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「キミからの希望を聞いた。ますひとつ目、番の同行に関係なく他の国への出国を希望するとのことだけれど……許可はするが、条件がある」


 番か保護官の同行がなければ異世界から来た者は海外に行くことが出来ない、そういう決まりがあると聞いている。だから、条件付きになるだろうと思っていた。そこは問題ない、問題なのはどんな条件が付くか、だ。


「当然だが、ひとりで行くことは許可出来ない。こちらが認めた護衛官の同行は必須条件とする。戦う術も魔力もないキミがひとりで旅することは、命の危険があるからだ」


 旅慣れて、魔物や夜盗の類に対する対策を厳重に行っているランダース商会の商隊だったから、私は無事に旅が出来ていたのだ。ひとり旅など余程の強者でなければしないものだし、魔物に襲われて命を落とした人、夜盗に攫われて悲惨な目にあった人の事例を丁寧に説明されてしまえば……ひとりでなんて言えないし、生き残る自信も無くなってしまう。


「それから、他の国へ行ってもそちらでの永住は許可出来ない。決められた期間内で必ず帰国して貰う」


「……え」


「ます、異世界からやってきた者はやってきた国の者となる。こちらの世界の者の番として、女神が呼んだのだから当然だろう? キミはフェスタ王国の国民として籍がある。異世界から来て呼ばれた国以外の国への永住が認められる者は、番を亡くした者のみ。それは世界中にあるどの国でも共通の法なのだ」 


「レイナ嬢、キミの場合キミの番であるユージン・オルコックが死亡した場合、フェスタ王国以外の国に永住する権利を得られることになる」


 王太子殿下と大公閣下に、この世界にある国共通である異世界からの番に関する法律と、私が当初考えていたファンリン皇国か東の島国で暮らすための条件を突きつけられる。


 冷たい水を頭から被ったみたいな、そんな気持ちになった。この国じゃない、他の国で暮らしたいと思ってた。この国にあまり良い思い出がなかったから、日本に少しでも文化が近い国で暮らそうって。


 でも、リアムさんを殺してまでそうしたいか? と言われたら、答えは否だ。好きな人が死ぬなんて、そんなの想像もしたくない。


「……悪いな。あくまでキミに許可出来るのは、決められた国で認められた滞在期間のみだ」


「わ、分かりました」


 私の斜め後ろに立っていたキムの手が頭を撫でた。そちらを見れば、キムが〝よしよし〟って声に出さずに言っているのが分かった。子ども扱いしてるように感じるけど、一応慰めてくれていると思いたい。


「それと、女神の大樹が間近で見たいということだが……こちらも条件がある」


「はい」


「女神の大樹の間近まで行くことが出来るのは基本、大神官長と国王と王妃、その三人だけだ。それも一年に四回行われる祭事のときのみ行ける」


「えっ!?」


 そんな限られた人が限られたときにしか行くことが出来ない場所だったとは、全く想像してなかった。


 物凄く特別な場所だった、みたいだ。


 もっとこう、お寺とか神社みたいに観光化されて、女神まんじゅうとか大樹最中とか大樹せんべいとか売っていて、お賽銭をジャンジャン受け取ってるかなってイメージだったんだけど。


「だから、無理も無理言ってるって言ったんだヨ」


 キムが呆れたように私の頭をワシワシッと掻き混ぜてきて、「ごめんなさい」と小さく呟いた。


「だが、例外があった。だから、今回はそれを使う」


「例外?」


 王太子殿下は頷き、執務机に両肘を突いて手を組んだ。なんだかそのポーズを見ていたら、悪いことを企んでいる人のように見えてきて……そのイメージを必死に拭った。


「今から何代も前の王の元にひとりの王女がいた。彼女は第六だか第七だかの王女で、当然神事に参加することなどない王女だ。が、彼女は〝女神の神託〟を受けている」


「女神の神託?」


 どうもこの世界を作った女神様は、お告げ的なものを授けるのがお好きらしい。


「それがどういったものなのか、王女がどんな神託を受けたのか、内容は不明だ。神殿には守秘義務があるのでな。ただ、神託は神事が行われるのと同じ場所で受けるものだということは分かった」


「それを私に?」


「そうだ。大神官長には女神の神託を受けたいと願い出ておいた。神託は大樹の元で行われるから、希望通り女神の大樹を目の当たりに出来るだろう」


 なんだか、想像していたよりずっと大事になってしまっていて恐れ多い。


 そもそも、こんな大事にするつもりはなかった。キムも大公閣下も、こんな大事になるんだったら「ダメだヨ」って言ってくれたらよかったのに。


 神社やお寺に参拝する程度の気持ちだった過去の自分にチョップ喰らわせたい。


 お賽銭ジャラジャラとか女神まんじゅうとか、商売の匂いをプンプンさせてるんだろうとか、失礼なことを考えていた罰だろうか。


 分厚い扉がノックされて、護衛騎士さんの案内で入室して来たのは立派な神職っぽい衣装を身に纏い、大きな杖を持った人だった。あからさまに偉い身分の人だ。


「わたくし、フェスタ王国で大神官長を務めておりますアンドルー・ブレナンと申します。只今より、女神様よりの神託を頂くお手伝いをさせていただきますぞ」


 耳や白と青の神官服から覗く尻尾から、大神官長様はトラ獣人と思われた。大神官長様は年齢を重ねた穏やかな笑顔を浮かべ、王太子殿下の執務室まで私を迎えに来て下さった。


 こんな女神様を奉る宗教の一番上にいるだろう人物が、護衛らしい騎士を連れていると言ってもフットワーク軽く迎えに来るなんて信じられない。信じられないけど、実際に目の前にいる。


「ブレナン大神官長、すまないが宜しく頼む」


「王太子殿下、謝罪は必要ありませんぞ。異世界からやって来て下さった皆様は、女神に選ばれた方々。言わば女神の娘と息子。お手伝いが出来ることは、とても名誉なことでございますでな。それも神託とは!」


 大神官長様は手にした金色の木の枝と女神様を模したらしい杖を額に当てて、何やら祈りの言葉を唱える。


「……まあ、なんだ、頼んだ。そういうわけだから、レイナ嬢はブレナン大神官長と一緒に行って神託を受けてくれ。ユージン・オルコックは大樹入口で待っているはずだから」


「はい」


 私はニコニコ笑顔の大神官長様と無表情の護衛騎士さん、なにか楽しそうにしているキムと共に王太子殿下の執務室を後にして、女神の大樹の近くへ行けるという大樹入口に向かった。

お読み下さりありがとうございます。

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