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30.友として

 戦い、と呼べるのだろうか?


「どうしたの? もうバテタのかしら?」

「まだ……まだ!」


 必死に攻撃を仕掛けるメイゲンを、私は軽くいなし続けていた。

 かれこれ一時間くらいだろうか?

 ベルフィスト曰く、この結界は時間の感覚が乱される。

 一時間は外での時間で、結界の中では一日くらい経過している。

 丸一日、ただ攻撃を躱し続けていた。


「はぁ……はぁ……」


 メイゲンは最初から満身創痍だ。

 ライオネスにボコボコにされた直後だから、というのもあるけど……。

 彼はまったく戦い慣れていない。

 実戦での魔法の使い方がまるでなっていない。


「呆れるわね」


 メイゲンが強くないことは知っていた。

 原作でもそう描かれていたから。

 けど、ここまで戦い慣れていないとは思わなかったわ。

 これじゃ間に合わない。


「仕方がないわね」


 私はメイゲンに右手をかざす。


「リターン」

「――! 身体が急に軽く……どういうつもり?」

「治したわけじゃないわ。時間を一時的に戻しただけよ。あとで一気に疲労は襲うわよ」

「そうじゃない! どうしてボクの身体を」


 疑問を抱くメイゲンに、適当な言い訳を考えて言い放つ。

 なるべく悪役っぽく、悪そうに。


「ふっ、弱すぎてつまらないからよ。せめてもっと楽しませてちょうだい」

「……後悔するよ」

「そういう言葉はもっと強くなってから言いなさい」


 私たちは戦闘を再開する。

 肉体が回復したことで、多少動きがマシになった。

 けど、まったく足りない。

 これじゃライオネスには勝てない。

 勝てる様に鍛え上げる。

 この限られた時間で、私と戦い戦闘経験をつませる。


 そして……。

 

 戦闘開始から七時間。

 ベルフィストが指定した限界時間に達し、隔離結界が崩壊する。


「はぁ……はぁ……」

「ふぅ」


 さすがに私も疲れて呼吸が乱れてきた。

 七時間……結界内では一週間戦い続けたのだから仕方がない。

 そのおかげで、成果はあった。

 

