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4.主人公フレア

「君は……新入生かな?」

「はい。フレアといいます」

「僕はアルマ・グレイプニル、君と同じ新入生だ。よろしく頼む」

「はい! よろしくお願いします」


 満面の笑みを向けるフレアに、アルマはドキッとしたのだろう。

 知っているとも。

 彼はここで、彼女に一目ぼれしてしまう。


「会場はこの先をまっすぐにいったところだよ」

「そうなんですね。ありがとうございます!」


 よければ一緒に、と言おうとしたアルマ。

 それより早く、フレアは元気な笑顔で駆け出してしまい、後姿を見つめる。

 その様子を、隣で私が見ていることに気付く。


「あ、元気な新入生だったね」

「そうですね」

「スレイヤ、その……」

「お気になさらず」


 あなたが彼女に惚れることは知っていました。

 だからどうぞ、好きにしてください。

 私のことはもう放っておいてくれて大丈夫だから。

 そっけない態度を取るのも、私がアルマに興味がないからだ。

 興味以前に、関わりたくないとすら思っている。


 私はアルマを無視して会場に向かった。

 会場に入り、最初にやったことは所在の確認だ。


「……いるわね」


 ぼそりと呟く。

 確認していたのは、もちろん彼らの存在。

 アルマ以外の四人の勇者たちも、この学園にいる。

 アルマを含む四人は新入生として、残り一人は先輩として在籍している。

 新入生側に四人の姿を確認して、落胆する。

 やっぱりいるのだと。

 わかっていたことだけど、徐々に逃げ場がなくなっていく感覚だ。


 名門貴族に生まれ、将来を有望視される嫡男。

 ライオネス・グレイツ。


 同じく貴族の生まれで、ライオネスの親友。

 メイゲン・トローミア。


 平民でありながら、類まれなる魔法の才能を持つ大天才。

 ビリー。


 頼れる上級生で、学園のトップの孫。

 セイカ・ルノワール


 彼らは主人公であるフレアと出会い、運命を共にする。

 この世界が本の中の物語なら、彼らこそが主役級の登場人物だ。

 そして私は彼らの敵になる。

 いずれ必ず、そういう未来が訪れてしまうだろう。

 だから私は考えた。

 力をつけるだけじゃ足りないと思った。

 彼らと完全に関わらず、平穏に過ごして学園を卒業する。

 それが達成できれば、不運な未来は回避できるはずだ。

 全ての出来事は学園の在学中に起こる。

 誰とも関わらないように……。

 仮に関わっても、自分の力で対処できるようにしておけば……。


「……やってやるわよ」


 誰とも関わらず、ただのわき役として学園生活を過ごしてみせる。

 だからどうか……私には関わらないで。

 近づかないで。

 そう願いながら、入学式を終えた。


 その後は場所を移動して、身体測定が始まる。

 物語ではここで、ライオネスとビリーのちょっとした衝突が起こる。

 

「なんだと? もう一度言ってみろ」

「聞こえなかったんだ? 耳が悪いのかな?」

「貴様……平民の分際でその態度、不敬だぞ」

「ここは学園だよ? 身分の差は関係ないはずだけど」


 考えている傍から始まっていた。

 彼らは火と油だ。

 貴族としての地位や権威、威厳を重んじるライオネス。

 対するビリーは平民で、その辺りに関心がなく、魔法使いとしての技量が全てだと思っている。

 互いに主張が合わない。

 ちょっとした言い合いがヒートアップして……。


「もういい。口で言ってわからないなら、力で示すまでだ」

「気が合うな。俺もそう思っていたところだよ」


 ライオネスが炎を、ビリーが雷を操る魔法を発動させる。

 互いに敵意をむき出して、教員の声なんて届いていない。

 衝突は免れず、強大な力を前にして誰もが手を出せない中で……。


「ダメ!」


 唯一、フレアが飛び出した。

 ぶつかり合う寸前の二人の間に、臆することなく踏み入った。

 驚いた二人は咄嗟に魔法を中断する。

 だけど不完全で、小規模の爆発が起こり、フレアが怪我をしてしまう。

 私も咄嗟に助けようかと手が動いたけど、その心配はいらなかった。

 フレアは軽傷を負い、地面に膝をついている。


「おい貴様、なぜ飛び出してきた!」

「そうだよ。一歩間違えばお前が死んでいたぞ」

「……喧嘩は……仲良しでもよくあります。でも……怪我はしてほしくなかったんです」


 そう言って健気に彼女は笑う。

 これこそ彼女の性格。

 誰かが傷つくことを心から嫌い、守るために自分の身すらいとわない。

 まさに、聖女の名にふさわしい。

 そんな彼女の健気さに、ライオネスとビリーも胸を打たれる。

 正直……ちょろすぎない?

 とか思ったけど、本の中でもそういうものだと納得した。


「それで貴様が怪我をしていたら元も子もないだろう」

「まったくだ。治療するから見せてくれ」

「大丈夫です。これくらいなら」


 フレアは両手を合わせる。

 始まる。

 彼女の祈りが。

 聖女としての力が発現し、淡い光が周囲を包む。

 魔法ではない力に、皆が驚き目を丸くする。


「これは……」

「まさか、聖なる力? お前は聖女の力を?」

「聖女……ってなんですか?」


 フレアは最初、自身の力のことを何も知らない。

 魔法の一種だと思っている程度だ。

 その無知で鈍感なところも、彼らの男心をくすぐったのだろう。

 ただ……まぁ……。

 実際に目の前にすると、やっぱりちょろいなと思ってしまう。

 あの二人も、そして……。


「綺麗だ」


 私が近くにいることを忘れて、彼女に見入るアルマも。

 ため息をこぼす。

 別にフレアは何も悪くないけど……。

 こんなにもあっさり心変わりされるなんて、スレイヤが可哀そうだなと。

 でも、それは本の中のスレイヤの話だ。

 私は違う。

 私は……あんな風にはならない。

 

 改めて決意を固める。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「なんだと? もう一度言ってみろ」 「聞こえなかったんだ? 耳が悪いのかな?」 「貴様……平民の分際でその態度、不敬だぞ」 「ここは学園だよ? 身分の差は関係ないはずだけど」 …
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