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19.見苦しいわよ

 しばらく教室で待っていると、定刻通り授業が始まる。

 一般科目は特に退屈だ。

 面白味のない授業を聞き流しながら、チラッととなりの席にいるフレアを見る。

 とても真剣に聞いている。

 まじめな性格は、この世界でも変わらない。

 彼女を利用するために、私は何をすればいいのだろう。

 何を言えばいいのだろう。

 素直にお願いできる内容なら、どれほど気が楽だったか。

 私は小さくため息をこぼす。


「スレイヤさん?」

「なにかしら?」

「いえ、なんだか難しい顔をしていたので」

「ちょっと考え事をしていたのよ」


 あなたのことでね。


「何か悩み事があるんですか?」

「そうね」

「もしよかったら、私に話してもらえませんか? 助けてもらったお礼がしたいんです」

「助けたって、道案内をしただけよ?」

「それに私は助けられました。だから……」


 彼女はじっと私の顔を見つめる。

 綺麗な瞳をキラキラさせて……見ていると吸い込まれそうになる。

 純粋な善意だけの言葉に、思わず口が動きかける。


「今は授業中よ」

「そ、そうでした。終わったら話しましょう!」

「……ええ」


 本当に、彼女と話していると素直に全部打ち明けたくなってしまう。

 彼女なら、どんなお願いでも協力してくれそうな……。

 前向きで明るい主人公が成せる業だ。

 他人を無条件に惹きつけ、虜にしてしまう。

 私には一生かけても使うことができない天然の魔法を、彼女は持っている。

 だからきっと、彼女と私は……交わらない。


 授業が終わる。

 教室を出て廊下を歩いていると、フレアのほうから尋ねてくる。


「さっきの話の続きをしましょう!」

「……悩みなんてないわよ」

「嘘ですよ。今だって、何かに困ってる顔をしています」

「よくわかるわね。昨日今日会ったばかりの人のこと」


 意地悪な嫌味だ。

 彼女はそれに気づかず、笑顔で答える。


「わかりますよ。気になる人のことは、つい目で追ってしまうので」

「気になる?」

「あ、えっと変な意味はなくて。スレイヤさん美人で格好いいなと思って」

 

 フレアは照れながらそう言った。

 無意識に相手を褒める。

 好意をほのめかす。

 これも、彼女が主人公らしい振る舞いの一つ。

 こんな風に言われたら、男の子は勘違いしちゃうわね。

 女の私でさえ、ほんの少しだけドキッとしてしまったのだから。


「だから教えてください! スレイヤさんのお悩み! 私、協力しますから!」

「……どんな内容かも知らないで?」

「どんな内容でも!」

「……」


 彼女なら本当に……。

 わずかな期待を胸に抱く。

 自然と、口が動きかけた。


「あなたに――」

「ここにいたか。フレア」


 私の言葉を遮ったのは、ライオネスの声だった。

 振り返るとライオネスとメイゲンが後ろに立っている。


「ライオネスさん! メイゲンさんも」

「こんにちは、フレアさん」

「お前は……スレイヤ・レイバーンか」


 ライオネスと視線が合う。

 そうだ。

 彼女と行動を共にすれば、彼らとも遭遇する確率が増える。

 主人公にとって運命の相手たち……必然。

 けど、タイミング的に助かったわ。

 もう少し遅ければ、私の口から素直に伝えてしまいそうだったから。


「オレに何か言いたげだな?」

「別に、何もないわ」

「ふんっ、その態度は好かんが、まぁいい。用があるのはお前ではなく、こっちだ」


 ライオネスはフレアを指さす。

 フレアはキョトンと首を傾げる。


「お前、昼はオレに付き合え」

「お昼ですか? いいですけど、それならスレイヤさんも一緒に」

「聞こえなかったか? オレが誘ったのはお前一人だ」

「そう、ですか……」


 フレアはちらりと一瞬、私のほうを見た。

 申し訳なさそうな横顔が見える。

 心配しなくても、私は気にしていないわ。

 だから気にせず彼と……いえ、あまり親交を深められても困るわね。

 好意が本物になると私たちの目的は果たせない。

 どうしようかしら。


「すみません。そういうことなら、私は遠慮します」

「――!」

「なんだと?」


 フレアは断った。

 意外にも、彼からのお誘いを。

 驚く私と、断られて明らかに苛立つライオネス。


「私、今日のお昼はスレイヤさんと一緒にいたいので」

「フレア……」


 ライオネスじゃなくて、私を選んだというの?

 どういう気持ちで?

 困惑する私をよそに、拒絶されたライオネスは眉間にしわを寄せる。


「お前……オレの誘いを無下にする気か」

「すみません。また明日――」

「ふざけるなよ貴様!」


 突然、ライオネスが怒鳴る。

 驚いたフレアはビクッと身体を震わせる。


「このオレが誘っているんだ。平民の分際で断れると思うな! 無礼者が!」

「ラ、ライオネスさん?」

「ライオネス! 落ち着いて!」


 諫めようとするメイゲン。

 しかし彼の声は届いていない。


「いいから従え! 平民が貴族に逆らうな!」

「っ、痛い」


 怒ったライオネスがフレアの手首をつかむ。

 何かが彼の逆鱗に触れてしまったらしい。

 私には、彼の怒りの理由がわかる。

 これも一つの通過点、彼らが仲を深めるためには必要……。

 それでも、いや、だからこそ。


「やめなさい。見苦しいわよ」


 ここで止めなくちゃいけない。 


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