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08

 杏奈の顔は凄く可愛い。ハーフっていうのもあってか、顔の彫りが深めで目はぱっちり、睫毛バッサバサの美少女だ。

 でも性格的には結構キツめで、はっきりともの申し過ぎちゃうくらい。今回のことで、せっかく出会えた番さんとの関係がこじれているのではないかと思う。


「それは……まあ、なんと申しますか」


 トマス氏が言葉を濁したので、私の想像が当たっていることが分かった。


「レイちゃん! レイちゃーーん!!」


 トマス氏、マリンさん、お医者さんを押しのけて半分開いていたドアから杏奈が飛び込んで来た。そのままの勢いでベッドに半分体を起こしていた私に向かってダイブする。


「レイちゃんっ!」


「ぐえっ……」


 杏奈の全体重が私にのし掛かり、背中に入れていたクッションや枕と一緒に私を押し潰す。重い、苦しい……


「レイちゃん、良かった……良かったよぉぉ」


 マリンさんとお医者さんが慌てて杏奈を引き剥がしてくれて、呼吸が確保出来た。せっかく大怪我から生還したのに、従姉妹に圧死させられては笑い話にもならない。


「……本当に申し訳ありませんでした。怪我については完治しておりますが、血を沢山失ってしまっています。レイ様にはゆっくりと養生して頂きたく、お願い申し上げます」


 トマス氏はそう言って深く頭を下げた。


 お披露目会の番探しについては、離宮の中ならどこにいても番さんが気が付く距離らしいので気にせず部屋で休んでいて構わないらしい。


 体は痛い所はないけど、どこか気怠いのでしばらくはのんびりさせて貰おうと思う。それと、私の番さんが見つかるまでは人が多い所は遠慮させて貰うことにしよう。もし、また別の獣人さんが嫉妬でカッとなった所に巻き込まれたら嫌だしね。


 トマス氏とお医者さんは「また参ります」と部屋から出て行き、マリンさんは私の軽食とお茶を用意すると出て行った。


「杏奈、心配かけてごめんね? 大丈夫だから」


「レイちゃん……レイちゃんが死んじゃうんじゃないかって、不安で、恐くって……」


 杏奈は大きな目からぽろぽろと大粒の涙を沢山零した。普段元気で活発な杏奈とは思えなくて、驚いた。


「杏奈……」


「だって、レイちゃん血だらけで、いくら呼んでも目を開けないし、このまま死んじゃうって」


 ああ、そうか。私はクマさんに張り倒されてすぐに意識を無くしちゃって、気が付いた時には治療済みだったから痛くもなかったし、自分の体が傷付いたのも分からない。

 でも、杏奈は血塗れで体がボロボロになった私をしっかり見ちゃったわけだ。そりゃあ、不安だし恐い。


「もう大丈夫だから。私は元気になったし、ちゃんと生きてるから」


「レイちゃん~」


 杏奈は私にしがみついてわんわん泣いた。

 そうしているうちに、夢で見た両親のことや伯母夫婦たちのことを思い出して私も一緒に泣いた。

 もう二度と家族には会えない、あの世界には戻れない。そう思うと涙が止まらなかった。




 その後、戻って来たマリンさんと杏奈付きのメイドのネリーさん(白ウサギの獣人さんだ、凄い可愛い)によってドロドロになって目がパンパンに腫れた顔を蒸しタオルで拭かれ、サンドイッチとスープを貰った。


 お腹がいっぱいになった私たちは、そのまま私が寝かされていたベッドにふたりで横になる。こうやって一緒に寝るのは久しぶりだ。子どもの頃は一緒にお昼寝していたし、どっちかの家にお泊まりもよくしていたからこうやって寝るのは慣れ親しんだもの。


「ねえ、杏奈。番さんって、どんな人でどんな感じ?」


 そう聞くと、杏奈は頬を膨らませ唇を尖らせる。


「最っ低野郎だよ。カッとなって暴力を振るうなんて、マジ最低。そんな奴が運命の相手とか言われて、超ショック」


「そっか……全然好きになれそうにない感じ?」


「……分かんないよ。多分、こんな事件がなくて普通に会いに来てくれてたら、好きになれたかもしれない。背も高かったし、顔も嫌いじゃないもん。でも、突然レイちゃんに暴力振るうような男、好きになれって言われても」


 杏奈は半分アメリカ人のせいなのか、背の高いマッチョな男性がタイプなのだ。好きっていう俳優はみんなハリウッドのマッチョなスターで、韓国や日本の線の細い王子様や可愛いタイプには見向きもしない。


 お相手さんは熊の獣人さんだというから、多分大きくてマッチョだろうから、杏奈のタイプには当てはまる。けど、確かに暴力男はいただけない。


 私が杏奈の立場だったら、自分の運命の番だと言われても受け入れられるかは分からない。


「そうだよねぇ……うん。でもさ、杏奈、先のことも考えてかないとね?」


 私たちはこの世界に召喚という名の誘拐で連れて来られた、そして元の世界には帰れない。これは確定だ。


 何故連れて来られたかと言えば、この世界の人と結婚して暮らして行く為。今現在、花婿花嫁捜し大会の真っ最中という訳で……その大会中だからこそ、命と衣食住が保証されているのだ。この世界の誰かの花嫁だから、大事にされている。


「レイちゃん?」


 今の現状は、いつまでも続かないのだ。

お読み下さり、ありがとうございます。

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