表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

33.魔法よりも大切なもの

 予定通り、フレアがビリーを連れてきた。

 二人は変装した私の前にいる。

 ビリーが私に尋ねる。


「あんたが噂の占い師か?」

「あら? 私のことが噂になっているの? どんな噂かしら?」

「未来が見える……とか」

「ふふっ、どうかしら? 確かめてみる?」


 不敵に笑う私を、ビリーは訝しむ。

 今のところ正体に気付かれた様子はない。

 さすが、魔王の変身魔法。

 ビリーほどの優れた魔法使いをも欺くなんて。

 これなら次も上手く行けそうね。


「俺は正直信じていない。未来を見るなんて魔法を聞いたことがない。インチキならこの店、どうなるかわからないぞ?」

「怖い人ね。安心して、インチキなんかじゃないわ。私には見えるの……あなたの未来も……過去も」

「――!」


 ビリーはわかりやすく反応する。

 彼にとっては未来より、過去のほうが重要だ。

 だからこそ、騙しやすい。 

 私は笑みを浮かべながら語る。


「あなたは過去に囚われているわね」

「……なんだと?」

「悲しい過去……大切な人を失ってしまった経験が、あなたをそこまで強くした」

「どうしてそれを……」

「言ったでしょう? 私には見えるのよ。あなたの全てが……あなたの中に眠る、別の誰かの存在も」


 ビリーは後ずさる。

 警戒から、私のことを睨む。

 私は言い当てた。

 彼が胸の奥にしまい込んだ大切な過去を。

 これで、私が只人ではないと理解したはずよ。

 前置きを終らせ、私は立ち上がる。


「何なんだ……お前は?」

「占い師よ。だから、あなたのことを占ってあげるわ。初めてだしサービスするわ」

「何をする気だ……」

「怖がらないで。あなたが抱える悩み……心の鎖を解いてあげる」


 私は緩やかに、ビリーに近づく。

 警戒する彼の虚を突いて、その額に軽く触れる。

 直後、彼の意識は闇へと沈む。


「なっ……」

「いってらっしゃい。夢の世界へ」


  ◇◇◇


 相手の精神に干渉し、特定の夢を見せる魔法デイドリーム。

 そこに、もう一つの精神干渉魔法を追加した強化版。

 私一人の力ではなく、ベルフィストにも協力してもらって発動した大魔法だ。

 ビリーは真っ白な世界に漂う。


「ここは……」

「あなたの夢……心を映し出す鏡の世界よ」

「お前は……」


 発動者である私も、彼の夢の中に滞在できる。

 もちろん、占い師としての姿で。


「お前は何者だ? ただの占い師じゃないだろ?」

「さぁ? そんなことより、始まるわよ。あなたの夢が……」

「俺の――! なんだ、これは……」


 辺り一面に映像が流れる。

 それは記憶。

 ビリーの中にある大切な……忘れたくても、忘れられない悲劇。


 ビリーの両親は優れた魔法使いだった。

 貴族でこそなかったが、類まれなる才能を領主に認められ、充実した環境で魔法の研究に勤しんでいた。

 そんな両親のもとに生まれたビリーが魔法使いを目指したのは必然だろう。


 ある日、事件が起こる。

 両親の研究を手伝っていたビリーが、誤って開発途中だった魔導具を起動させた。

 暴走した魔導具は爆発を起こし、研究室は炎に包まれた。

 燃え盛る炎の中で重傷を負って倒れたビリー。

 死を覚悟した彼に駆け寄ったのは両親だった。

 薄れゆく意識の中で、ビリーは両親から二人の魔力を受け取り一命をとりとめた。

 その代償として、二人は死んだ。


「これは……呪いだ」


 ビリーは呟く。

 彼の身体には今も、二人の魔力が宿っている。

 彼の類まれなる魔法使いとしての才能は、自身を含む三人分の魔力を有しているからに他ならない。

 両親から受け継がれた力だ。

 しかし彼は、これを呪いだと思っている。


「俺のせいで研究室はめちゃくちゃになった。俺を助けるために……二人は死んだ。もっと研究したいことがたくさんあったのに……俺を助けたせいで」

「だから、呪い?」

「そうだ。俺は二人の未来を奪った。だから俺は、二人の代わりに魔法を極める。そうしないと……許されない」

「――本当に?」


 私は問いかける。

 過去に囚われた可哀そうな彼に。


「本当に両親は、あなたにそんなことをしてほしかったの?」

「……何がいいたい?」

「私は何も言えないわ。だから」


 私は指さす。

 彼を……いいえ、彼の胸に宿る二人を。


「本人に聞きなさい」


 その直後、彼の胸が光り出し、二つの光が飛び出す。

 光はくるりと彼の周りを一周して、正面でピタリと止まる。

 形を変え、色づく。


「父さん……母さん?」

「久しぶりだな、ビリー」

「やっと会えたわね」

「どうして……」


 ビリーは困惑する。

 魔力には個人差がある。

 それは、魔力が魂からあふれ出た生命の力だから。

 二人はビリーを生かすために全魔力を注いだ。

 その結果、二人の魂の一部もビリーの中に宿ったんだ。


「父さん、母さん……俺のせいで……」

「馬鹿だな、お前は」

「え?」

「本当に馬鹿ね。誰に似たのかしら?」

「僕たち以外にいないだろ? まったく魔法のこと以外は鈍感なのはそっくりだ」

「本当ね」


 嬉しそうに笑う二人を見てビリーは戸惑う。

 どうして笑っているのか。

 自分のことを恨んでいるのではないか。

 そんな疑問は間違いだ。

 彼は鈍い。

 もっと早く気づけるはずだった。


「大きくなったわね」


 母親がビリーを抱きしめる。

 その上から、父親もぎゅっと抱きしめる。

 答えなんて決まっていた。

 大好きな研究を、自分たちの未来まで捨てて子供を守った。

 恨んでいるはずがないじゃないか。


「私たちは、あなたが幸せならそれでいいの。生きていてくれるだけで……十分なのよ」

「魔法も好きだが、お前のことはもっと好きなんだ。親子だからな」

「――く、う……」


 ビリーの瞳から涙があふれ出る。

 知ってしまえば単純だ。

 長く縛り続けた鎖も、あっという間にほどけて消える。

 たった一言、それだけあれば十分だった。


「ごめん……父さん、母さん」

「こら、泣かないの。男の子でしょ?」

「大きくなったんだ。これからもっと大きくなれ。俺たちの分まで、人生を楽しめ」

「……うん。頑張るよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載開始!! URLをクリックすると見られます!

『通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~』

https://book1.adouzi.eu.org/n9843iq/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