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22.攻略の順番を決めよう

 十分後……。


「「じー」」

「……はぁ、そろそろ始めていいかしら?」


 未だににらみ合う二人に私は挟まれていた。

 まったく話が進まないので、そろそろ無理やり進めたい。

 私が口を開くと、フレアがすっと下がる。


「そうですね。あまり遅くなると危ないですから」

「仕方ないな。お前との決着はいずれつけさせてもらおうか」

「望むところです」

「はぁ……」


 何度もため息をこぼす。

 この二人は根本的に交わらないらしい。

 穏やかな性格のフレアが熱くなり、ベルフィストも途中から口調が変わっていた。

 口論が白熱して、サタンの人格が強く出た証拠だ。

 知り合ってしまった以上、二人は今後も関わっていく。

 私がいる場面ならともかく、別の場所で問題が起こらないように注意しておこう。

 下手をすれば主人公と魔王の対立構造が生まれる。

 そうなったら、私はきっと運命の波に呑まれてしまうだろう。


「スレイヤさん! お悩みを聞かせてください」

「……そうね」


 どうやって説明するか、まだ考えがまとまっていなかった。

 

「悩みというより、協力してもらいたいことがあるのよ」

「いいですよ!」

「まだ内容を言ってないわ!」

「なんでも協力します! 助けてもらったお礼です!」


 満面の笑みで彼女はそう言ってくれている。

 彼女は乗り気だ。

 これはもう、協力を得たようなもの……ただ、どう説明する?

 五人の勇者の心の隙間を埋めるために協力してほしい、とか言って伝わる?

 事前知識がない状態での説明は困難だ。

 かといって、本当のことを話しても、何を言っているんだと信じて……。


 キラキラと瞳を輝かし、私の言葉を待っているフレアが目に入る。


 なんだか信じてもらえそうな気がしてきた。

 けど、言うべきじゃ……。


「話してもいいんじゃないか?」


 そう言ったのはベルフィストだ。

 落ち着いた様子で、普段通りの振る舞いに戻った彼が言う。


「ここまで協力的なんだ。とりあえず事情を話せばいいと思う」

「……もしもの時は?」

「その時は……俺に任せて」


 彼は静かに、私の耳元で囁く。


「記憶を消すことくらいできるよ。俺ならな」

「……そう」


 だったら悩んでいるより、全て話してしまったほうが楽に進める。

 納得、というより諦めた私はため息を一つ。

 フレアと向き合い、語る。

 私が知っている物語を。

 今日まで私が歩んできた道のりを。

 私が誰で、彼が何者で、あなたが何を背負っているのか。

 荒唐無稽、到底信じ難い話を語り聞かせた。


「私が主人公で……この人が」

「魔王だよ」

「……スレイヤさんが」

「あなたの敵、だったわ」


 一人一人の役割を確認するように、彼女は顔を見合わせる。

 信じれないだろう。

 いきなりへんてこな話をされて混乱している。

 無理もない。

 今日はここまでにして、彼女が納得できたら先の話をしよう。

 納得できない時は……仕方ない。

 ベルフィストの出番だ。


「わかりました!」

「……え」

「わかったの?」

「はい! よくわからなかったですけど」

「どっちなんだい……」


 呆れるベルフィストと違い、私はただ驚いていた。

 困惑の表情が消え、いつも通りの明るく元気な彼女に戻っている。

 あんな話を聞かされた後なのに、私を見る眼が……変わっていない。


「信じてくれるの?」

「もちろんです! スレイヤさんが嘘を言っていないことは、なんとなくわかります」

「……馬鹿げた話よ。笑われても何も言えないわ」

「笑いませんよ」


 フレアは目を伏せる。

 思いを言葉に込めて、ゆっくりと口を開く。


「お友達が真剣に話してくれた秘密です。笑ったりなんかしません」

「――」


 こういうところだ。

 彼女が多くの人に好かれ、信頼される所以の一つ。

 誰かの本音を疑わない。

 たとえ馬鹿げた絵空事でも、本気で受け止めてくれる。

 底のないやさしさに、勇者たちは惹かれ、救われた。

 私はそれを、誰よりも知っている。

 

「そういう……人だったわね」


 私のほうが笑ってしまう。

 感動するほどに、彼女はあの物語の主人公そのものだ。

 けど、だからこそ……。


「今の話をいきなり信じるんだな。君、見た目に反していかれてる?」

「変人に言われたくありません」

「……」


 この二人は本当に、一生気が合わないのだろうと確信した。

 二人はどこまでいっても、主人公とラスボスだ。


「はぁ、信じてくれてありがとう」

「どういたしまして!」

「それじゃ、理解した前提で話すわよ」

「はい!」


 彼女は元気よくハッキリ返事をした。

 私はこれからの方針について語る。

 私たちの目的は、勇者たちの中にある魔王の力の一部を回収すること。

 そのためには彼らの心の隅間を埋める必要がある。

 それができるのは、主人公であるフレアだけだと考えている。


「私がみんなと仲良くなって、お悩みを聞いて解決すればいいんですね!」

「それだとダメなのよ。みんながあなたを好きになったら、その時点で失敗だわ」

「好きになるんでしょうか。正直そこは信じられなくて……物語の勇者さんたちは、私のどこに惹かれたんでしょう」

「こいつ……」


 隣でベルフィスト、というよりサタンがイラついたのが伝わった。

 言いたいことはわかる。

 この無自覚なところも、彼女の特徴の一つなんだ。

 彼女は勇者たちから向けられる好意に、物語の後半までほとんど気づかない。

 告白されるまで気づかなかった鈍感主人公だった。

 その属性は、目の前の彼女にも当てはまるらしい。


「だからこそ、フレアにはあまり彼らと接触してほしくはないの。するなら最低限、仲を深めるより早く、彼らの問題を解決するわ」

「なるほど……えっと、結局私はどうすればいいんですか?」

「そうね。基本的には私と一緒にいてもらうわ。そのほうが場をコントロールしやすいし」

「わかりました! スレイヤさんと一緒にいられるのは嬉しいです!」


 弾けるような満面の笑みでそう言い、私の手を握ってぶんぶんと振る。

 飼い主と一緒にいられて喜ぶ犬みたいだ。

 今の私ってこんなに好かれているの?

 友人の好意にしては……度が過ぎているような……。

 気のせいよね。


「誰から行く?」


 ベルフィストが尋ねる。


「そうね。一人、ちょうどよさそうな相手がいるわ」


 タイミング的にもバッチリだ。

 彼なら、私の力で問題を解決できるかもしれない。

 その人物は……。


「ライオネス、彼から行きましょう」

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