27.次なる標的
翌日。
私とフレア、ベルフィストはお昼の時間に中庭で集合する。
用意してきたお昼ご飯を食べながら話し合う。
「結局どうだったの?」
「ちゃんと回収はできたんですか?」
「もちろん。力の一部はここに戻ってきたよ」
トントン、とベルフィストは自分の胸を叩く。
昨日の一件でライオネスの問題は解決し、彼に宿っていた魔王の力は回収された。
私やフレアには力の移動は見えない。
本当に問題は解決したのか、心の隙間が埋まったのか。
魔王本人である彼にしか、真偽は確かめられない。
一先ず、成功したことに安堵しよう。
「でも驚いたな。こうもあっさり回収できるなんて」
「簡単に見えたのは、私が答えを知っていたからよ」
彼らが何に悩み、何を抱えているのか。
私は物語に触れ、何度も読み返すことで熟知している。
どうやって解決したのかも。
問題の答えと、そこにたどり着くための道程を知っているのなら、それを見習えばいい。
「普通はもっと難しいわ。悩みなんて、誰にも構わず教えたりしない。信頼され、信用され……やっと知る。そこからどうすれば解決するか考えないといけない」
もしも何も知らない状態なら、こうもあっさり解決なんてできなかった。
私がやっているのはインチキだ。
答えを見ながら問題を解いているだけだから。
問題を探す苦労も、考える苦労もない。
その苦労をちゃんとして、問題と向き合い解決した……。
「フレアが凄いだけよ」
「ふえ? 私は何もしてませんよ?」
昼食を頬張っていたフレアが変な声を出して振り向く。
キョトンとした顔は主人公らしく可愛らしい。
「頑張ったのは物語の中の私? ですから」
「そうね」
私からすれば、どちらも同じフレアなのだけど。
もし私が何もしなければ、きっとこの世界でも……彼女が問題を解決していたはずだ。
そう思わせる凄さが彼女にはある。
インガに伝えた一言も、私からお願いしたことじゃない。
私が頼んだのは、ただその場にいること。
口に出したのはアドリブだ。
あの瞬間に、私は彼女が主人公なのだと再確認させられた。
味方に付けられてよかったわ。
「ところで、スレイヤさんのお弁当は誰が作ってるんですか?」
「使用人よ。自分でも作れるけど、今の私は令嬢だから」
昔は修業の合間にこっそりキッチンに侵入して、適当に軽食を作ったりしていた。
村娘だった頃の経験が活きている。
簡単な料理なら私にも作れる。
「お、じゃあ今度俺の分を作ってきてくれないか?」
「嫌よ」
「即答か! まぁわかってたけど」
ベルフィストはパンを口に運ぶ。
三人ともそれぞれのお弁当を持参した。
これから作戦会議は昼休みにある。
こういう風景も続くだろう。
「フレアは、自分で作っているのよね」
「そうですよ! こう見えてお料理は得意なんです!」
「知ってるわ」
フレアが持っている特技の一つ。
屋敷の料理人顔負けの料理が作れることも、彼女の魅力だ。
「もしよかったら、スレイヤさんの分のお弁当も作ってきましょうか?」
「そうね。今度お願いするわ」
「やった! 頑張っちゃいますよー!」
「ふふっ、あなたが喜ぶのね」
作ってもらうのは私なのに。
「あ、ベルさんの分はないですからね」
「まだ何も言ってないが」
フレアから彼への意地悪。
いつの間にか、彼のことを愛称で呼ぶようになっていた。
なんだかんだで上手くやっている……のかな?
「ベル、ね」
「君もそう呼んでくれていいぞ?」
「……そうするわ。ベルフィストって言い難いし」
「人の名前に文句を言わないでほしいな……」
他愛のない会話で盛り上がり、昼食を済ませる。
残り時間は話し合いだ。
「次はどうする? スレイヤ」
「もう決めているわ。次の狙いは……メイゲンよ」
メイゲン・トローミア。
ライオネスの親友であり、彼自身も勇者の一人。
私は彼を次なるターゲットに見据えていた。
「一応、理由を聞こうか」
「単純よ。彼がライオネスの親友だから」
私は説明を続ける。
ライオネスの問題が解決したことで、少なからず彼に変化が生まれる。
その変化は、もっとも近くにいる友人にも影響を与える。
特にメイゲンの場合は、それが色濃く表れる。
後回しにすれば、メイゲンは必ずライオネスの変化に気付き、彼自身にも変化が生まれるかもしれない。
「変化が生まれる前に解決したいのよ。余計なことを考えられても困るわ」
「なるほど、理解した!」
「メイゲンさんの抱える悩みって何なんですか?」
フレアが私に尋ねる。
この場で知らないのは彼女だけだ。
「それも、ライオネスに関係しているのよ」
「ライオネスさんに?」
私は彼女にも、メイゲンが抱えている問題について教えた。
ライオネスの問題よりもわかりやすく、単純だ。
今回はもっと簡単に進められると思う。
なぜなら……。
ライオネスの協力を得られたから。






