話している彼がサタンであり、ベルフィストでもある。

 魔王サタンは自らの伴侶を探すために復活した。

 それが目的で、世界征服も人類の滅亡にも興味はないらしい。

 私が彼の妻になれば、彼は世界の敵にはならない。

 ただし、復活の際に分かれてしまった力の一部を回収できなければ、私の安全は保障されない。

 そういう契約を経て、現在に至る。


「ベル」

「何だ?」

「残っている力は、この学園の中にあるのね」

「ああ、間違いない」


 ベルフィストは断言する。

 フレアとのいがみ合いを中断し、目を閉じて語る。


「力はより近くに感じるよ」

「近く……ね」

「ああ、かなり近い。これまでの中で一番近いんじゃないか。それくらい力を強く感じる」

「それって、この中にいるからじゃないですか?」


 フレアの一言で、場が静まり返る。

 ベルフィストは瞳を勢いよく開き、私もフレアにさっと視線を向ける。

 私とベルフィスト、二人の視線が集まって、フレアはオドオドしてしまう。


「あの、えっと、変なこと言っちゃいました……か?」

「……そうよ。そういうこと」

「あり得るな。なんで今まで気が付かなかったんだ? 近すぎてわからなかった? だとしたらとんだ間抜けだぞ」

「まったくね、私も……」

「あの……スレイヤさん?」

「ありがとう、フレア。おかげでわかったわ」


 彼女の何気ない一言が、悶々と膨らみかけた疑問を解消する。

 よく考えればたどり着けたはずだ。

 魔王の力の一部は、これまで物語に登場する勇者たちの中に眠っていた。

 彼らのうちにある心の隙間に、魔王の力は引き寄せられた。

 勇者たちは主人公と並ぶ主要人物だ。

 この世界と、あの物語に少なからず関連性があるとすれば……残る力の在りかも、物語に登場した主要人物の中にある可能性は高い。


 私はフレアを見る。

 彼女ではない。

 フレアの中には、聖なる力が宿っている。

 彼女だけが持つ特別な力であり、魔王にとって天敵とも呼べる力が彼女にはある。

 必然、聖なる力が邪魔をして、魔王の力は存在できない。

 仮に彼女に心の隙間があろうとも、聖なる力が魔王の力を否定する。

 それ故に、彼女の中には存在しないと確信できる。


 ベルフィストを見る。

 彼も候補から除外される。

 当たり前だ。

 だって彼こそ、魔王サタンの依代であり、意志の共有者なのだから。

 彼の中にある力は、すでに魔王の力として回帰している。

 少し思うところはあるけど、彼ではないと断言できる。


 だからもう、一人しかいない。

 私が一番わかっている。

 ベルフィストも気づいているから、こちらに視線を向けていた。


 そう、二人でないなら候補は一人。

 物語の主要人物であり、そのキャラクター性からして、もっとも心の隙間を抱えていそうな人物。

 悪役ヒロイン、スレイヤ・レイバーン。

 つまり……。


「私の中に、魔王の力が眠っているのね」

「スレイヤさんの中に……」

「可能性は高いな。というより、それ以外候補が見当たらないか」

「……ええ」


 沈黙が数秒流れる。

 驚きはあったけど、同時に納得もしていた。

 魔王の力が、人間の心の隙間に引き寄せられるというなら、スレイヤこそ一番ありえる。

 本来の、物語の中のスレイヤは、常に満たされていなかった。

 心から理解し合える相手もいない。

 自らの欲求を満たすために行動し、最終的には破滅した。

 彼女の心にも、大きな穴が空いていたに違いない。


「スレイヤの心の穴を埋めないといけないのね……」

「何を他人事みたいなセリフを言ってるんだ? 君の問題だぞ」

「実際他人事よ。私じゃなくてスレイヤの問題でしょ?」

「違うぞ? 問題は君自身だ」

「え……」


 意表をつかれ、私はキョトンとした顔を見せる。

 そんな私にベルフィストは呆れた様子で言う。


「はぁ、よく考えてくれ。確かに、最初に力が宿ったのは君じゃなくて、君になる前のスレイヤで間違いない。君がスレイヤになったのが、途中からだとするならな」

「そこは正しいわ。あなたも私の記憶を見たでしょ?」

「ああ、だからそこは疑ってない。で、問題だが、今の君はスレイヤ本人じゃない。なら、スレイヤが抱えていた心の問題も、君とは関係ない」

「そうね」


 私がスレイヤになったのは人生の途中からだ。

 それ以前の記憶はあるけど、その記憶はスレイヤの身体に残っていたもので、私自身が経験したものじゃない。

 その証拠に、記憶があっても感情は残っていない。

 スレイヤがこれまでの人生で何を想い、何を感じてきたのか。

 私にはさっぱりわからない。

 この事実だけでも、私とスレイヤは別人だ。

 彼女が抱えていた心の隙間も、私にとっては他人事でしかない。


「つまり、君になった時点で心の隙間は消える。俺の力は拠り所を失い、別の誰かの元へ移動するはずなんだ」

「それって……」

「もうわかっただろ? 要するに君だ」


 ベルフィストが私の左胸を指さす。


「君の心に隙間があるから、俺の力は離れることなく残ったんだよ」

「――私の、心に……」

お待たせしました!

短いですがエピローグを作成しました!

ぜひぜひお楽しみに!


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