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私は今までのことをかいつまんで話した。
今年の召喚でこの世界に来たこと、番さんが迎えに来てくれなかったこと、王宮で仕事をしているけど妙な噂を流されて居場所がないことなどをつらつらと。
考えながらだったし、つっかえながらだったから上手く話せたとは思えない。細かなことや全てを話すつもりはなかったから、丁度良かったのかもしれない。かなり聞き辛い感じになったと思うけど。
でも、彼らは私の話に相槌を打ち、時に促しつつ聞いてくれた。
「……そうか、大変だったな。それに獣人としても申し訳ないことをしたと思う、獣人を代表して謝罪する。申し訳なかった」
グラハムさんは耳と尻尾をしょんぼりとさせながら、私に謝ってくれた。でも、あの、グラハムさんに謝ってもらう必要は無いんだけどもな。
「本当にごめんね、同じ獣人種族として恥ずかしいよ。獣人に対してイメージ良くないと思うんだけど、獣人だからって嫌わないでくれると嬉しいな」
マリウスさんもそう言った。大きなふさふさな尻尾が力なく下がっている。
「…………いえ、こちらこそ要領を得ない話しを聞いて貰ってありがとうございます。話してすっきりした部分もあるので。それに宝珠の館についても教えてくださり、感謝します」
リンゴジュースっぽいものを飲み干し、ジュースの代金を払おうとすると「気にするな」とご馳走されてしまった。
「で、レイ君は今から館に行くの?」
マリウスさんの問いかけに私は首を左右に振った。
どんな場所なのか分からなかったし、訪ねてみろって言われたから行って確かめるつもりだった。
でも、どういう場所なのか分かった以上、実際に確認しに行くつもりは無い。
実際に行く時は、宝珠の館の住人になってもいいと私自身が納得出来た時だ。
「そう、じゃあ、これからどうするの?」
「えっと、どうって……」
「だって聞く限りだけど、レイくん、居辛いんじゃないの? 仕事は嫌いじゃないのは幸いだけど、番は迎えに来ないし、周囲にいる人たちは変な噂に影響されて、レイくんに対してちゃんと接してないんでしょう」
「それは……」
マリウスさんの言葉は、今私が置かれている立場をズバリ言い当てている。
職場の雰囲気は悪くない、無視されることも遠巻きにされることもなくちゃんと会話が成り立っている。でも、それ以外の場所では駄目だ。
噂の内容は嘘ばかりで、気にしない気にしないと心の中で唱え、出来るだけ他の人たちから離れて生活しているけれど……正直辛いし、疲れる。
「レイくん、キミはどうしたいの? 選択肢は色々あると思うけどね、もちろん宝珠の館ってのも選択肢のひとつ。自分がどうしたいのか、をよく考えたらいいよ」
マリウスさんは緑色のジュースを飲み干し、またウエッてなってから「これ苦い野菜混じってるよね?」と笑った。
「…………ここを、この街を離れようかな、と思っています」
そう言うと、お三方は各々の耳をピンッと立て、尻尾の毛を膨らませた。
「ここを離れるってことは、番の獣人と出会える可能性が低くなるってことだけど。レイくんはそれでいいの?」
「……はい。迎えに来て貰えないってことは、向こうが望んでくれていないってことだと思うので」
伊達に迎えのなかった初めての異世界人、としてヒソヒソと遠巻きにされていれば嫌でもそう思える。
「そうか、うん……まあ、そう受け取られちゃっても仕方が無いの、かな? どうなのかな、どうなんですかね、グラハム主任」
「俺としては、キミの番が迎えに来ないってことに納得いかん」
グラハムさんは両腕を組んで、ふんっと鼻を鳴らした。
「えっと、それは、獣人さんにとって番がとても大切な存在だから、ですか?」
「ああ、そうだ。人族のキミには理解が難しいだろう、だが、本当に我ら獣人にとって番という存在は大事なものだ。だから、迎えに来ないということが信じられん。なにか問題が起きているとは考えられんか?」
「都合が悪く、お披露目会に来られない場合はその旨連絡があるのだと聞いています。ですが、その手の連絡は入っていないとも聞いています」
「…………そうか。だが、信じがたい」
「僕としては、キミにはこの街に残っていて欲しいと思うよ」
ずっと黙って聞き役に徹していたバーニーさんは、小さい声だけれどはっきりと言った。
「最終的に決めるのはキミだって分かってるよ。でも同じ獣人としては、番を得られる可能性が低くなる行動はなるべくとって欲しくないなって思う」
「…………」
「なにか問題が起きていて、キミと番である獣人はまだ出会えてない。だからって、切り捨てて欲しくはないんだ……本当に女神が結んでくれた番との絆は大切だから」
バーニーさんの言葉にグラハムさんもマリウスさんも頷く。
だから、私はこの街で心ない噂が飛び交う針のむしろのような中で、友人もなく居場所もなくただただ耐える生活しろって? 会えるかどうかも分からない、私を望んでもいないかもしれない相手を待って?
目の前がまたぐらりと揺れて、さっきまで美味しく飲んでいたジュースが吐き気と共にせり上がってくる。
慌てて両手で口を押さえ、せり上がってくるものを強引に飲み下す。こんな所で吐くなんてゴメンだ。
「ちょっとレイくん、大丈夫?! 大丈夫、ごめんね変なこと言って! 大丈夫だから、落ち着いてゆっくり息を吸って。気持ち悪かったら出しちゃっていいから、レイくん? レイくんっ!」
目の前がぐるぐる回って、マリウスさんの慌てた声を聞きながら私は耐えきれず意識を手放した。
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