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「本当にな。フォー家を始めとして、エルフやドワーフなんかの血筋の家は大歓迎だもんな」


「いやいや、他の高位貴族もそうだって」


「最近は館に入る新しい異世界人、いなかったもんなぁ。これで新しい血が入るんだろ、どこの家だって大歓迎さ」


「しかもあんな髪だが、女だ」


「髪なんかすぐに伸びるさ。まだ若いし、顔もまあまあ見られる。子どもを産むには十分だろ」


「それより、本当に宝珠の館に入るんだろうな? これでやっぱり入りませんでしたってなったら、肩すかしだぞ?」


「大丈夫だろ。番に迎えに来て貰えなかったんだ、相手の獣人はもう別の伴侶がいるんだよ。そうじゃなかったらあり得ない話しだ」


「だよな。それにまあ、噂も流れまくってるし居辛いだろうし」


「まあ、確かに今流れてる噂はひでぇもんだよな。本当のことなんて全然入ってないんだろ?」


「まあね。でも、従姉妹って子がファルコナー家に出発するとき、ファルコナー家の次男がなにか言い含めてたらしいぞ? 付いて来るなって言ったのは事実かもよ」


「でも、あの子従姉妹に付いて行こうって気配は感じられなかったけどな。だって荷物纏めたりしてなかったし、見送りも手ぶらだったよな」


「そうか、それもそうだな。でも、そんな姿が見られたから噂は真実味を増したんだろ? もう、王宮中に広がってるらしいじゃないか」


「だーかーらー、レイ殿を館入りさせたい貴族連中がこれ幸いって噂を流しまくってるんだろ。逃げ場がないようにさ」


「でもさ、もしも、もしもも話しだが。レイ殿の番が後から現れたとしたら、マズくないか?」


「そりゃあマズいな。レイ殿の番がどんな立場の者かにもよるけどさ、もし高位貴族だったら本当にマズい。想像してみろよ、自分の番が変な噂流されて宝珠の館にいかされたって。でもって、自分の子じゃない子でも産んでるとか孕んでたってなったら……」


「そりゃ……怒り狂うかも。でも、現実問題としては無い話しだろ。今になってもまだ迎えに来ないってことは、必要ないってことなんだよ」


「……でも宝珠の館に入れば、王宮で暮らすよりずっといい生活送れるんだろ?」


「そうだろな、なんたってお相手は金も地位もある王族や高位貴族が主だし。金も宝飾品も豪華な食べ物も貰い放題だろ」


「ええー、いいな! 俺も異世界人だったらなー」


「おまえみたいな奴、まずこっちに呼ばれねぇよ!」


「そりゃそうだ!」



 大きな笑い声が耳に残った。


 王宮に戻ってきたときはオレンジ色に空は染まっていたのに、気が付けばもう真っ暗だ。

 私はどうにか寮の自室に戻って来ることが出来たらしい。


 ランプに灯りを入れることもしないで、ぼんやりベッドに腰掛けている。


 テーブルの上にある夕飯は冷え切って、硬くなってしまっているだろう。


 さっき聞いた会話内容がぐるぐると頭の中を駆け巡る。


 そうか、そういうことだったのか。とても納得している自分がいる。


 異世界人は獣人の子どもを確実に産む。宝珠の館は確実に獣人の子が欲しい人たちと、番を亡くしてこの世界で居場所を失い生活の術がない異世界人、どちらにもメリットのある場所。


 でも、思うに異世界人が番を亡くすというイレギュラーな事故は滅多に起こらない。獣人さんは基本的にとても体が丈夫なのだから。


 結果、宝珠の館にいる異世界人は滅多に増えない。


 宝珠の館を利用するにしても、同じ人が親では血が濃くなってしまって困るし、異世界人も年をとって子どもが作れなくなっていく。


 だから、私のような存在を館に入れることは歓迎されるべきことなのだ。

 新しい血を持った若い女。


 マーティン氏はエルフの血を引いていると言ってた。彼の家も宝珠の館を利用しているクチなのかもしれない、新しい血を入れる為に一肌脱いだという感じか。


 私の館入りを希望する王族やら貴族やらは結構多くて、私の妙な噂を積極的に流している。それが事実なら、いつまでたっても噂が風化せずに流れているのも納得がいく。

 

 ここに、私の居場所は無い。


 もう王宮には居られない、当然宝珠の館に入ったりもしない。


 私は、私自身の手で居場所を作り出すんだ。


 ゆっくりベッドから降りてランプに灯りを付けた。少し黄色味の強い灯りが小さな部屋を照らす。

 椅子に腰掛け、買って来た夕飯を紙袋から取り出した。


 バーニーさんお勧めのサンドイッチ。堅めのライ麦みたいなパンを使って、葉野菜と人参ラペとハムとチーズがたっぷり挟まってる。


 マリウスさんお勧めの野菜スープは、数種類の野菜が形が崩れるまで煮込まれたシンプルなスープ。


 さっき貰ったハーブの入った紅茶を煎れて、硬くなってしまったサンドイッチを食べ冷えたスープを飲む。大口を開けてがっついた夕飯にはちゃんと味がある。


 サンドッチもスープも紅茶も、とても美味しくて力が湧き出すような味がした。

 

 私はここを出る。ここに居たら駄目だ。


 この世界のことをもっと具体的に知って、自分がこれから死ぬまで生き抜く場所を探す。


 マリウスさんが米は東にある島国の作物だと言ってた。もしかしたら、日本……最低でもアジアっぽい生活基盤のある国なのかもしれないし、米があるなら醤油や味噌もあるのかもしれない。


 いいかもしれない。口に合う食事は大切だ。

 いいかも、そう思えたら急に心が軽くなった気がした。

お読み下さりありがとうございます。

評価・イイネして下さった方、読みに来て下さった皆様、本当にありがとうございます。

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