40.エンディングは遠く
「お前も大変だな! 学生以外のこともやらないといけないなんて!」
「お前こそ、魔王なんかに憑依されて……よっぽど大変だ」
「俺はいいよ! 元々自由にやってたんだ。出会ったころと何も変わらない! お前も変わってないな! あの頃の……つまらなそうな顔のままだ!」
「――! そう見えるのか?」
「そうとしか見えないな!」
吐き出されるのはベルフィストの言葉だ。
魔王ではなく、友としての想い。
「お前はなんでもできる! 普通の奴が見ていない景色を見てる! それなのに、なんでつまらない顔してるんだと思ってた! ようやくわかったぞ……お前、楽しんでないだろ」
「楽しむ? 学園生活なら十分楽しんでるさ」
「嘘だな! 俺は見たことないぞ! お前が本気で笑うところ! 一年隣にいて、一度もだ! それで楽しんでるなんて言えるか!」
「……そういうお前はいつも楽しそうだったな」
「楽しかったさ。自由に遊びまわって、適当に授業をサボって、お前に怒られたりしてな。楽しいから笑った。お前にも……そうしてほしかった」
ベルフィストは拳を握り、セイカに殴りかかる。
水の障壁を作ったセイカだが、防御しきれず吹き飛ばされ地面に衝突する。
「くっ……」
「俺はこの先も自由に生きる! 自分らしく、日々を謳歌する! お前はどうなんだ? そうやっていろんなもの背負い込んで、役目を果たすだけか!」
ベルフィストは叫ぶ。
まるで、物語のラストを飾る激闘のように。
私の脳裏には、本の文字が浮かぶ。
同じだ。
魔王として君臨したベルフィストと、勇者として対峙するセイカ。
二人は敵として衝突し、セイカが勝利した。
魔王が消滅し、残されたベルフィストの魂が消える直前、彼が言い残した言葉は心に残っている。
お前も自由に生きてみろ。
誰のためでもない……自分のために……さ。
そう、友に言い残し消えていった。
私は思う。
本当は彼も、自由になったセイカの隣で……。
だから――
「俺は俺だ! この先も変わらない! 自由に生き続けて、見せつけてやる! 横から見てうらやましがれ! そしたら――!」
決着がつく。
倒れるセイカに、ベルフィストが手を差し伸べる。
暗がりに光が差し込むように。
「俺が教えてやるよ。自由の楽しみ方を」
「……お前が、魔王になってもか?」
「俺は俺だって言っただろ? 今でもベルフィストで、魔王でもある。それが今の俺で、これから先もだ。一年前と何か変わったか?」
「……はっ、いや、変わっていないな」
セイカはその手を取る。
呆れたように笑いながら。
「あの頃のままだ」
「そういうことだ。お前もいい加減、真面目過ぎる性格を何とかしろよ」
「そういうお前は適当過ぎるんだ。授業サボりすぎて、留年しても知らないぞ」
「ははっ、その時はあいつらと一緒に楽しくやるよ」
ベルフィストが私たちに視線を向ける。
もう、結界は必要ない。
私は隔離結界を解除して、中庭に風が吹き抜ける。
「……それは、少し寂しいな」
「――! だったら、目を離さないことだな」
「そうさせてもらおう」
清々しい表情で向き合う二人を、私たちは遠目に見つめる。
「えっと、解決したんでしょうか?」
「どうでしょうね」
二人にとっての問題だ。
男同士にしかわからない距離感を保ち、通じ合ったように視線を合わせる。
残念ながら、私たちに入り込む余地はない。
ただ、見ていると羨ましいと……思えてくる。
◇◇◇
「ついに終わりましたね」
「ええ」
中庭での激戦を終えて、放課後に私たちは同じ場所で集まる。
二人の戦いの結果はよくわからなかったけど、ちゃんと力は回収できたらしい。
「セイカは?」
「これからも見張っておくから覚悟しておけ、って言われた」
「そう、よかったじゃない」
「よくない。監視生活みたいなものだ。俺と君のイチャイチャも覗かれるぞ?」
「しなければ問題ないでしょ?」
「冷たい奴だなぁ」
軽口をたたきながらも、私は内心で安堵していた。
五人の勇者と関わり、わずかな時間で問題を解決していく。
口で言うのは簡単だし、かかった時間も短い。
これでも精神をすり減らしていたんだ。
ようやく終わる……そう思えた。
「あー、その件なんだが一つ訂正させてほしい」
「なに?」
「……力、まだ残ってるみたいだ」
「「え?」」
フレアと私は口を揃える。
「どういうことですか!」
「五人とも回収は終わったのでしょう?」
「ああ、けど足りない。まだほかに、俺の力を持っている奴がいる……みたいなんだ」
「それじゃ……」
「全部見つけるまでが条件だったから、まだ続行だ」
落胆して、全身の力がすっと抜ける。
ようやく解放されると思っていたのに……結局まだ続くみたいね。
しかも次からは、誰が標的かもわからない。
「ふっ……いいわよ。やってあげる。そうしないと、ハッピーエンドにならないんでしょ?」
「そうこなくっちゃな」
「私もお手伝いします! スレイヤさんの幸せは私の幸せです!」
「ありがとう」
この物語はフィクションだ。
実在の人物、団体は一切関係ない。
なんて文句、今さら信じられない。
私が体験している物語こそ現実で、この先も続いていく。
破滅エンドなんてまっぴらだ。
私は必ず悲劇を回避してみせる。
「さぁ、始めるわよ」
破滅エンド回避の挑戦は、まだまだ続く。
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