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 フェスタ王国のお城は外観と同じく、中も白色で統一されていた。床にはグレーや茶色なんかの落ち着いた色合いのタイルで模様が描かれていて、壁には綺麗な絵画が飾られ、花瓶に生けられた花は豪華絢爛、窓には藍色のたっぷりとしたカーテンがかかる。


 離宮にはない落ち着いた豪華さに私は落ち着かなくなるけれど、周囲の雰囲気もそれに追い打ちをかけてくる。侍女や侍従さんたちも忙しくしているからだ。


「今、城を支える者たちは忙しいのだ。一年の締めくくりとなる王家主催のパーティーが開催されるからな」


「ああ、皆さん準備で忙しいんですね」


 そういえば、大公閣下とご夫人も出席しなくちゃいけないパーティーがあるって王都に来たんだった。


 そんな忙しい時期に私と会う時間を作るなんて、すごく大変だっただろうに。けど、それなら長い時間作れるわけがないので、私が思っているよりも短い時間でササッと終わるかもしれない。


 トラ獣人の侍従さんに案内されて、客間に到着したのはいいけれど……絶対ひとりではお城からで出ることすら出来そうにない。


「殿下方はすぐに参りますので、こちらでお待ち下さい」


 客間は豪華な調度品で溢れ返っていた。


「うっ……」


 部屋の中央には大きなシャンデリア、その下にある黒いテーブルと椅子は、触ったら指の跡がくっきり付きそうなくらい艶々と輝いている。テーブルセットの乗る絨毯はふわふわと毛足が長く、お菓子のカスなど絶対落とせない感じで、飲み食いなんて出来るわけない。


「なに、どうしたって言うのサ?」


「部屋が豪華過ぎて……」


 私の返事に大公閣下は笑って、なんの躊躇いもなく艶々した椅子に座った。キムも艶々に光る椅子を引いて「ここに座りなヨ、お嬢さん」と手招きする。


 やっぱり、身分の高い人とは相容れない部分がある。


 そっと椅子に座ると、メイドさんがお茶とお菓子を運んできてくれて、優雅にサーブしてくれた。透き通った琥珀色が綺麗な紅茶に、宝石のように輝くプチフルーツケーキ。普通の場なら美味しくいただけるだろうに、今の私は手を出すことが出来ない。


「どしたの、食べないのかナ?」


「……無理」


「そんな緊張しなくても大丈夫だヨ」


「……無理」


 今からこの豪華な部屋で誰と会うと思ってるの? この国の王子様だよ!? 緊張するなって方が無理。


 ノックの音が部屋に響き扉がゆっくりと開いた。


 体が震えるほど緊張して無限とも思える時間を過ごしていたけれど、時計を見れば十分もたっていなかった。


 開いた扉からふたりのトラ獣人さんが入室する。


 服装はシャツにジャケットとパンツというラフな格好だけれど、その素材や仕立てなどは超一流品。フェスタ王国のお城でこんなラフな格好が許されるなんて、王子様たちに決まってる。


 大公閣下が立ち、キムが一歩下がって一礼し、私も慌てて立ち上がって頭を下げた。


「ああ、止めてくれ。この場では我らの方が謝罪する立場なのだから」


 私の前までやって来た方はそう言って、顔を上げられないでいる私の顔を強引に上げさせた。目の前には、白と黒の毛に水色の瞳を持ったトラ獣人さんがいる。


「初めまして、異世界からの番殿。私はフェリックス・エインズリー、この国の第一王子をしている。そして、こちらが我が末の愚弟」


「第三王子イライアス・エインズリーだ」


 第一王子の斜め後ろに立つ王子は明るい金茶と黒の毛並みで、大公閣下と少し似ている感じがする。彼らは従兄弟なのだから、似ていてもなんの不思議もないかと思い至った。


「……レイナ・コマキと申します」


 震える声で名乗って、スカートをつまみ上げるようにして一礼した。


「色々と申し訳なかったね、レイナ嬢。どうか座って、落ち着いて今までの謝罪とここに至るまでの状況説明をさせて欲しい」


 第一王子は私を椅子に座らせて、自分は大公閣下の隣に座る。第三王子はテーブルの脇に立ったまま、座ろうとはしない。


「は、はい」


「さて……レイナ嬢、申し訳なかった。あなたにはこの世界に招かれてから、辛い思いを沢山させてしまった。これも全て、愚弟の甘い考えと行動から始まったことだと思うと謝罪してもしきれない」


 そう言うと第一王子は第三王子に向かって「おまえからもしっかり謝罪しろ」と呟き、第三王子は絨毯の上とは言え両手両膝をついて額を床に擦り付けた。


「申し訳なかった」


 これは、日本古来より伝わる伝統謝罪、土下座。


 なぜ、フェスタ王国第三王子殿下が土下座謝罪を?


 私は理解が追い付かず、おろおろとしてしまった。


「殿下、謝罪の気持ちは分かりますが、いきなりドゲーザをしてもレイナ嬢からしたら意味が分からないですよ」


「そうですヨ、怯えさせないで下さいネ」


 大公閣下とキムが助け船を出してくれて、第一王子はまた「申し訳ない」と第三王子を自分の後ろに立たせた。


「……では時間もないので、説明をさせて欲しい」


「はい」


「レイナ嬢、キミの番がお披露目会の会期中に迎えに来ることが出来なかった、それには理由がある。すでに愛する者がいて、キミが必要なかったとかいうデマのことは忘れて欲しい」


「デマ、なのですか?」


 王宮に勤めている間にずっと聞かされていたことだ。


 私の番にはもう心に決めた相手がいて、番除けの装飾品を身に着けて幸せに暮らしている、だから私のことを迎えに来ないのだ。獣人が番を迎えに来ない理由は、他にないと。


「そうだ。イライアス」


 第三王子は一歩だけテーブルに近づくと、私に軽く頭を下げた。金色の瞳が不安げに揺れている。


「俺が海外に留学していたことは、知っている?」


 私は首を縦に振った。


 確か私がフェスタ王国を離れる日に、港町で留学していた王族の乗った大きな船を見た。白くて大きな帆船で、有名海賊映画に出てくる船みたいだって思った記憶がある。

 あの大きな帆船に乗って帰国したのが、目の前にいる第三王子だったんだろう。


「……キミの番は、ユージン・オルコット。俺の側仕え兼護衛として、一緒にクレームス帝国への留学に出ていたんだ」

お読み下さりありがとうございます。

評価、イイネ、ブックマークなどの応援をして下さった皆様、本当にありがとうございます。

MFブックス様のHPにて、書影を見ることが出来るようになっております。

とても素敵な感じですので、見ていただけますと嬉しいです。よろしくお願い致します!


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