第11話 散髪
辛い時に温かいコメントをくださった読者の皆さんに感謝の意を込めて、本日2話目の投稿です。
ゆっくりと目を開ける。焦点が合わず視界がぼやけている。
思考もまだ覚醒していなく夢と現実の間のような感じだ。
太陽の光が部屋の中に入り込んでいる。
次第に意識がはっきりとしてきて、視界も鮮明になる。
段々昨日の出来事を思い出す。確かめるように左腕を上げる。
「よかった……動く」
手を握ったり開いたりしてみる。なんの問題もなく動くようで安心した。
「うん?」
昨日の記憶が正しいのなら服は脱がされた筈だが、今はしっかりと服を着ている。ズボンも履いているのが感触で分かる。
あれ?……もしかして昨日の出来事は夢だった、のか?
ふと隣を見ると、俺の反対側の腕を抱きながら気持ちよさそうに寝ている結依の姿がある。
服は……着ていないな……柔らかいものに包まれている。
幸せそうな寝顔は見ているだけでこっちまで幸せな気持ちになれるようだ。
腕は完全に固定されているので動かせそうにない。
「結依、起きてくれ」
「んっ……んん……」
一度ぎゅっと力が入った後、ゆっくりと目を開ける。
目が合うと微笑みかけてくる。
「おはようございます。昨日はすごかったですね」
いやいや、すごかったのは貴女ですよ?
ほんのり顔を赤くしているが、口調はどこか冗談を言っているように聞こえる。
正直後半は記憶がない。疲れて寝てしまったのだろうか……それとも、やっぱり夢?
深く考えるはやめよう。なるべく視線を上の方にしながら話す。
「そろそろ起きないと、学校に行く時間だぞ」
「そうですね」
起き上がるとシーツがするりと落ち、芸術品のように美しい結依の裸体が露わになる。
慌てて視線を外す。
「俺、洗面所で着替えてくるからっ」
逃げるように寝室を後にした。
洗面所で着替えを終えリビングに戻る。
着替えている最中に気がついたことだが、なぜか胸元の一部分が赤くなっていた。寝ている最中にぶつけたのだろうか?
一足先に制服に身を包んだ結依が朝食の用意をしていた。制服エプロンだ。
「朝食の準備が出来ましたよ」
「ありがとう」
朝から機嫌が良さそうだが、それ以外は何も変わっていない。
まぁ、俺も現実感が無さすぎて逆に落ち着いている気がする。
全て夢だったと言われた方が納得できる。
「さぁ、早く食べてしまいましょう。橘さんが来てしまいます」
「そうだな」
俺たち二人は朝食へと手を伸ばした。
◆◆◆◆
橘さんが迎えに来てくれた後、それぞれの学校へと向かった。
スマホを見るとメッセージが沢山届いている事に気づく。
全て写真のようだ。どうやら皆んなが送ってくれたらしい。教室に入ったら直接お礼を言おう。
いつも通り登校して教室へと入る。あと数回だと思うとやはり寂しい。
すでに教室に来ていた人たちにお礼を言ったあと席へと座る。
「一ノ瀬! お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「実は今日、服装検査があるらしいんだよ」
「あー、そういえば、そうだったな」
この学校は意外と服装に関する校則が厳しい。まぁ、そのことをわかって入学しているのだから文句は言えない。
「これ見てくれよ」
そう言って一人の男子生徒は髪を引っ張る。
「結構長いな」
「最後に切ったのはこの前の服装検査の時だからな」
耳は完全に隠れているし、前髪も目にかかっている。襟足も肩につきそうなくらいに長い。
「このままだと引っ掛かっちまうよ。だから頼む! また切ってくれないか?」
「それは別に良いけど、普通のハサミだと髪が痛むぞ?」
「平気平気。そんなこと気にしないって! 早乙女からハサミも借りてきたしさ」
早乙女 未夜はこのクラスの委員長をしてくれている女の子だ。
真面目で責任感が強い。おまけに面倒見がいいのでクラスのみんなから頼りにされている。
最初の頃、席が隣だったので仲は結構いい方だと思う。
俺に食べ物を分けてくれる優しい人だ。代わりと言ってはなんだが、勉強を教えている。そんな関係だ。
「時間がない早めに頼むよ」
「了解、行くぞ」
「おぉ! サンキュー」
俺たちはあまり使われていないトイレへと向かう。
大きい鏡があるのはトイレくらいだし、何より人が来ないから邪魔にならない。
少し早足で歩き向かう。どの教室からも離れているせいで人があまり来ないのだ。
「誰もいないみたいだな」
「早速頼むよ」
ハサミを受け取る。
「どんくらい短くすればいいんだ?」
「うーん、お前に切ってもらうのも最後になるだろうから、どうせならバッサリ行ってくれ」
「いいのか?」
「おう!」
まずは適当な長さまで切ってから、そのあと整えていく感じでいいだろう。
あまり時間がないので手早く進める。
「相変わらず手際がいいな……」
感心したような声を上げる。
「昔から自分で切っているからな」
貧乏なのでわざわざ美容院に行くのがもったいない。自分で切ればタダなのだ。
小さい頃は母さんが切っていたが、途中から自分できるようになった。
「近くに美容院があったから、そこで見て勉強したんだよ」
「マジかよ……相変わらずスゲーな」
「そうか?」
ただ切るだけだと思うんだが…
適当に相槌を打ちながらハサミを縦に、横に、斜めに使いながらどんどん切っていく。
「よし、こんな感じでどうだ?」
「おぉ! やっぱりプロ並み仕上がりだな!」
「流石にそれは言い過ぎだろ」
「そんなことないって!」
角度を変えながら何度も嬉しそうに鏡で確認している。どうやら気に入ってくれたようだ。
「マジで助かった。ありがとうよ」
「これくらい別にいいよ」
ちょうどチャイムが鳴る。
「ヤベッ! 早く教室に戻ろうぜ」
俺たちは急いで教室へと戻った。
ちなみに放課後の服装検査のまでに、あと二人散髪した。みんな喜んでくれていたみたいなので良かった。
少しずつ雪哉のスペックの高さが出てきていますね。
余談ですが、私はほぼ毎回服装検査に引っかかっていました。髪が耳にかかっていたり、爪が長いとアウトなんですよね…
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