09
ま、間に合いましたー!
異世界からやって来た番は南離宮とその敷地内にて、番に対するお披露目会に参加すべし。
だから、南離宮とその敷地内にいればどこにいても問題ない。獣人さんの持つ番センサー(匂い?)にかかれば、離宮のどこにいても分かるらしい。なんだろう、ちょっと恐い。
「部屋の外に出て、複数の獣人に会うことに抵抗があるのでしたら、お部屋でくつろいで下さって良いのですよ? お茶やお食事はお部屋に運びますしね」
マリンさんがそう言ってくれたので、私はその言葉に甘えることにした。
獣人さんには色んな種族がいて、ウサギやリスなどの草食で可愛い種族もいれば熊や虎、獅子などの肉食で力強い種族もいる。
杏奈の番さんだという熊獣人さんに引っぱたかれて、死ぬかもしれない怪我を負った(全然記憶にはないけど、引っぱたかれる前に感じた威圧は覚えてる)せいか、体の大きな男性獣人さんを見かけると一瞬ドキリとする。
緊張するのだ。それが微妙にストレスで、疲労感を煽る。
そのうちに慣れてくるとは思うのだけれど、しばらくは部屋に引き籠もっていてもいいかと思った。
だから、部屋で本を読んでお茶を飲んで、顔を見せに来る杏奈やエディスさんとお喋りとしたりして過ごした。凄く快適だった。
そして、気が付いた時には番のお披露目会が閉会する日になっていた。
私には、私を番だと言ってくれる迎えが来ないまま。
-*-
開けっぱなしになっていた窓からは、綺麗な音楽と楽しげに話す人たちの声が聞こえる。
「……窓、閉めましょう。夜風は冷たいですから」
マリンさんは窓を閉め、しっかりと施錠するとカーテンまで引いた。
今日の南離宮の別邸は朝から落ち着かない感じだった。メイドさんも侍従さんもバタバタしていたし、大ホールとそれに続く中庭にはテーブルや花がセットされてパーティーの準備が進められているのが見えた。
そこで気が付いたのだ、お披露目会という名の番探しが終わって、今夜は異世界からの花嫁・花婿と彼らを伴侶に迎えた獣人さんたちのお披露目なのだと。
お披露目会、というのは今夜のパーティーが本番なのだ。
当然、番である獣人さんが迎えに来なかった私は、参加しない。今絶賛開催中のお披露目には、獣人さん側が用意した衣装と装飾品を身に着けて参加するのがルールなんだそう。私には参加資格がないのだ。
「……お茶を用意して参りますね」
「うん、ありがと」
マリンさんが、私を気にしながらお茶の支度をしに部屋を出て行った。それを見送った私は、自然にため息をつく。それが思ったより大きくて、自分で驚いてしまう。
私、がっかりしてる。
生まれて今まで彼氏がいたことはない。恋愛に対して興味が薄くて、積極的にしたいと思わなかった。
でも、生涯をかけて愛してくれる相手、という存在に憧れないわけじゃない。そんな相手が私にも居てくれたらって思う。だって、私だって女だし。
この世界に呼ばれたってことは、私のお相手さんがいるのは確定している。そのお相手さん、私の番さんと一緒に幸せに暮らすこと、そのためにこの世界へと呼ばれたのだと聞いた。
最初は確かに半信半疑だった。運命の番、なんて確かに憧れるけどあくまで物語の中の話しだったし。
でも次から次へと番さんたちは南離宮へやって来て、自分のお相手さんを見付けて愛を告げる。それを目の当たりにすれば、嫌でも現実なんだって理解せざるを得ない。
途中、アクシデントがあって離宮の表側には出なかったけれど……過去にはお披露目会の間中、自分の部屋に籠もっていた異世界人もいたけれど、ちゃんと番さんが迎えに来たと聞いた。
だから、気にせずに過ごした。お披露目会開催中には、お迎えに来てくれるんだろうと思って。
でも、現実はどうだろう?
私以外の人には全員番さんが迎えに来ている。
私には迎えは来ない。
私以外の人は番さんに贈られた正装と宝飾品を身に着けてパーティーに参加している。
私には参加資格がない。
なんなんだろう?
私はなんのために家族や友人と引き離されて、こんな所へ誘拐されて来たんだろう?
なんのために?
遠くから聞こえる楽しげな音楽を聞きながら、私の心は少しずつ沈み始めていた。
お読み下さりありがとうございます。
ブクマ、評価、イイネして下さった皆様、本当にありがとうございます!
不定期更新ですが、出来るだけ週1回投稿(出来るだけ水曜10時)が出来るようにしたいです。
宜しくお願いします。




