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 週末、仕事の後でハンナさんと一緒に作ったカップケーキはプレーン、チョコチップ、ナッツ、レモン&オレンジの四種類。


 少し小ぶりだから、違う味を四つ食べきることが出来る。


 味を選ぶのは楽しいけど、全種類制覇したい気持ちもあるから……全部味見が出来るのは個人的には嬉しい。


 可愛い柄の紙カップに入ったカップケーキは、透明なセロファン紙みたいな袋にひとつずつ入れて、小さなリボンで止めた。


 きっと、甘いもの好きの女子やご婦人が沢山買ってくれるだろう。娘さんや奥様にお土産で買い求める紳士もいるかもしれない。


 このお菓子は教会に寄付されて、販売される。その売上げが教会併設の孤児院運営費用に回されるというシステム。


 お菓子を持って、マリウスさんとハンナさんと三人で教会に向かった。


 女神様を祀る教会は、この世界に大小数え切れないほど存在している。大きな街には大聖堂があって、その下に教会。教会もないような小さな村には祠という形で女神様を信仰する。


 大聖堂には女神様に仕える神官を育てる神学校が併設されていて、孤児院は教会に併設されているのが一般的なんだとか。まあ、教会にも規模の大きい小さいはあるようで、受け入れる孤児の人数に違いがあるらしい。


 到着した教会は王都ウェイイルという大都市の中では小さい教会になるらしい。こぢんまりしていて、私の想像する西洋風の教会に近かった。


 白っぽい石造りの建物、中央の塔部分には色ガラスで女神様と大樹が描かれている。教会内部は中央に通路、左右にはベンチが設置されて、女神様の像が最奥にあって人々が祈りを捧げているとか。


 中央入口に神官らしい白と青の神官服を纏った人がいて、寄付金を受け付けている。その横では小さな獣人の子どもたちが寄付される小物やお菓子を受け取っていた。


 沢山作ってラッピングしたカップケーキを受付の女の子に渡せば、とても可愛い笑顔で「ありがとうございます!」と受け取ってくれた。


 書面の寄付欄の所にカップケーキと個数を記入し、名前も書き込む。それを確認すると、後ろに控えていた子どもたちが焼き菓子が沢山並んでいるブースにカップケーキを並べ始める。


 貝の形の焼き菓子やカステラみたいな四角いケーキ、隣には色とりどりのキャンディーや果物の飴がけも並んでいて、本当に目移りしちゃう。


「どれを買うか、決めた?」


 マリウスさんはランダース商会として、教会への寄付金を神官さんに納めに向かった。マリウスさんを待ちながら、ハンナさんとふたりで子どもたちの手によって、ちゃくちゃくと準備が進んでいる様子を見守る。


「ううーん、悩みます。沢山あるから、あれもこれもって思っちゃいますよ」


 こちらの世界のお菓子には保存料的なものが入ってない。だから、食べて安全だけど日持ちはあまりしないのだ。長持ちなのはキャンディーくらいかな?


「お菓子はあんまり日持ちしませんし、駄目にしたくないので」


「あら。なら、食べるの手伝って貰いなさいな」


「え?」


 ハンナさんに体をくるんっと回されて、真正面に立っていたのはリアムさんだった。いつもの制服姿じゃなくて、私服でしかも前髪が降りている。見慣れない姿に、心臓がドンッと大きく鼓動する。


「おはよう」


「お、おはよう、ございます。なんで、こんな所に……」


 あまり教会のバザーとリアムさんが結びつかない。でも、まあ、居てもおかしくはない……のかな? 教会のお祀りする女神様は、獣人さんたちに広く受け入れられている神様だもの。


「キミが今日はここに来る、と聞いたから」


「え?」


 振り返ると、ハンナさんが居ない。と言うか、教会の正門でマリウスさんといつの間にか合流している。そしてふたりは体を寄せ合って〝楽しんで!〟と口パクで言った。


「俺と一緒に、見てまわらないか……嫌でなければ」


 私は自分で顔が徐々に熱くなって行くのを感じた。多分、耳まで真っ赤になっているに違いない。


 リアムさんと言われて思い出す姿はいつも紺色の制服を着て、前髪も上げている姿。ラフな私服姿と前髪が降りていると随分印象が違うな、と思った。

 普段はキリッと凜々しくて恐そうな印象だけど、今は優しげな印象の方が強い。

 心臓が爆発しそうなほどドキドキと激しく脈打って、顔が真っ赤に染まる。


「レイ? 大丈夫か?」


「ああ、その……はい。ここで会うなんて、思ってもなくて、驚いてしまって」


「そうか、事前に連絡をしておけば良かったな」 


 お祭りの始まる時間になった。教会の前通りや教会の敷地内に並べられたテーブル上には沢山の品が並んで、大勢の人が集まって販売が始まる。


 小さな獣人の子が商品を渡したり、呼び込みをする姿はとても愛らしい。


「欲しいものがあるんだろう?」


「えっ……あ、お菓子を少し」


 リアムさんの大きな手が私の肩に触れ、ゆっくりとでも力強くお菓子を扱っているテーブルに誘導された。


「好きなものを好きなだけ買えばいい」


「食べきれませんよ」


「一緒に食べよう、金はちゃんと払う。それなら、種類が多くあっても大丈夫だ」


 言われるままに焼き菓子を数種類とキャンディーを買った。そのまま、人の流れに乗って小物や装飾品などを売っているテーブルも見てまわる。


 リアムさんは私の手を取り、他の人とぶつからないように、私がテーブルの上の商品をちゃんと見られるようにと気を遣ってくれるのが分かる。


 こんなスマートにエスコートされたら、ドキドキが止まらない。

 ますますドキドキして……好きになってしまいそうで、恐い。

お読み下さりありがとうございます。

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