23.ライオネス・グレイツ
ライオネス・グレイツ。
五人の勇者の一人であり、由緒正しきグレイツ家の嫡男。
これまで数多くの優秀な魔法使いを輩出してきた実績を持つ家に生まれ、彼もまた魔法使いとしての才覚に目覚める。
その才能は歴代最高とも呼ばれ、期待されていた。
それ故に、彼は自信家である。
他者を見下し、自身を絶対とする性格は、どこか魔王を髣髴とさせる。
彼は五人の勇者の中で最もプライドが高い。
だからこそ、扱いやすい。
「スレイヤ・レイバーン! 昨日の決着を付けさせてもらうぞ!」
「……やっぱり来たわね」
翌日の朝。
私が学園に向かうと、ライオネスが待っていた。
顔を見れば用件なんて口に出す前にわかる。
とても怖い顔をしているから、他の生徒たちも避けて通るほどだ。
「昨日は邪魔が入り中断されてしまった。今日こそはお前に本物の強さを見せてやろう」
「いいわよ。じゃあお昼、場所は同じでいいかしら?」
「ああ、構わない」
「ふふっ、今度はちゃんと許可を取っておいてね」
決闘は受理された。
私は悠々と彼の隣を通り過ぎる。
睨まれている視線を感じながら、それを気にしないフリをして。
◇◇◇
「決闘を申し込まれたわ」
「スレイヤさんの言っていた通りになりましたね」
「だから言ったでしょう? わかりやすいのよ、彼は」
授業の合間にフレアと話す。
懸念していた勇者たちとの接触も、今のところ避けられていた。
ライオネスとは決闘の件があるから、向こうから慣れ慣れしく接してくる心配はない。
メイゲンはライオネスと基本一緒にいる。
アルマは私のことを避けているし、ビリーは授業を受けず今頃は図書室にいるでしょう。
唯一セイカは私には把握できない。
彼の対処は、友人キャラのベルフィストに任せよう。
「お昼は私も一緒にいていいんですよね?」
「ええ、その後にことがあるわ」
「わかりました!」
「……本当によかったの?」
私は尋ねる。
彼女にはもう、ライオネスが抱える問題を教えてある。
問題を解決する方法も。
それには、フレアの存在が不可欠だということを。
彼女の言葉ではなく、彼女の存在がいる。
「間違いなくあなたは傷つくわ」
「大丈夫です! 馬鹿にされるのは慣れっこですから」
「……そう」
そういう風に言えることが、あなたの強さね。
私は彼女を利用する。
自分自身のために。
そう決めた私が、ブレるところだったわ。
あっという間に時間が過ぎ、お昼休みになる。
待ちに待った時間だろう。
私より、彼にとって。
雪辱を果たす舞台は整った。
「逃げずに来たか。まずは褒めてやろう」
「こっちのセリフよ」
私は彼の周囲を見渡す。
見たところひとりだけのようだ。
「メイゲンは一緒じゃないの?」
「ふんっ、あいつは小言がうるさいから置いてきた」
「そう」
と言いながら本心は、昨日の戦いのように巻き込まれてしまわないように……でしょ。
ライオネスがメイゲンを友人として大切に思っていること、私は知っているのよ。
それに、この後の展開を考えたら、一人のほうが好都合よ。
私は一人で納得し、ライオネスに尋ねる。
「ルールは昨日と同じでいい」
「ああ、だが、お前は外に出て行け」
ライオネスはフレアに忠告する。
案外彼女にも優しい。
それもまた、彼らしいのだけど。
「大丈夫です。自分の身は自分で守れます」
そう言って彼女は自らに光の結界を展開させる。
「……そうか。ならこれ以上は言わない。始めようか」
「ええ」
ライオネスの敵意が、私に向けられる。
昨日より静かで、鋭い。
集中している。
私のことを、明確に敵だと認めているんだ。
「いくぞ! フレアランス!」
彼の背後に炎を圧縮して形成した槍が浮かぶ。
数は十二。
鋭い攻撃が私に放たれる。
私は昨日のように、同質の力で相殺する。
と、爆発の後ろからさらに炎の槍が飛んでくる。
私は咄嗟に飛び避ける。
「へぇ……」
最初の攻撃は囮で、本命は爆風で視界を絶ってからの攻撃だったのね。
考えている。
私を倒すために工夫を凝らしている。
昨日とは明らかに違う。
けど、そんなの関係ないわ。
「頑張っているみたいだけど、無駄よ」
悪いけど、今日は圧倒させてもらう。
見せつけるために。
「バーンフィスト」
高密度に圧縮された炎の拳。
その拳は、私の動きに連動して動く。
私が拳を振るえば、炎の拳も対象に殴りかかる。
「フレアウォール!」
ライオネスは炎の壁で防御する。
が、そんなもの突き抜ける。
同じ炎の魔法でも、練度も密度もこちらが上だ。
「ぐっ」
攻撃を受けて吹き飛ぶ。
すぐに体勢を立て直す彼に、休む間も与えない。
「アクアランチャー」
今度は水の砲撃を繰り出す。
ライオネスは転がって回避する。
防御は不可能だと悟り、回避から反撃の隙を狙う。
ただし当然、そんな隙は与えない。
「ライトスパーク」
「ぐ、あ!」
放電が濡れた地面を伝わり、ライオネスの両足から流れる。
痺れた身体を震わせ倒れ込む。
「っ、まだ……」
「ストーンエッジ」
「がはっ!」
立ち上がろうとする彼に追い打ちをかけるように、地面を変形させて突き上げる。
豪快に飛び上がり、転がり落ちる。
容赦はしない。
倒れてせき込む彼の元に歩み寄り、見下ろしながら言う。
「あなたでは私に勝てないわ」
見せつけるように。
私と彼の、力の差を。
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