28.メイゲン・トローミア
翌日の朝、私たちはその場面に出くわす。
ライオネスとメイゲン、二人の男が向かい合っていた。
「メイゲン、お前はどうしてこうも情けないんだ」
「え……ライオネス?」
真剣な顔で見下ろすライオネスと、困惑するメイゲン。
二人の会話を、私たちは隠れて見守る。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ」
「ものすごく険悪な雰囲気になっちゃってますよ」
「あれでいいのよ」
彼らが対面しているのは見知った中庭。
私たちは茂みに隠れて彼らを見守っている。
二人の様子を見て不安そうに、フレアが何度も確認してくる。
そうしている間にも、二人の会話は進む。
「きゅ、急にどうしたのさ? ライオネス、ボク……何かしちゃったかな? だったら謝るから、ごめんなさい」
「……はぁ」
謝るメイゲンに、ライオネスは大きくため息をこぼす。
ライオネスの瞳は未だ冷たいままだ。
「そういうところだぞ、メイゲン」
「え?」
「メイゲン、お前はなんだ?」
「な、何って……ボクはボクだよ?」
「違う。お前は、オレにとって何なのかと聞いている」
ライオネスの質問に、メイゲンは怯えながらも首を傾げる。
「そんなの、友達じゃないのかな?」
「友……か」
ライオネスは不敵に笑う。
その笑みに、メイゲンはビクッと反応する。
「ライオネス?」
「笑わせるな」
そうして、再びライオネスを彼を見下す。
身長差の話ではない。
態度が、視線が、口調が、まるでかつて平民に向けられていたように……。
「平凡な貴族の生まれ、明確な役割もなく、使命もなく、ただ言われた通り学園に通う……その程度の奴、どこにでもいる。メイゲン」
ライオネスは指さす。
メイゲンの顔を。
「お前はその中の一人だ」
「何を言って……」
「そんな男と友人だと? オレを馬鹿にするのも大概にしてもらおうか」
「えっと……」
困惑するメイゲンに、ライオネスはため息を漏らす。
「まだわからないのか? ならばハッキリ言おう」
「……」
「オレはお前を、友だとは思っていない」
「――!」
ライオネスは言い切った。
ハッキリと、偽りなく本人に向けて。
酷く辛い言葉を……。
それを、私たちは見守っている。
「ちょっ、ちょっと本当に大丈夫なんですか?」
「あれでいいのよ。私がお願いした通りだわ」
「スレイヤさん?」
「……必要なことなのよ。彼にとって……ライオネスと向き合うことは」
フレアにも事情は説明してある。
メイゲンが抱える問題も。
それでも不安に思うのは仕方がない。
だって、この光景はあまりにもショッキングだ。
「ライオ……ネス?」
「じゃあ、メイゲン」
「ま、待ってよ!」
立ち去ろうとするライオネスを、メイゲンは引き留める。
ピタリと止まったライオネスだが、未だ背を向けたままだ。
「意味わからないよ! いきなりそんなこと言われて、納得できるわけないじゃないか!」
「納得も何もない。事実だ」
「ならどうして、今まで言ってくれなかったの? ずっと、友達のフリをしていたの?」
「それはお前に……いや」
何かを言いかけ、ライオネスは飲み込む。
それでいい。
その言葉を言ってしまえば、この話は振り出しに戻ってしまう。
彼は耐え、ゆっくり振り返る。
「まだ、友でありたいと言うのか?」
「あ、当たり前だよ。ボクは――」
「なら、証明してみせろ」
パチンと、ライオネスが指を鳴らす。
決めていた合図だ。
私はすぐに、隔離結界を発動させて中庭の一角を覆う。
「こ、これ……」
「メイゲン、お前がオレの友に相応しいことを証明しろ。今ここで、オレと戦え」
「なっ、た、戦うって……君と?」
「そうだ」
ライオネスは気合を入れる様に、自らの拳をぶつけ合わせる。
彼はすでに、戦う準備ができていた。
しかし相手のほうはまだ困惑している。
「意味がわからないよ。どうして君と……」
「理由は言ったはずだ。証明してみせろと……お前はオレが強さを重要視していることを知っているはずだ。なら言わずともわかるだろう? お前の力を見せろ」
「ライオネス……さっきからおかしいよ。この結界だって――」
「メイゲン!」
彼は叫ぶ。
友の名を。
メイゲンはびくりと震え、口を塞ぐ。
「お前がどうしたいのか、それだけだ」
「ボクは……」
「戦うか、戦わないのか」
「……っ、わかったよ」
メイゲンの表情がようやく変わる。
迷いや戸惑いは残りつつ、決意を固めたようにまっすぐライオネスを見る。
「戦うよ、君と」
「……そうか」
わずかに、ライオネスの口元が緩んだように見えた。
嬉しいのだろう。
私にはわかる。
けど、その感情を押し殺し、彼は向き合う。
「来い。メイゲン」
「うん!」
二人の戦いが始まった。
そして――
終わった。
「っ……く……」
「……メイゲン」
敗者は地面に倒れ、勝者はそれを見下ろす。
ボロボロになったメイゲンを、ライオネスは切なげに見下ろしていた。
「お前は……弱いな」
「……」
戦いの時間は、わずか五分程度だっただろう。
あっという間に決着はついた。
無傷のライオネスが物語るように、一方的で戦いとすら呼べるか怪しいものだった。
メイゲンは何もできなかった。
何もさせてもらえなかった。
それほどまでに、両者には差があった。
「この程度の男が友か……やはり見込み違いだったな」
「ライオ……」
「終わりだよ、メイゲン」
ライオネスは倒れるメイゲンに背を向け、その場を去っていく。
いつの間にか隔離結界も消滅している。
メイゲンは見送るしかできない。
痛みで立ち上がれないから?
いいや、きっと違う。
「くそ……」
悔しくて、立ち上がれないからだろう。
彼は涙をこぼす。
敗北を噛みしめ、苦しさに耐えかねて。
そんな彼の元に、私は歩み寄る。
「無様ね、メイゲン・トローミア」
「君……は……」
私は見下ろす。
ライオネスと同じ位置から、同じ目で。
「スレイヤ……さん?」
さぁ、ここからが私の役目だ。
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