「疲れたわ。もう飽きた」

「ま、待って!」

「安心しなさい。今日は何もしないわ。あなたと遊んで疲れたから……そうね? 明日の夜にでも、殺しに行こうかしら」


 私はメイゲンに背を向ける。

 メイゲンの身体は一週間分の疲労が溜まっている。

 加えて何度も時間を巻き戻し、蓄積された疲れは一気に押し寄せる。

 立っているのも限界のはずだ。


「阻みたいなら好きにしなさい。彼があなたを……ボディーガードとして認めたらの話だけど」

「待っ……」


 疲労の限界がきて、彼は膝から崩れ落ちる。

 閉じていく瞳で私を見つめながら。


「君……は……本当に……」


 そのままうつぶせに倒れ込み、声は聞こえなくなった。

 この状態で放置したら朝まで目覚めない。


「私が治療します」

「……やっぱり、待っていてくれたのね」


 茂みの陰からフレアがひょっこり顔を出す。

 帰っていいと伝えてあったのに、彼女は終わるまで待っていてくれた。

 なんとなく、そんな予感がしていた。


「お願いするわ。彼には明日、頑張ってもらわないといけないもの」

「そうですね。スレイヤさんも、明日はゆっくり休んでください」

「ええ、そう……する……」


 疲れが押し寄せる。

 意識が……薄れていく。


「お疲れ様でした。スレイヤさん」


 私はフレアの胸の中で、緩やかに眠りについた。


  ◇◇◇


 翌日の早朝。

 ベルフィストは一人、中庭にやってきた。


「さて、始まってるかな?」


 彼の目的は一つ。

 自らの力の回収にある。

 その場面に、彼は出くわすことになる。


「ライオネス! 君は命を狙われている!」

「……はぁ、急に呼び出したと思えば、馬鹿げた話だ」


 中庭ではライオネスとメイゲンが話していた。

 ベルフィストは茂みに隠れる。


「お、始まってる」


 ここで二人が衝突する。

 スレイヤが言った通りの展開が起こり、ベルフィストは見守る。


「くだらない話に付き合う気はない」

「嘘じゃない!」

「だとしても関係ない。オレは自分の身は自分で守れる。忠告だけ受け取っておこう」

「ダメだ。ボクも一緒にいる」

「……なんだと?」


 ライオネスが睨む。

 冷たい視線で……しかしメイゲンはひるまない。


「ボクが守る」

「……ふっ、お前が? 俺よりはるかに弱いお前が?」

「なら、試してみればいいよ!」


 発言と同時に、メイゲンは自らの魔力を解放する。

 膨れ上がる魔力を感じ、ライオネスは笑みを浮かべる。


「いいだろう。何が変わったか見せてみろ」


 パチンと指を鳴らす。

 合図と同時に隔離結界は展開される。


「これでよし、と」


 今はスレイヤがいないため、結界の発動者はベルフィストだ。

 予定通り、二人は再び激突する。

 ライオネスが得意とするのは炎の魔法。

 対するメイゲンが得意としているのは風の魔法。

 相性的には悪くない。

 むしろ、炎を巻き上げ武器に変えられる風のほうが有利。

 それでも惨敗したのは、メイゲンに戦闘経験が皆無だったせいだ。

 魔法は使えるだけでは意味がない。

 手足のように使いこなせてこそ一流。

 不足していた経験は、スレイヤとの濃密な一週間で補われている。

 

「ウィンドブレード!」


 風の刃がライオネスを襲う。

 ライオネスは炎の渦で身体を守る。

 その直後に、メイゲンは風を纏って移動し、ライオネスの背後を取る。


「吹き飛べ!」

「なめるな!」


 突風と炎の渦。

 二つの力が衝突し合い、爆発する。

 昨日とは打って変わり互角の戦いを繰り広げる。

 

 メイゲンは、決して劣ってなどいない。

 秘めたる才能も、知識も、努力も、足りなかったのは経験くらいだ。

 ライオネスと比較しても、惨敗するほどの差はない。

 差があったのは心だ。

 彼はずっと、劣等感に苛まれてきた。

 憧れた存在を近くに見続け、自分にはできないと思い込んだ。

 弱く、何もできない自分を呪った。

 

 原作において恋をした彼は、勇者たちと真正面から戦った。

 彼のお話では、他の勇者たちも主人公のことを本気で射止めようとしていた。

 手に入れるには、自分が選ばれるには戦うしかない。

 メイゲンは生まれて初めて、戦ってでも手に入れたい……守りたいものを見つけた。

 自分の弱さ、劣等感と向き合い乗り越える。

 彼はそうして強くなった。


 今も……。


「絶対に勝つ! 君を……死なせない」

「――ふっ」


 突如、ライオネスから覇気が消える。

 それを感じ取ったメイゲンも、魔法の発動を止めた。


「ライオネス?」

「オレの負けだ。強くなったな、メイゲン」

「……え? ど、どうして?」


 突然の敗北宣言に困惑を隠せない。

 そんな彼に、ライオネスは言う。


「弱いと言い放った相手に、これだけ互角の戦いをされている……その時点でオレの負けだ」

「……ライオネス……」

「メイゲン、オレはずっと、お前に期待していたんだぞ」

「ボクに?」


 ライオネスは胸の内を明かす。

 成長した彼ならば、隠すことなく打ち明けるだろう。


「お前はもっと強いはずだ。だが、オレと一緒にいるとお前は弱くなる。縮こまってしまう。それではダメだ。それを……友とは呼べない」

「……」

「オレはな、メイゲン。お前のことを友であり、ライバルだと思っている」

「――ボクが、君の」


 彼の心の隙間を埋める方法。

 それは、自分の弱さを受け入れた先で、認められることだ。

 憧れたその人に、必要としてくれた誰かに。

 メイゲン自身が認められ、満たされることで埋まる。


「ボクは……君の友達でいてもいいのかな?」

「今は許す。お前は強い。もっと胸を張れ」

「あはははっ、そうかな? ライオネスに言われると……なんだかむず痒いよ」

「ふっ」


 二人の間には友情があった。

 その友情が、より強く結びつく。

 ベルフィストの目には、彼から離れ出る力の一部が見えていた。

 心の隙間は、埋められた。


「あっ! そうだ大変だよ! スレイヤさんが君の命を狙って!」

「ん? ああ、それなら冗談だ」

「え……? どういうこと?」

「心配するな。オレにもよくわからん」


 キョトンとするメイゲンに、ライオネスは笑みをこぼしながら呟く。


「本当に……よくわからない女だ。スレイヤ・レイバーン」

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